みたばこの原料となる「葉たばこ」は、全国各地の風土の中で育った在来種である。産地ごとに気候や土壌は異なるから、葉たばこの風味や性質にもそれぞれ特徴があった。薩摩の「国分(=国府)葉」は味と香りがよいので高級品とされ、上州の「館葉」は穏やかな風味で常用向き、越後の「大鹿葉」は咽を痛めないので夜更かしする者に人気があり、四国の「阿波葉」は湿気に強いので船乗りに好まれた……など。“地酒”ならぬ“地たばこ”さながらに、さまざまな産地の葉たばこが大消費地である江戸や京・大坂に集まって来た。愛煙家は、たばこ屋の店先で好みの葉を選び、刻んでもらって吸っていたのである。
江戸時代も後期になると、木製の「刻器」が登場したため、産地で刻んで出荷するところも出て来た。また、消費地のたばこ店では、各地の産葉をいろいろにブレンドした刻みを売り出すようにもなった。
いずれにしろ「国分葉」を刻んだものは香りがよく、周囲に漂う匂いからも、それと分かるほどだった。標題の句にある、“ぷんぷん”と匂うたばこも、恐らく国分であろう。懐具合が不如意(ふにょい)な時、愛煙家なら、たばこの匂いがよけい気になるもの。宵越しの銭はもたない、と粋がって遊んでみたものの、たばこ銭すら残っていない有りさま……。そのおかしみを、この句の作者が鋭くとらえている。 |