2024/01/26

COLUMN

開幕から無傷の連勝
皇后杯の敗戦を糧につかんだ勝利

Vリーグ開幕以降、唯一負けなしの連勝を誇るJTマーヴェラス。皇后杯での悔しさも糧とし、目指すべき目標に向け、目の前の試合に全力で臨む。

今シーズン唯一の黒星を喫した皇后杯

開幕以来無敗、破竹の15連勝だ。(2024年1月14日時点)
新たな年を迎え、VリーグもV・ファイナルステージを見据えた佳境に差し掛かった1月。14日には2位のNECレッドロケッツとの対戦に臨んだ。

この試合は、首位を争うチーム同士の攻防戦だけでなく、主将の田中瑞稀がVリーグ通算230試合出場という記念すべき一戦でもある。吉原知子監督が就任した当初、V2時代を知る唯一の選手であり、攻守両面の柱、主将として精神的支柱であるだけでなく、抜群の勝負強さで幾多ものタイトル獲得にも貢献してきた。JTマーヴェラスにとって最大の功労者とも言うべき田中のメモリアルマッチを勝利で飾ろう。ウォーミングアップから気合いを込め、選手たちは準備を重ねていたが、実はもう1つ、この一戦に賭ける別の思いもあった。
リベンジマッチだ。

10月21日に開幕して以後、V1チームで唯一負けなしの15連勝。前日のKUROBEアクアフェアリーズ戦は、吉原監督が「連携面も含め、不安定な要素がこれでもか、というぐらいに出た」と反省の弁を述べる試合となったが、それでも3対1で勝利を収め、連勝を伸ばしてきた。
だが今シーズン、ここまでJTマーヴェラスが唯一喫した1敗がある。昨年末開催された皇后杯準決勝だ。そしてその相手がNECだった。

準々決勝ではV2のヴィクトリーナ姫路との激戦を制し、迎えた一戦。昨年の覇者、NECに対してもリーグ戦を通して築き上げてきた必勝パターンに持ちこむべく、選手はハードワークを重ねる。しかし、フィニッシュの場面で攻撃が決まらない。田中はこう振り返った。
「小さなところを詰め切れていない、不安要素が出ました。相手チームも私たちが最後はドルーズ(アンドレア・ドルーズ)が決めに来る、というのもわかっているので対策される。そこに対して、ひるまず自分たちのやりたいことをやらなければならなかったのに、ドルーズが決まらないことに焦りが出て、冷静になれなかった。ひと呼吸置いて、自信を持って臨むことができない試合でした」

ドルーズ、サンティアゴ・アライジャダフニの攻撃が封じられ、多くのトスが集まる中、思い通りの攻撃が展開できなかったのは田中だけでなく、同じアウトサイドヒッターの林琴奈も同様だった。
「コンビの精度があっていなかったこともありますが、もう少し1本目の(パスで)間をつくるとか、いい形で攻撃を展開できるようにしなければならなかった。何か違う、違う、と思いながら試合が進んでしまいました」
もちろん勝敗は相手があって決まるもの。「自分たちがやりたいことができなかった」と振り返るJTマーヴェラスの選手とは対象的に、吉原監督は「NECさんの集中力が非常に高かった」と振り返る。

不完全燃焼とも言うべき敗戦に悔しさは残るが、あくまで皇后杯が終わっただけで、まだシーズンは終わったわけではない。吉原監督が言った。
「ちょっとのところが勝負を分ける大きな差になる。それをこの試合で身を持って感じることができたのは、いい経験をさせてもらったと思って次につなげたい。いかにゲームで修正できるか。対応力、修正力がまだまだ足りていないと勉強させてもらいました」
年末年始を挟み、再開したVリーグでNECとの再戦。V・ファイナルステージを見据える意味でも、そして敗れた悔しさを払拭するためにも重要な一戦となった。

NECとのリベンジマッチに気を吐いた努力の人

そこで気を吐いたのが、先発起用された和田由紀子だ。前衛、後衛を問わず、切れ味鋭いスパイクを次々決め、得点を重ねる。
吉原監督も「真面目で本当によく練習する選手」と称する和田は、昨年も出場機会を増やし、日本代表にも選出され五輪予選も戦った。1つずつ着実にステップアップを遂げている中、もっともっと、まだまだ、と努力を重ねる選手であり、今シーズンも「チャレンジ」をテーマに掲げている。
「ずっと同じプレーをしているのではなく、相手が自分に対してどんな対策をしてくるか。どういうシフトで守っているのかを見ながら、自分も変えていかないといけない。昨シーズンはたくさんの新しい経験をさせてもらったからこそ、もっといろんなことにチャレンジして、上を目指せるように。現状に満足せず、常に自分に足りていないところを探して、去年よりもさらに大きく成長できる年にしたいです」

第1セットを先取し、第2セットは落としたが、序盤から優勢に試合を運ぶNECに対し、諦めずに1点ずつ返し、セットポイントを獲られてから怒涛の連続得点でデュースまで持ち込んだ。ラリー中もレシーブでフォローに入り、すかさず大きな声でトスを呼び、バックアタックを放つなど、和田の存在感が光る場面が何度もあった。
「コートの中で、少しでも相手を追い詰めて次のセットにいこう、と点を獲り急ぐことなく、何本も打って、決まらなくても最後にいい形でスパイカーに持っていこう、という雰囲気、粘りがあった。自分も上げてもらったトスを何とか決めたいと思ってプレーしていました」
諦めない姿勢が何より強い力となり、第3、4セットを連取したJTマーヴェラスが3対1で勝利。15連勝で230試合を飾った田中にも笑みがこぼれた。
「個人的にはあまり意識していませんでしたが、応援席で230のバルーンを持ってくれているファンの方の姿が見えて、長く続けてこられてよかった、と思いました」

負けなしの15連勝も「一つ一つを全力で」

V・ファイナルステージ進出も決まったが、勝負はまだここから。吉原監督が言う。
「まだ1位で通過できるかどうかは正直わからない。これから対戦するチームもどこも必死であることに変わりません。NECさんに勝てたことは自信につながりますが、1位通過をつかみ取るのは自分たち次第。昨シーズンも途中まではよかったけれど、後半になってバタバタして、ポロポロ落とす試合があったので、目の前の一戦をしっかり戦い、チームとして成長していけるように戦っていきたいです」

どんな相手にも負けない強さを持つ。対戦相手はもちろんだが、1月から内定選手も加わり、ポジション争いも激化した。強いチームとなるために、そして強い「個」であるために。田中が言った。
「みんなそれぞれの良さがあって、誰一人同じ選手はいない。その人が入ればその人のカラーが出て、私から見るとみんな年下ですが、学ぶことはたくさんある。プレーの面では自分より優れた選手ばかりですが、メンタルの強さや周りへの声かけ。私も私にできることをして、お互いいい影響を与え合えていけたら、と思います」
目指すべき目標に向け、まだまだこれから、もっともっと強くなる。連勝記録に満足することなく、一つ一つ、目の前の試合に全力で臨み、すべき仕事を果たして勝利をつかみ取るだけだ。

※本記事は2024年1月14日時点の取材に基づいたものです。