カルメンが巻いたシガー

カルメンの舞台であるスペインは、ヨーロッパ諸国の中でも早くから
たばこが普及した国です。その結果、他国とは違う独特の喫煙文化が育まれました。
ここでは、スペインのたばこの歴史と文化について解説します。
カルメンに登場する“シガー”と“パペリート” たばこと縁が深い情熱の国“スペイン” カルメンの舞台となった「王立たばこ工場」 TOP
スペインにおけるたばこの歴史
  スペインに初めてたばこをもたらしたのは、スペイン王室から援助を受け、1492年にアメリカ大陸に到達したコロンブスです。この航海のときに彼の船団が到達したのは、現在のサン・サルバドル島・キューバ島・イスパニョーラ島など、カリブ海に浮かぶ島々。以降、スペインは、これらの島を拠点に中南米に進出しました。
1500年代 スペインの“たばこ”との出会い
  南北アメリカ大陸の先住民たちは、たばこを吸うだけでなく、噛んだり、嗅いだり、さまざま方法で使用していました。
  その中でも、メキシコ以南のポピュラーな使用方法はシガー(=葉巻)であり、北米ではパイプを用いて喫煙していました。
  もちろん、細かく調べると場所によってさまざまな喫煙方法がありますが、スペインが進出していった場所では、とりわけ葉巻が多かったのです。よって、スペインでは葉巻がポピュラーな喫煙形態の1つになったといわれています。
1600年代 “シガー”そして“嗅ぎたばこ”
  スペインの喫煙形態の定番はシガーになりましたが、イギリスやオランダなど、北米エリアに進出した国では、パイプの喫煙が主流になります。このように進出した地域の喫煙形態の違いから、各国の喫煙方法が決まったのではないかといわれています。
  また、スペインが進出した中南米には、乾燥させた葉たばこを粉末状にして鼻から吸い込む嗅ぎたばこもありました。新大陸に渡った聖職者たちは、シガーのように煙を立てずに嗜むことができる嗅ぎたばこを好み、本国の教会に伝えたのです。
1700年代 全盛を迎えた“嗅ぎたばこ”
  シガーとともに嗅ぎたばこも流入したスペイン。なかでも嗅ぎたばこは、フランス王室が頭痛などに効く薬として取り入れて人気を博し、瞬く間に、ヨーロッパ諸国の上流階級の間で嗜みの1つとして流行しました。
  後に、嗅ぎたばこは上流階級だけでなく、庶民の間にも広がり全盛を迎えます。ただ、それまでのシガーを捨てて嗅ぎたばこに乗り移ったわけではなく、両方を嗜む者もいれば、新たに嗅ぎたばこを始める者もいて、たばこ全体の需要はますます増えていったのです。
1800年代 ヨーロッパを席捲した“スペイン・シガー”
  ヨーロッパ諸国において、シガーはスペインとポルトガルだけのローカルなたばこでした。スペインのシガーが、ある転機によりヨーロッパ中に広まります。それは1808年にイベリア半島で勃発した“スペイン独立戦争”です。
  数多くの国々を巻き込んだこの戦争は、イギリスがフランスに勝利し終焉しますが、イベリア半島のローカルなたばこだったシガーは両国を征服し、ヨーロッパ中に広がっていきます。これ以降の19世紀は嗅ぎたばこに代わり、シガーが主流になりました。
COLUMN 葉たばこ生産地の謎 スペインのたばこは外国産?  カリブ海と中南米以下の国々を植民地化していったスペイン。このスペイン領アメリカ植民地の多くが葉たばこの産地として名高く、スペインのみならず、ヨーロッパ諸国へ葉たばこを輸出していました。なかでもヴェネズエラ沿岸部やトリニダード島などは良質の葉たばこを産出し、やがてメキシコにもたばこ畑が広がっていきました。
  その後、スペインはメキシコから太平洋を渡り、フィリピンにまで進出。3本マストの大型帆船であるガレオン船を使った交易が始まりました。この交易において、キューバのたばこの種子がフィリピンへ持ち込まれ、シガー用の葉たばこが生産されるようになったのです。
  一時期は世界中のたばこを支配していたスペイン。スペインで吸われていたたばこは、すべて植民地で生産された外国産でした。現在でも元スペイン領の国々において、葉たばこ生産が盛んな場所が多いのは、その名残でもあるのです。
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