其の二 行灯(あんどん)の火で煙草を呑む

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たばこのことわざ集
ラ イターが普及した現代では、たばこの火に困ることはめったにない。朝出がけに、ポケットにライターを入れ忘れたとしても、駅のキヨスクで使い切りを気軽に買える。

しかし、ライターもマッチもなかった江戸の昔は、たばこを吸うのは火種のあるところに限られた。火入れと灰吹がセットされているたばこ盆があれば、まず安心である。火鉢のまわりも恰好の喫煙場所になった。野外で吸う時は、たばこ入れと火打ち石などを腰に携えて用を足した。また、近くにたばこを吸っている人がいれば、その人から火を借りるという風習は、ごく一般的だった。キセルに刻たばこを詰め、近くで吸っている人のキセルの雁首(がんくび)に自分の雁首を近づけて吸いつけるというもの。たばこの火の貸し借りで、人の情が通いあったものである。

ところで、たばこが吸いたい時に、近くに火種がないと我慢を強いられる。吸えないと思うとよけいに吸いたくなるのが、たばこ呑みの人情である。えい、面倒とばかりに行灯の火を借用しようということにもなったであろう。しかし、風覆いを開けて行灯の火を取るのは、あまり行儀のよいものではないし、時には火が広がる危険もある。

 「行灯の火でたばこをのむと、願い事が叶わなくなる」という言い伝えがあるのは、たばこ呑みの悪い癖を戒めたものではなかったろうか。鳥取県には「炬燵(こたつ)の火で煙草を吸えば成功しない」という俗信があるというが、同じような趣旨であっただろう。

愛煙家にマナーを守ってもらうために、昔の人もいろいろ知恵をしぼったようだ。
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