i2i-Labo 野路 悟
新薬候補化合物の早期創製をリードする
- 2001年入社、化学研究所に配属。主に創薬研究での探索合成研究に携わる。
- 2008年化学研究所サイエンスリーダー。上市化合物delgocitinibの創薬研究に携わる。
- 2018年化学研究所グループリーダー。探索合成グループのマネージメント業務に従事。
- 2019年研究所テーマリーダー。あるテーマプロジェクトにて、新薬候補化合物の創製を先導して推進した。
- 2023年i2i-Laboグループリーダー。化合物合成グループのマネージメント業務に従事中。
研究方針の策定もチームワークの醸成も、
テーマリーダーの役目
私は化学研究所のグループリーダー時代、現在前臨床研究の後期段階にあるテーマプロジェクトで、創薬研究段階のテーマリーダー(以降TL)をしていました。責任者の一人として、プロジェクトで設定した目標とするプロファイルにかなう新薬候補化合物の創製に取り組んでおり、主な役割は研究方針・計画の立案や進捗管理です。
このプロジェクトでは、化学研究所で合成された化合物について薬理活性や薬物動態などの評価を重ね、安全性の探索的検討を経て、最終的に目標とするプロファイルを有する化合物を創出していきます。特にプロジェクト成功の鍵を握るのが、ドラックデザインにより起点化合物から薬としての優れた性能を持つ化合物に育て上げていく工程です。
そこで、各研究所のプロジェクト担当メンバーと研究計画に関して議論を重ね、探索合成を進めていくのですが、こうした関連部署との円滑な連携もまた、プロジェクト運営の肝と言えるもの。TLはプロジェクトの現状を踏まえた上で、担当メンバーの意見を抽出し、全体を俯瞰した研究方針・計画を策定し、創薬研究を推進していくことになります。さらに、このようなプロセスの中で各部署の研究員の相互理解を深めさせ、全員が同じ目標に向かう創薬研究チームを作ることも非常に重要な役割だと感じています。
目指すは、薬としての性能とスピーディな創製の両立
新薬候補化合物の選抜後は、前臨床研究・臨床開発へと移行していくため、有効性や安全性、吸収性や体内薬物動態など、新薬候補化合物に求める「薬としての性能」が大変重要になります。その一方で、医薬品の開発は一般的に10年以上の歳月がかかるとされる中、JTは世界に通じる画期的なオリジナル新薬を1日でも早く患者様に届けることを目指しており、その実現には新薬候補化合物の早期創製も非常に大切になってきます。
通常、私たちの業務は標的タンパクの設定から始まり、ハイスループットスクリーニング(以降HTS)の実施、HTSから得られたヒット化合物を基にしたリード化合物の取得、そしてリード化合物の最適化による新薬候補化合物の創製、という流れになっています。当プロジェクトの推進・運営の際には、化合物の薬としての性能に妥協することなく、研究開発スピードを可能な限り早くすることを意識していました。
また、創薬研究では予期せぬ結果や期待以上の結果を得られることもしばしば。そのような場合はタイムリーに各研究所の担当者とテーマの進め方について建設的な議論を交わし、メンバーが同じ目線で同じ目標に向かっていける体制を整えることで、プロジェクトチーム全体で研究開発が加速できるように心がけていました。
最先端の創薬AI/IT技術をいかに活用するかが、
今後の鍵に
努力が実り、当プロジェクトではヒット化合物から新薬候補化合物の創製までを約6カ月という短期間で成し遂げることができました。HTSでは細胞での阻害活性を指標としましたが、こういったケースではしばしば、標的タンパクとは異なる別のタンパクを阻害し、薬効を発現する化合物が散見されます。
そこで、化合物と標的タンパクの結合を確認できる多様な創薬技術(Thermal shift assay, Affinity selection-MSなど)の評価を積極的に活用。起点となる化合物の確からしさに加えて、活性に対する期待値も併せて確認できました。そして、このようなポテンシャルを有する化合物からメディシナルケミストによる迅速な構造最適化に努めた結果、早期に目標とするプロファイルを持つ新薬候補化合物を創製することができたのです。
創薬研究の技術革新は、日々起こっています。その中でも注目されているのが、創薬AI/IT技術です。JTにおいても化合物プロファイル予測システムなどの様々な技術基盤を開発しており、新たな技術を活用した低分子化合物の創薬機会のさらなる拡大を試みています。現在、私は革新的創薬技術の実装による次世代創薬の実現のために設立されたi2i-Laboにて、最先端の技術やJTオリジナルの技術を存分に活用した創薬研究環境をさらに整え、早期の新薬候補化合物の創製に貢献できるように取り組んでいます。
良い研究者は、「知的好奇心」と
「サイエンスを解明する姿勢」にあふれている
創薬研究は、多様な専門分野のプロフェッショナルがチームを組み、同じ目標に向かって協力する総力戦だと感じています。その点、JTは「多様な人財」「多様な技術」「多様な知識」が集結した組織であり、立場・年齢・専門性が異なる研究員が自由闊達に議論できる風土が醸成されています。また、創薬を徹底的に考え、薬としての品質にこだわった独創的な創薬研究ができる環境も特徴のひとつです。
そんな中にあって、我々研究者にとって最も大切なのは、“知的好奇心“だと思っています。その意欲をもとにサイエンスを解明していく姿勢こそが何より重要なのです。新薬開発はまだまだ成功確度が低く時間もかかる世界です。しかし、各研究者が創薬を真摯に考え、その上で新しい創薬技術を積極的に活用するプロセスが、必ず確度の向上とスピードアップに繋がると信じています。