役者絵
菊の花が咲き誇る花壇の前で休む、坂東彦三郎が演じるお蘭の方の傍らにはたばこ盆が置かれ、手には細身の長キセルが握られています。このように、当時の女性は細身のキセルを持つことが多かったため、舞台の小道具としても女形が持つキセルには、細身の品が用いられていたのでしょう。
坂東が、この絵に描かれている三枡(みます)大五郎・実川(じつかわ)延三郎とともに、上方(=京都・大坂)で活躍した歌舞伎役者であることから、この絵は上方で製作されたものであると推測できます。
主人公の助六を演じる河原崎三舛(かわらざきさんしょう)と、その恋人で吉原の人気遊女・揚巻を演じる岩井半四郎、そして、白酒売りに身を変えた助六の兄を演じる中村翫雀(なかむらかんじゃく)が躍動感にあふれる姿で描かれています。 この演目では、遊女らの助六への愛情を表現する小道具としてキセルが用いられており、色男の助六を誘おうと、彼女たちがこぞってキセルを差し出すシーンが有名です。その名場面を象徴するかのように、この絵にも助六の右手には多数のキセルが握られています。 |
「時代物」とは、武家社会を題材に、江戸の風俗を取り入れたり、描き手の感覚でアレンジが施されたりした作品群の総称です。中でも、源平合戦のその後を描いたこの演目は名作の一つに数えられ、特に、命を賭して平清盛の嫡孫・維盛(これもり)親子を守った“いがみの権太(ごんた)”の活躍を描く「すし屋」の場面は、たびたび上演されています。
喫煙具が置かれた椅子の上に腰掛けるのが、関三十郎(さんじゅうろう)演じる権太。彼と、岩井粂三郎(くめさぶろう)ふんする若侍・小金吾の対峙するようすが描かれています。
幕末から明治時代にかけては、『真写月花之姿絵』というユニークな仕掛けを施した役者絵も誕生します。これは当時、流行していた“ろうそくの明かりによって障子に映し出された人物を描く”という遊びを基に描かれた絵ですが、この絵には、2つの魅力がありました。 |