其の十五 ふきがらをじゅうといわせるちんこ切

イラスト
たばこの川柳
「ち んこ切」は賃粉切りと書く。賃粉切り職人は、刻みたばこが全盛の江戸時代にあって、たばこを商う店から、出来高制で葉たばこを刻む仕事を請け負っていた。この仕事で暮らしをたてていたのは、路地裏の長屋に住むような貧しい人に多かった。その中には、暮らし向きに不如意(ふにょい)な下級武士や、事情があって世をはばかる浪人などもあった。

井原西鶴の『好色五人女』(1687年刊)には、着物は粗末だが器量のよい女性を見かけたので、人に跡をつけさせてみると、誓願寺通(=京都・三條南通)のはずれで“たばこの賃粉切り”をしている女性だと判明し、胸が痛んだという話がある。賃粉切りをするのは、男性ばかりではなかったらしい。

この仕事は、葉たばこを載せる台と庖丁くらいがあれば誰にでも出来そうだが、葉たばこを刻むにも、庖丁を研ぐにも、全身の力を使う。慣れた者でも、ある程度作業を続けると、肩や腰や手足が張ってくる。そこで一服たばこを吸い付けるのだが、その吸い殻はしっかり消さなければならない。作業場には、刻み屑が散らかっており、引火しやすいからである。たばこ盆があっても、灰吹きを倒しはせぬかと心配だ。そこで水を入れた手桶を用意して、その中に吸い殻を捨てるのが手っ取り早くて安全だ。手桶の水は、庖丁の研ぎ水にもなる。賃粉切り職人ならではの気配りである。ただし、たばこを一服吸い終わるたびに、ジュウという音がするのが、なんともおかしい。

  仕事の合間合間で手足を休めて、たばこを一服吸い付け、息抜きをするのは、賃粉切り職人に限らない。そのことで心身の疲れが癒され元気が回復することを知る人は、今も昔も多いからである。
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