続 落語とたばこ

続 落語とたばこ/紫檀楼古喜
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紫檀楼古喜【したんろうふるき】/江戸時代の狂歌と羅宇屋の様子を今に伝える

  紫檀楼古喜(したんろう・ふるき)という狂歌師の号をもつ男、もとは大店の旦那だったのですが、今日はどこの会、明日はどこの運座と、家を留守にして狂歌にのめり込み、とうとう店を潰してしまいました。
  今ではキセルの羅宇(らう・らお)をすげ替える行商人の羅宇屋となり、着古した着物に荷物を背負って町をながす日々。
  ある冬の夕暮れのこと、紫檀楼が屋敷の前で女中に呼び止められて、キセルのすげ替えを頼まれますが、仕上げにゴミが入っていないか、フッとひと吹きしたところ、それを屋敷から見ていたキセルの持ち主のご新造(しんぞ)が汚いと文句をつけます。むさ苦しい爺さんにキセルを吹かれたのですから無理もありません。

  汚いと言われた紫檀楼は、矢立てを取り出してなにやらしたため、これをご新造にと女中に渡します。
  そこに書かれていたのは、
  「牛若のご子孫なるかご新造の 我を汚穢(むさ)しと咎(とが)め給(たま)うは」
  “汚穢し”と“武蔵坊弁慶”を掛けて、牛若丸と弁慶になぞらえた皮肉たっぷりの見事な狂歌でした。
  狂歌を嗜んでいたご新造も、負けじとしたためて届けさせます。

  「弁慶と見たは僻目(ひがめ)か すげ替えの 才槌(さいづち)もあり鋸(のこぎり)もあり」
  僻目とは見誤り、才槌や鋸は羅宇屋の商売道具です。
  その返歌に感心した紫檀楼、
  「弁慶にあらねど腕の万力は キセルの首を抜くばかりなり 紫檀楼古喜」
  と、今度は署名を入れて応えると、その名前を見たご新造は、昔知り合いだった大店の旦那と知ってびっくり。
  みすぼらしいナリをした紫檀楼を哀れんで、自ら羽織を抱えて近づき、それを着せようとしますが、
  「いや、ご新造、その心配にはおよびません。あたしはこの荷さえしょっていれば、ほれ」
  と、売り声の「羅宇屋〜、キセル〜」を真似て、
  「羽織(はおり)ゃ〜、着てる〜」

解説

  実在した狂歌師の紫檀楼古喜〈1767〜1832〉がモデルになった小咄です。紫檀楼は狂歌三大家の一人である朱楽管江〈あけら・かんこう/1740〜1799〉に師事した人で、もとは格式のある棟梁の家柄でしたが、この話にあるように、狂歌にのめり込んで財産をなくし、羅宇屋になったといいます。

  キセルの羅宇とは、たばこを詰める火皿の雁首(がんくび)と吸い口を繋ぐ部分のことで、羅宇屋は、その羅宇の掃除や交換をする職業として、江戸時代に広まったものでした。
  羅宇屋が姿を消してしまった今日では、オチ

にでてくる売り声をはじめ、馴染みのない演目になってしまいましたが、話のなかで紫檀楼がキセルをすげ替える様子が詳しく描写されるため、羅宇屋がどんな仕事だったのかを想像することができます。
  その語りの部分を紹介すると、
  「荷の中から小さい火鉢を出して、なんの咎(とが)もない炭団(たどん)の頭をポカリと叩いてキセルの雁首を突っ込み、しばらく暖まる間に自分の手をあぶり…」
  炭団も今では馴染みのないものですが、炭の粉末を団子状に固めたもので、それを叩いて砕いた中にキセルを入れたのでしょう。
  「…万力を出してキセルの雁首を抜いて、吸い口の方をまた火の中に入れて暖め、吸い口の暖まる間に雁首の掃除が出来上がります。それから吸い口を、また万力で引き抜いてよく掃除をし…」
  熱で抜けやすくなった雁首と吸い口を、万力を使って羅宇から抜き取り、中に詰まったヤニを取り除きます。
  「…手頃の羅宇竹を取り出し、それを温灰(ぬくばい)の中へ突っ込んで…」
  羅宇の多くは竹製で、古くなったものは羅宇屋の持っているものと交換しました。
  「…暖まったところをいくつも板に穴の開いている羅宇殺しというものの穴にギュッと押し込み、拭(ぬぐ)いにかけてすげ上がりました」

  羅宇殺しとは、シメイタとも呼ばれるイラストのような形の道具で、火で暖めた羅宇を、この板にある大きな穴から徐々に小さな穴へ差し込んで、形を整えるのです。

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