戸時代のことわざで、初夢に見ると縁起のよいものの順である。
「富士」は日本一の山、「鷹」は威厳のある百鳥の王、「茄子」は“生す” “成す”で物事の生成発展するさまを言い表わしている。また別の解釈に、徳川将軍家とゆかりの駿河の国(=静岡県)と関係づけるものがある。富士はいわずもがな、鷹は富士のすそ野の鷹狩り、茄子は初茄子……。
初物を食べると寿命が伸びるというわけで、江戸っ子が珍重した初物と言えば初鰹が有名であるが、もうひとつ初茄子があった。毎年4月には駿河から初茄子が将軍家に献上されたという。
では、後半の「扇・煙草・座頭」はどうか……。「扇」は涼をとるだけではなく、祭礼や舞踊の小道具となる。「煙草」は酒とともに、祭りや祝い事など、人々が集う席には欠かせない。座の雰囲気を盛り上げたり、和ませたりするからである。駿河にちなんで言えば、「遠州葉」という葉たばこがこの地の名産だった。森石松も、刻みたばこで愛煙したはずである。「座頭」は琵琶法師の座に所属する剃髪(ていはつ)した盲人の称。中世には琵琶法師の通称となり、近世には琵琶や三味線などを弾いて歌を歌い、物語を語り、按摩(あんま)、鍼(はり)治療、金融などを業とした。
とすると、頭に共通するキーワードは“祝い”であり“めでたさ”である。これが縁起のよい理由となって、富士・鷹・茄子の次に挙げられたものらしい。
夢は時として、私たちが代々育んできた心象を垣間見せてくれる。渡来以来、約400年になるたばこであるが、そのイメージは既に江戸時代において縁起のよいもののシンボルとなっていた。普段は意識しないが、私たちの心底にもたばこの“ハレ”のイメージが根づいていて、一服の歓びを深めているのだろう。 |