たばこを吸われる方々には本当に吸われない方々より多額の医療費がかかっているのでしょうか?
たばこを吸われる方々と吸われない方々の医療費の差を計算するには、2種類の計算方法があります。
一つは、疫学を基に様々な仮定を置いて医療費を試算する方法であり、前提の置き方次第で結果が異なるものです。もう一つは、健康保険組合等が実際に支払っている医療費について、たばこを吸われる方々・吸われない方々の間の差を計算する方法です。
疫学に基づく推計では喫煙者の医療費が一貫して高く出るのに対し、健康保険組合等の実支払額の調査9件のうち5件では喫煙者の医療費の方が低くなっており、疫学推計と実支払額調査とでは矛盾した結果が示されています。
また、滋賀県を対象に厚労省の補助金で行われた調査の報告書には、「喫煙率と医療費や母子保健指標は必ずしも正の相関を示すものではなく、むしろ負の相関を示していた」(※1)と記載されています。これは、喫煙率の高い地域の方が医療費が高いとは結論付けられず、むしろ逆の結果であると読み取ることができる、ということを示しています。
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出典:大久保 (2003)喫煙の社会的損失と効果的な禁煙対策に関する研究、厚生労働 科学研究費補助金健康科学総合研究事業 平成14年度 総括・分担研究報告書、105-122頁
疫学による推計値と、健康保険組合等の実支払額の調査で、なぜこのように矛盾した結果が示されているのでしょうか?
疫学に基づく最新の調査報告(※2)には、喫煙者が喫煙関連疾患で死亡しない場合に、他の病気にかかって発生する医療費や年金の『潜在的節約分』については、手法上の限界があり、算出は行っていない。」と記載されています。
この「潜在的節約分」が計算されていないことが、上記推計値と健康保険組合等の実支払額調査の結果とが大きな差を示している理由の一つとなっている可能性があります。
- ※2
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この疫学に基づく最新の調査報告には、医療費以外にも、喫煙者が早期に死亡すると仮定し、その期間に得られたはずの所得についても、社会的損失として推計されています。しかしながら、その推計結果は、一人当たり推定所得が過大に見積もられており、また寿命短縮期間についても、日本の疫学調査のデータから「3年程度」とする報告があるにもかかわらず、あえて欧米の疫学報告を用い、「12年」と過大に見積もられていると考えられます。
中医協には、事務局から、喫煙により国民全体の医療費が1兆3,000億円余分にかかっている旨の報告がなされていますが、この金額は疫学による推計値の中で最も高額なものです。
私たちは、今般の禁煙指導の健康保険適用に関する検討に当たり、健康保険組合等の実支払額調査を無視し、疫学に基づく推計値しかも最高額のみを基に議論が進められることは問題であると考えます。
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2006年1月23日