2023/12/06

COLUMN

開幕10連勝! 女王奪還に向け
最高のスタート
「もっと強いチームになれる」

会心のスタートを切った今シーズン。チームを束ねるキャプテンを中心に、一人一人が強い“個”として戦う力をつけ、女王奪還を目指す。

スターティングメンバーで東、西崎が躍動

開幕から負けなしの10連勝(11月末時点)。女王の座を奪還すべく、JTマーヴェラスが最高のスタートダッシュを切った。
10月21日から始まった今リーグ。開幕のトヨタ車体戦から勝ち星を重ね、無敗で堂々の首位。今シーズンは昨年よりもレギュラーラウンドが短いため、まさに会心のスタートであるのは間違いないが、実は開幕前は「完璧だ」と太鼓判を押した状態でスタートできたわけではない。吉原知子監督が吐露する。
「チーム全員で練習できるようになってから、まだ数日。試合をしながらチームができている、という状況です。昨日より今日のほうが少しずつよくなった、と思えるように、これから少しずつ成長していくのかな、というシーズンです」
謙遜ではない。開幕直前まで五輪予選やアジア大会、アジア選手権など数多くの国際大会が行われ、JTマーヴェラスからも多くの選手たちが出場した。日本代表として戦うことで得られる課題や経験という大きな武器を得たものの、チームとして、組織として戦う上で「これだけやってきたから大丈夫」と確信を持つにはまだまだ時間が足りない。

そんな不安も少なからずあった中、開幕10連勝は見事に払拭する成果であると同時に、快進撃を支える戦力の台頭も著しい。象徴的なのがセッターの東美奈と、リベロの西崎愛菜だ。
共に昨シーズンから少しずつ出場機会を増やしてきたが、今シーズンは開幕からスタメンに定着。昨シーズンの経験が活かされている、というのは東だ。
「途中出場の時は、コート外から見た状況を踏まえて、どんな攻撃を組み立てていくかを考えていました。でもスタートから出る時はチームを乗らせるためにまず誰に持っていくか。どうやって組み立てると勢いが出るか、というのも意識しています。序盤、中盤、終盤でそれぞれ組み立ての引き出しが増やせれば、と思っていますが、個々の能力が高いアタッカーに助けられているおかげで、自分に自信を持ってプレーできるようになりました」

守護神の西崎も、堂々としたプレーでチームを支えている。もともと組織的なディフェンスを構築すべく、周囲を動かしていく力を持つリベロであり、その力を随所で発揮。昨シーズンの黒鷲旗後や、夏場の厳しい練習を振り返り「足がフラフラになるまで拾い続けて、苦しかったけれど力になった」と笑いながら「もっと練習からすべてのプレーで精度を高めていきたい」と語る。チーム内の競争が高まっただけでなく、頼もしい新戦力がそれぞれの長所を活かし、新たな刺激が加わった。

経験豊富な新加入ミドルがチームにもたらす刺激

新加入という面で言えば、すでに豊富な経験を持つ選手の移籍加入も大きい。ミドルブロッカーのサンティアゴ・アライジャダフニや、小川愛里奈がまさにそうだ。

高い打点から幅のある攻撃だけでなく、ディフェンスの要であるブロックでもチームの柱となっている。相手のサーブから確実に点を取ることは大前提ではあるが、勝つためには自チームのサーブから得点を重ねるブレイク得点が求められ、そこで鍵になるのがブロックでもある。同じミドルブロッカーの吉原監督からも「ブロックに関していろいろなことを教えてもらっている」と小川は言う。

「同じポジション、ミドルだからこそわかることもあって、トモさんから伝えていただく経験やスキルは私にとっても刺激になっています。ステップの使い方や、ボールの割り切りも少しずつできてきた実感があるので、ここからもっと高めていきたいです」
共にディフェンス面の要となるリベロとの信頼関係もすでに構築されており、小川は西崎に対して「自分のブロックがうまくいかなくて、変なところにボールが飛んでいってもマナが拾ってくれるので安心感がある」と述べ、コート内、コート外でのコミュニケーションも育まれていることを印象付けた。

チームを束ねる“かけがえのない”キャプテン

日本代表選手も多く、アメリカ代表のアンドレア・ドルーズも復帰した。戦力が揃い、連勝するのも当たり前、と見る人もいるかもしれないが、ただ代表選手がいるから勝てる、というほどバレーボールは簡単なスポーツではない。
もちろん林琴奈や和田由紀子を筆頭に、日本代表で戦ってきた選手たちには力も技もあり、なおかつ誰よりも練習する努力家だ。見えるところだけでなく、見えないところで重ねてきた成果がコートの中では発揮されているからこそ、個々が結集して強いチームになっている。そしてその背景で欠かせないのが、今シーズンから主将に就任した田中瑞稀の存在だ。

チーム内でも在籍年数が最も長く、唯一、V2での経験もあり、苦しさも厳しさも身を持って体験してきた選手でもある。勝った経験だけでなく、勝てない経験や負ける悔しさを何度も味わったからこそ、チームにとって何が必要か。若手選手たちにも日頃から意識的に伝えるようにしてきた、と田中は言う。
「話すのが得意ではないので、自分が特別何かできているかと言えば何もできていません。でも少し流れが悪い時や、雰囲気が悪くなりそうな時にはまず落ち着かせる。JTマーヴェラスで頑張っている選手たちはすごく意欲がある、マジメな選手ばかりなので、いい時は放っておいてもどこまででも戦えるから、うまくいかない時に踏ん張らせる。その積み重ねで、一人一人が『私がこのチームを勝たせる』と思って行動するようになったら、もっと強いチームになれると思っています」

試合の中でも、シーズン前から重ねてきた攻撃で相手からリードを得るシーンもあれば、相手のサーブや攻撃に崩されて連続失点する場面もある。そんな時こそ冷静に、それぞれの目を見て「一緒に戦っている」という安心感を与えるべく、先頭に立つ主将の姿に勇気づけられている、というのが東だ。
「瑞稀さんがいるとすごく頼りがいがあるし、チームをまとめてくれて、余裕をもたせてくれる存在。劣勢の中でも『自信を持って1本いこう』と声をかけてもらったことで私も落ち着けたし、安心してプレーができた。私にとっても、チームにとってもかけがえのない存在です」
一人一人が強い“個”として戦う力をつけ、それぞれに働きかけ、束ねる主将がいる。ただ結果を求めるだけでなく、どこよりも堅く、信頼し合ったチームとして、勝ち続ける。その力が、JTマーヴェラスには十分ある。

※本記事は2023年11月時点の取材に基づいたものです。