2024/03/15

COLUMN

全勝優勝を逃す、悔しい準優勝
忘れることのない景色を胸に刻み、
さらなる「成長」を誓う

今シーズンの成績は23勝1敗。最後に敗れた「1敗」が決勝戦だった。
下を向くのではなく、ただ前へ。ここからまた、新たな挑戦が始まる。

最後の「1敗」の重み

ブランデージトロフィーが掲げられ、金色のテープが舞う。
勝者と敗者。ネットを挟み、残酷なまでに味わう悔しさが、また胸を締め付ける。その光景で抱いた感情を、主将の田中瑞稀が噛みしめる。
「隣でテープが舞って、喜んでいる選手たちが見えて、すごく悔しかったです。(皇后杯も)相手が同じNECさんに負けて、1戦にかける思いの強さは自分たちも学ぶところがあった。リーグ戦ならばたとえ負けても次がある。でも絶対に勝たないといけないところでの気持ち、メンタルや、コンディションの持っていき方は自分たちでも、もっともっと成長できるところ。でも何より、監督賞をトモさんにあげたかった、というのが一番、率直な気持ちでした」
レギュラーラウンド22戦、そしてファイナルステージの2戦。24試合を戦った今シーズンの成績は23勝1敗。
ただ一度、最後に敗れた「1敗」が決勝戦だった。

積み上げてきた自信「すべて出し切りたい」

決勝前日に行われた記者会見、田中主将と共に出席した吉原知子監督は笑顔で言った。
「いよいよこの日が来た、とわくわくしています。今シーズンが始まった時から、1試合1試合成長していこうと目標に掲げてきた中、試合をするごとに自分たちの課題や修正しなければならないところを、自分たちで見つけられるようになった。明日(の決勝)で終わりではなく、まだまだ成長をしていかなければいけないチームです。最高のパフォーマンスをして、見ている方々が熱くなる試合が展開できればと思いますが、何よりまずは自分たちが、リーグが始まってからここまで成長してきた部分を出しきりたいです」

10月の開幕から5ヵ月。すべてがうまくいったことばかりではない。むしろ、どれだけ勝ち続けても選手たちが述べるのは「まだまだ、もっとできることがある」とこれからに向けた課題と、向上心を誓うものばかりだった。
レギュラーラウンドの最中もポジション争いを繰り広げる。内定選手としてチームに加わったばかりの宮部愛芽世も、自らがチームに刺激を加えるだけでなく、日々鍛錬して築き上げてきた強さに衝撃を受けた1人だった。
「与えられたことを忠実にこなす。システムがしっかり構築されていて、ここまでできる、と制限や限界を設けるのではなくて、もっと厳しいコースも打てるようにトライしよう、とか、みんながチャレンジしている。だからこそ、自分も自分ができること、果たすべき役割をしっかりやらなきゃ、と思うし、いつどんな時に出ても恥じないプレーをしよう、と今まで以上に強く思うようになりました」

全勝で首位通過、上位6チームによるファイナルステージの初戦でも、4位の埼玉上尾メディックスに対し、1セットは失ったものの再び立て直す強さを見せ、3対1で勝利を収め決勝へとコマを進めた。主将の田中や林琴奈のようにこれまでのVリーグでもファイナルステージや決勝、優勝を経験し、日本代表で国際舞台にも立ってきた選手だけでなく、ファイナルステージの戦いは初めて、という選手もいる。セッターの東美奈もその1人だ。

レギュラーラウンドでも出場を重ねてきたが、ファイナルステージのスタートは「緊張した」と苦笑い。だが、皇后杯で封じられたミドルブロッカーのサンティアゴ・アライジャダフニやオポジットのアンドレア・ドルーズをいかに生かすか。「相手のブロックを見ながら、サーブで揺さぶられてもこの場面はここを通す、と意識してやってきた」と語ることができる背景には、昨年5月にこのチームがスタートする前、黒鷲旗で敗れてから、それぞれの殻を破るために重ねた苦しい練習があったから、と言う。

