煙管[キセル]

日本独自の工芸品【明治時代】時代の変遷の中で形やデザインが洗練され、発達してきたキセル。明治時代になると、その製作技術はさらに進歩し、最盛期を迎えます。
装飾性の高き実用品【江戸時代】 日本独自の工芸品【明治時代】 今を生きる一つの伝統【近現代】 TOP

 
西洋文化の流入によって新たな喫煙具が誕生
 
  幕末から明治にかけて海外の文化が日本へと流入すると、西洋文化の急速な広がりが、当時の日本の喫煙形態にも大きな変化をもたらします。
  西洋から伝えられた喫煙方法には「葉巻」や「パイプ」、「紙巻たばこ(=シガレット)」での喫煙がありました。特に、手軽さやハイカラさも手伝って注目を集めた「紙巻たばこ」は、次第に国内で生産されるようになり、日本の主要産業の一つへと成長します。
  また、幕末に日本へ伝えられたマッチも、手軽な着火具として瞬く間に普及。この結果、喫煙に必要な道具をそろえたたばこ盆が小型化したほか、マッチケースといった新たな道具までが誕生したのです。

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「寝覚形たばこ盆」
マッチの登場によって、それまで火種を入れていた火入れが不要となり、コンパクトにまとまった。

 

「マッチケース」
新たな着火具として注目を浴びたマッチ。人々はこのような金属製のケースに入れて、マッチを持ち歩いた。

 

「たばこセット」
「刻みたばこ」や「紙巻たばこ」が入れられるたばこ入れと、マッチケースや灰皿などの新しい喫煙具がセットになっている。

 

 
工芸品とも呼べる質の高いキセルが登場
  
  西洋の文化が流入し、喫煙形態が変化したとはいえ、明治時代においても主流を占めていたのは、依然としてキセルによる喫煙でした。
  江戸時代の大きく奇抜なキセルと比べ、明治時代のキセルは全体的に細く短いものとなっていきます。さらに、異なる金属を貼り合わせるなど、彫金技術はより複雑になっていきました。この理由には、キセルに用いる素材や細工に法的な制限がなくなったことをはじめ、廃刀令によって刀装飾の職を失った金工師たちが、喫煙具の製作に携わるようになったことなどが挙げられるでしょう。
  こうして明治時代には、キセル文化の最盛期ともいえるほど、質の高いキセルが生み出されるようになったのです。
 
<キセルの特徴 その壱> 細く短い小ぶりなサイズと洗練されたフォルム
  
  キセルの質が持ち主のセンスを表すとうたわれていたこともあり、明治時代には、キセルの形状がさらに洗練されていきます。奇抜な形や極端に太いキセルなどは少なくなり、キセルを持つ手の美しさを引き立たせるかのごとく、キセルは細く短くなったのです。
 
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「金大和如信形水仙図きせる(18.9cm)」
明治時代になると、過度な装飾を廃し、ほっそりと洗練されたフォルムのキセルが多くなった。また、長さが20cm以下の、より携帯しやすいサイズの品が増加した。

 
<キセルの特徴 その弐> 異なる金属を貼り合わせて色の違いを表現
  
  さまざまな素材を自由に利用できるようになったことで、金と銀や、金と銅、銀と銅など、異なる金属を組み合わせ、模様やアクセントを表現しながら、その色の違いを楽しむキセルが作られるようになりました。
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「赤銅上下銀石州形鯉魚文きせる
(21.9cm)」
口をあけた魚の姿をかたどったキセル。銅と銀の渋い色合いの魚に、うろこを表す金色のラインが映える。

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「赤銅四所金四角隅田川唐草文きせる
(19.6cm)」
金色の唐草文を赤銅の黒地が引き立たせた品。火皿部分に配された金が、キセルの華やかさを演出する。

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「四分一上下金丸型如信形梅に鶯図きせる (19.5cm)」
銀1に銅3の割合で合金した四分一(しぶいち)は、キセルに多く用いられた金属の一つ。加えて、金の文様が上品にあしらわれている。

 
<キセルの特徴 その参> 名工たちが手がけた芸術的な品も多数登場
  
  刀装飾の職を失った金工師たちの中には、名工と呼べる者も多く、彼らはその技をキセルの製作に注ぎました。当時のキセルには絵画のような精巧な意匠が施され、芸術作品とも呼べる秀逸なキセルが数多く誕生しています。
  「四分一四所銀石州形月に河童図きせる〈銘 為桂文楽師 一谷刀〉(19.2cm)」落語家の8代目・桂文楽のために作られたというキセル。雁首部分に描かれた月を見上げる河童の姿が、力強さを放つ。 「雁首金鍍銀吸口金石州形半月に蟹図きせる〈銘 勝珉〉(20.6cm)」 明治時代を代表する彫金家・海野勝珉の手によるキセル。吸い口には2匹のカニが細やかに彫られ、羅宇には象牙が用いられている。  

似て非なるもの!? 海外のキセルあれこれ
  キセルが日本で独自に発展を遂げた喫煙具であることは確かですが、キセルによる喫煙は日本のみの風習ではなく、中国や朝鮮半島などでも広く行われていました。東アジアの国々で用いられてきたキセルは、雁首と吸い口、羅宇からなる基本構造こそ日本と変わらぬものの、その雰囲気は、日本のキセルと多少異なっています。ここでは、素材とデザインに注目して、海外のユニークなキセルを紹介します。
素材に注目!
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「龍彫木羅宇玉製吸口握拳形雁首キセル」
木製の羅宇に龍の姿を大胆に配し、雁首と吸い口には透き通るような白い石を用いている。渋い色目の日本のキセルと比べ、その色合いは明るい。火皿部分のデザインが握りこぶしになっており、遊び心を感じさせる。

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「自然木羅宇象牙製吸口白銅製雁首キセル」
羅宇に自然木を用いたキセルは、中国や朝鮮半島などのキセルに見られる形である。木の曲がりや節の凹凸が、そのままキセルの持ち味に。また、吸い口に象牙を用いることで、自然木の荒々しさが和らげられている。

デザインに注目!

「人面彫木の実製羅宇木製吸口真鍮製装飾付木製雁首キセル」
羅宇には木の実を彫って作った顔が連なる。このように、木の実を加工して人面をかたどった羅宇を持つキセルは、中国に多い。帽子の形をした、大きな雁首に配された小さな火皿も特徴的だ。

「飾付木羅宇玉製吸口花模様彫金属製雁首キセル」
チェーン飾りが付いたキセル。キセル自体に造作を加えて装飾する日本のキセルと比べると、その見た目は非常にシンプル。キセルにチェーンなどの飾りを配することで、全体の装飾性が高められている。

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