煙管[キセル]

装飾性の高き実用品【江戸時代】 たばこが庶民の身近な嗜好品となった江戸時代。キセルは、たばこを吸うために欠かせない道具であると同時に、数少ない装身具の一つでもありました。
装飾性の高き実用品【江戸時代】 日本独自の工芸品【明治時代】 今を生きる一つの伝統【近現代】 TOP

 
「刻みたばこ」の進化によって独自に発展
 
  たばこが日本に伝来すると、物珍しさも手伝い、世にはたばこをたしなむ人が現れるようになります。やがて“刻んだ葉たばこをキセルに詰めて吸う”という喫煙方法は一般的となり、広く人々の間に普及していきました。
  その当初、粗く刻まれていた葉たばこは、次第に細く刻まれるようになり、江戸時代半ば(18世紀中ごろ)には毛髪ほどの細さになります。この「細刻みたばこ」と呼ばれるたばこは、世界でも類を見ない日本特有の品であり、日本における独自の喫煙文化の発展に大きな影響を及ぼしました。
 
photo1

「婦女喫煙図」
江戸時代に描かれた喫煙する女性の姿。女性が手にしたキセルは長く、火皿が大きいことも見て取れる。


 
「刻みたばこ」の進化によって独自に発展
 
  日本の喫煙文化を語る上で欠かすことのできないキセルは、ヨーロッパのパイプや、東南アジアの喫煙具をまねたものと考えられています。そのためか、伝来当初のキセルはとても長く、たばこを詰めるための火皿も大きいものでした。しかし「細刻みたばこ」が世に広まると、キセルの火皿は小さくなり、長さも携帯しやすいように短くなっていきます。
  また、幕府の政策によって華美な装いを禁じられた江戸時代の人々にとって、帯に差すなどして持ち歩く身近な道具のキセルは、数少ないファッション・アイテムの一つでもありました。これゆえ、実用性を重視しながらも、ファッション性を兼ね備えたキセルが作られるようになったのです。
 
<キセルの特徴 江戸初期> 長さと火皿の大きさがポイント
  
  たばこが伝来した当初のキセルは、持ち手にあたる羅宇の部分が長く、全長が70cmを超えるものまでありました。また、火皿も大きく、キセルの頭部に当たる雁首が湾曲していました。

photo2
 
photo3

「男女遊楽図屏風(部分)」
江戸時代初期(17世紀中期)に描かれた遊楽図の一部分。女性が手にするキセルの先端は湾曲しており、火皿も大きめだ。

 
<キセルの特徴 江戸中〜後期> 携帯しやすいコンパクト・サイズ
  
  時代が下るにつれ、人々は外出先でもたばこをたしなむようになります。その結果、キセルは携帯しやすいサイズとして小型化され、主に20〜30cmの長さのものが好まれました。

「銀御召形梅樹図延べきせる(25.3cm)」 初期のキセルと比べると携帯しやすい長さになり、火皿も小さくなっている。
「銀御殿形瀧に牡丹図きせる(24.9cm)」 羅宇の部分が差し込み式になっているため、中央で分解し、持ち運ぶことができる。

photo6

「木曽街道六拾九次之内軽井沢(部分)」
(歌川広重作)
当時の旅人の姿を描いた浮世絵。キセルが携帯に便利な大きさになっていることが分かる。

 
<キセルの特徴 江戸中〜後期> ファッショナブルかつ複雑な作り
  
  アクセサリーの役割も担っていたキセルには、人々の趣向に合わせたさまざまな意匠が施されました。特に、吸い口や雁首には、複雑なデザインが用いられたのです。

  「銀砧形葡萄栗鼠図きせる(25.2cm)」 ブドウの実をはむリスが表現された品。リスやブドウなど、彫りへの着色にも気が配られている。

「銀砧形葡萄栗鼠図きせる(25.2cm)」
ブドウの実をはむリスが表現された品。リスやブドウなど、彫りへの着色にも気が配られている。

  「金鍍石州形水引唐草文きせる(24.6cm)」 金を用い、雁首と吸い口に細かな文様を表現。細工には青色や赤色が着色されるなど、細かな技巧が見られる。

「金鍍石州形水引唐草文きせる(24.6cm)」
金を用い、雁首と吸い口に細かな文様を表現。細工には青色や赤色が着色されるなど、細かな技巧が見られる。

  「銀魚々子地御殿形紋章入りきせる(25.6cm)」 魚々子(ななこ)と呼ばれる技法で装飾。魚々子とは細かい粟粒のような文様を施す、キセル装飾の代表的な技法の一つだ。

「銀魚々子地御殿形紋章入りきせる
(25.6cm)」
魚々子(ななこ)と呼ばれる技法で装飾。魚々子とは細かい粟粒のような文様を施す、キセル装飾の代表的な技法の一つだ。

 
  「銀三升御召形雲龍紋延べきせる(24.5cm)」 複雑な彫刻が施されたキセル。キセルに絡み付き、見る者を圧倒させる力強さを持った龍が彫られている。

「銀三升御召形雲龍紋延べきせる(24.5cm)」
複雑な彫刻が施されたキセル。キセルに絡み付き、見る者を圧倒させる力強さを持った龍が彫られている。

 

遊び心にあふれたユニークなキセル
  キセルには、一般的に使用されているもののほかに、一見すると喫煙具とは思えない形が存在します。ここでは、扇子形や短銃形など、見た目に工夫が施された、個性豊かなキセルを紹介します。
「真鍮扇子形観世水文延べきせる(20.4cm)」 「真鍮馬柄杓形延べきせる(18.7cm)」

「真鍮ラッパ形延べきせる(12.0cm)」
「銀短銃形延べきせる(19.2cm)」
「真鍮蛇の目傘形延べきせる(12.6cm)」
戻る
次へ