続 落語とたばこ

続 落語とたばこ/位牌屋
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位牌屋【いはいや】/ケチな主人を見習って位牌まで負けさせる

  子供が生まれたというのに、金がかかるだけと小言を言っているケチな商家の旦那。そんな旦那の店に芋屋が行商にくると、
  「芋屋さん、いま小僧を買いにやったんだが、ちょいとたばこを貸しておくれな、たばこ喫(の)みはないと余計に喫みたいもので」
  と、借りたたばこ入れとキセルで一服します。
  「いいたばこだ、商人がこんな贅沢なたばこを喫むようじゃいけないよ。お家はどこだい?」
  旦那は芋屋のことをあれこれ聞きながら、その間にもたばこを詰めては吸い、吸っては詰めて、しまいには芋屋の目を盗んで、たばこ入れの中の刻みたばこを膝の下へ隠してしまいます。

  芋屋は早くケリをつけてたばこを取り戻したいのですが、旦那の方は落ち着いた素振りで芋を眺めると、
  「いい芋だねえ、食べるのはもったいない、置物になるよ。これ一つ、負けておきな。まあ商人は損して得をとれてえこともある。お前さんは福相だ、ゆくゆくはいい芋問屋になる。ときに芋屋さん、お家はどこだい?」
  同じ文句を繰り返されて、いくつも芋を取られ、たばこ入れも空にされてしまった芋屋は、とうとう怒って帰ってしまいました。

  その一部始終をそばで見ていたのが小僧の定吉。おつかいを頼まれて仏具屋へ行くと、旦那をそっくり真似て店主とやりとりします。
  「ときに“位牌屋”さん、いま小僧を買いにやったが」
  「お前が小僧じゃねえか」
  「たばこ喫みはないと余計に吸いたいものだ。気の毒だが一服貸してくれないか」
  小僧は吸えないたばこを一服して、
  「ゴホン、エヘッ、ウッフン。商人がこんないいたばこを喫んじゃいけないよ。ときに“位牌屋”さん、お家はどこだい?」
  「しっかりしろ、家はここじゃねえか。おいおいおい、なんだってたばこを袂へ入れるんだよ」
  棚に並んでいる位牌を見た定吉は、
  「こりゃいい形だ、置物になる。これを一つ負けておきな。商人は損して得をとれというよ、お前さんは福相だ、ゆくゆくはいい“位牌問屋”になる」
  帰って来た定吉が、旦那のあつらえた位牌と、一緒に貰った小さい位牌を渡すと、
  「なんだ位牌を負けて貰ってきたのか。同じ負けて貰うなら、もっと大きいのを貰ってくりゃあいいのに」
  「なぁに、これは生まれた坊ちゃんのになさいまし」

解説

  商家で働く小僧が、旦那の会話を真似て笑いを誘う小咄です。ケチな主人が行商人からたばこをせしめるところや、それをまた小僧が真似るところが、この演目の見せ場となっています。もちろん、江戸時代といえども、たばこは大人の嗜好品でしたから、落語のなかだけのお話でしょう。

  “位牌屋”とは仏具屋のことで、小僧の勘違いから生まれた言葉ですが、同じように豆腐屋を“おから屋”と呼んでいました。ケチな旦那は“おから”しか買わせないのでしょう。
  原話は、文政7(1824)年刊の噺本『新作噺土産』に載っている『律義者』で、“ブラック”なオチの部分はそっくりこの本の引用です。

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