「3日でトスを2000本。ただ上げるだけでなく、9mのロングセットをひたすら上げ続けました。身体の感覚もなくなってくるし、苦しいんですけど、達成した時にトモさんから『練習する、本気で努力するってこういうことだよ』と言われて、やり遂げられた時に充実感もありました。だからシーズン中も、どんな場面でもスパイカーを信じることができたし、自分がやってきたことも信じてやっていこう、と思えるようになりました」
積み上げてきた自信と、悔しさと、勝つことで得られた喜び。すべてをぶつけて、臨む決勝。最高の試合を最後に――。全員の思いは同じだった。

決勝で覚醒した西川、闘志と笑顔で牽引したドルーズ

1人1人が自分のためではなく、共に戦う仲間のために。
誰より強く、その思いを抱いてコートに立ったのが、アウトサイドヒッターで田中の対角に入った西川有喜だった。
NECとの決勝戦でもさっそく期待に応えてみせた。1セット目から僅差の攻防が繰り広げられる中、高さを生かしたスパイクや、サーブで得点を重ねる。抜群の能力と可能性を持っているにも関わらず、穏やかな性格で吉原監督からも「もっと自分がポジションを勝ち取る、という強さを見せつけてほしい」と求めてきたように、チャンスを得てもなかなか殻を破り切れずにいた。だが優勝がかかった大一番、西川の顔つきはこれまでとは明らかに異なり、ドルーズ、サンティアゴと共に自分が攻撃の柱として向かっていく。そんな姿勢が随所で見られた。

そして大黒柱のドルーズも同じだ。2シーズンぶりに復帰し、常に笑顔でポジティブなエネルギーをチームに与え続ける主砲は、今シーズンから主将に就任した田中に「彼女がいれば問題を解決してくれるし、隣にいると安心する選手」と信頼を寄せ、自らにも役割がある、と笑みを浮かべる。
「プロとして長年、プレッシャーの中で戦う経験を重ねてきましたが、だからこそ、チームにいいエネルギーを与えたいし、私の役割は常に明るいエネルギーを与えること。規律がある細かなシステムにチャレンジする日本のバレーの中で、スマイルがポジティブなエネルギーを生み出せたら、と常々思っています」

闘志を前面に打ち出しながらも、1点が決まれば満面の笑みで互いを称え合う。終盤まで拮抗した展開が続く中、25対27、30対32とデュースの末に2セットを連取された第3セット。林が投入され、直後にブロックポイント。崖っぷちに追い込まれようと絶対に負けない。そんな強さを証明するかのように、林に加え終盤の2枚替えで投入された和田由紀子、塩出仁美の活躍も加わり25対16でこのセットを取り返したが、第4セットはNECの勢いを止められず、17対25で敗れ、あと一歩のところに迫った頂点へ、たどり着くことはできなかった。

「今日見た景色は二度と忘れることがない」

呆然と立ち尽くし、涙を浮かべ悔しさを噛みしめる選手の中で、西川が言った。
「覚悟と責任を背負ってコートに立ったつもりでした。でもそこで取り切れなくて、すごく悔しかったし、何より思うのは『もっとできた』って。今は悔しさしかないですけど、決勝で戦えたこと、味わったことも力にして、絶対に勝って終われるチームになりたい。今日見た景色は二度と忘れることがないと思うので、もっと、絶対強くなりたいです」
力がなかった、と悔しさを噛みしめ、吉原監督も言った。
「絶対に勝たなければいけない試合はこれからも出てくるし、トップに行けば行くほど、そういう試合に直面する選手も出てくる。自分の力を発揮しなければならない時、いかにプレッシャーをかけながらも、どれだけのプレーができるか。それが実力です。そういう意味でも、まだまだだと感じましたし、止まっているわけにはいかない。前を向いて、どんどん成長していかなければならない、と感じさせられました」
この悔しさが消えることはない。だが、だからこそ下を向くのではなく、ただ前へ。今シーズン積み上げてきた23勝を誇りに、そしてさらなる成長を誓って。ここからまた、新たな挑戦が始まる。