2024/02/28

COLUMN

V・ファイナルステージへ向け、
悔しさも力にさらなる進化

18勝10敗で4位をキープ。ファイナルの舞台へ向け、もっともっと強くなる。
(2024年2月18日時点)

勝利まであと一歩、フルセットでの3連敗

つかんだはずの勝利が、スルリとこぼれる。
どんな試合にも勝ち負けはあり、勝てば嬉しいし負ければ悔しいのは当たり前だが、勝利まであと少し、と迫った場面からの逆転負けは何より悔しく、色濃く残像が残る。
V・ファイナルステージ進出に向け、各チームがしのぎを削るリーグ中盤、JTサンダーズ広島はまさにその、拭っても簡単に消せないような悔しさが続く、苦境に立たされていた。
昨年末の天皇杯で3位。準決勝でパナソニックパンサーズに敗れはしたが、リスタートを誓った2024年の年明け。再開したVリーグのレギュラーラウンドでホーム、広島グリーンアリーナで対戦したのは同じパナソニックパンサーズ。大会は異なるとはいえ、Vリーグでも首位を走る相手に対してリベンジを果たす絶好の機会を迎えた。

1月6日の新年最初の試合はストレートで敗れたが、その悔しさも含めすべてを晴らす、とばかりに翌日7日は2セットを連取。宿敵から勝利を奪うかと思われたが、3、4セットを奪われ、最終第5セットも接戦の末に落とし、フルセット負けを喫した。
一度ならば、この悔しさも次への力となるが、翌週のサントリーサンバーズとの連戦でも、2セットを連取しながら3セットを連取される逆転負け。好調時には2セットを先取すれば一気に押せ押せムードで連勝街道を突っ走る中、2セットを取りながら敗れる。ただの敗戦以上に大きなダメージが残った。

連敗ストップ、個々の役割を果たした2枚替え

数字以上の失意が重なる中、いかにそれぞれが前を向くか。そして、各々の役割を果たすか。
率先して行動したのが、主将の井上慎一朗だ。「連敗が続く中でもチームの雰囲気は悪くなかったし、いい練習ができていた」と言うように、決して沈んでいたばかりではなかったが、それでも「負けが続いて、一番落ち込んでいたのは自分だったかもしれない」と笑う。
捉え方はさまざまだからこそ、冷静に、周囲を観察しながらコミュニケーションを深めてきた、と井上は振り返る。

「落ち込んでいる人もいるけれど、それぞれちゃんと考えられる選手ばかりで、自分の意見や意志を持ちながらも周りの意見をくみ取れる選手が多い。僕が気になったことがあればアプローチをしていましたが、でも負けが続いていたからといって練習の時に会話が少なくなるわけではない。それぞれが気にかけて、心で思い合っているのを感じていました」
その成果が発揮されたのが1月20、21日のジェイテクトSTINGS戦だ。
24対26で第1セットを失い、第2セットも拮抗した展開が続く中、流れを引き寄せたのが2枚替えで投入された井上慎一朗と金子聖輝だ。金子のサーブからアーロン・ジョセフ・ラッセルのスパイク、さらに金子の絶妙なサービスエースで連続得点を挙げて逆転。25対21でこのセットを奪取すると、第3セットも同じく2枚替えが奏功し、井上のスパイク、ブロックで得点。25対16でこのセットも連取すると、第4セットも井上のブロックが効果的に決まり25対16。嫌な流れが続いた3連敗をストップさせると共に、劣勢からでも再び流れを引き寄せ、勢いを取り戻す。個々が役割を果たし、チームとして戦う姿勢で会心の勝利を呼び込んだ。

金子が「シンさんとはいつもトスを合わせてきたので、安心して、信頼して上げた」と笑みを浮かべれば、井上も「出ている選手、出ていない選手の温度差も実力差もなく、日頃からみんなが準備してきた成果が出た」と笑顔。連敗が続く中、メンタルを切らすことなくフルセットになっても持続するために、と6対6のゲーム形式での練習を長めにした、というラウル・ロサノ監督も選手たちを称えた。
「連敗を止めるこの勝利を得るのは決して簡単ではなかった。しかし、強い相手に対して敗れたとはいえフルセットまで持ち込んだのは、ハイレベルな戦いができていたことの表れでもあります。いいパフォーマンスをして、いいサーブ、ブロックが出たゲームを勝利につなげることができてよかったです」

「何度でもチャンスをつくる」守護神・唐川

終盤、V・ファイナルステージに向けて1つでも多く勝利を挙げ、1つでも多くのポイントを獲得したい。どのチームも同じように、1戦1戦が負けられない試合であり、特に6位や7位、境界線を争うチームにとっては大げさではなく一戦必勝の戦いでもある。
何か1つ歯車が狂えば、崩れてしまうかもしれない、という状況が続く中、JTサンダーズ広島にとって攻撃の柱となるのはラッセルや江川であり、チームを率いる主将の井上でもある。だがもう1人、欠かすことのできない存在がいる。リベロの唐川大志だ。
どんな攻守も、拾って当たり前、つなぐのが当然、と見られるリベロだが、その1つ1つを細かく見れば、隣の選手が攻撃に入りやすいように守備範囲を広げていたり、サーブのジャッジも常に的確に判断しなければならない。求められることの多さ以上に、認められ、褒められることの少ないポジションでもある。

だが唐川がいると、間違いなくコートは落ち着く。アウトサイドヒッターの選手が「アウト」とジャッジしたボールをきちんと追いかけ、インと判断すれば自ら拾う。しかも丁寧に、セッターがより多くの攻撃展開ができるようにつなげる。共にサーブレシーブを担う坂下純也は「オフザボールの時も、自分たちがどう守ればいいか。何をしなければならないかをすごくわかりやすく話してくれるので、とてもプレーしやすいし頼れる存在」と絶賛する。
1本のブロック、スパイクに比べるとインパクトは少ないかもしれないが、何気ない1本がチームに流れを引き寄せることも多く、「あのレシーブは誰だったのか」と振り返れば、その先にいるのが唐川でもある。
謙遜ではなく「自分の仕事が果たせているかわからない」という守護神だが、自らが果たすべき役割は誰よりも理解している。唐川が言った。
「チームに流れを持ってくるためには、サーブ、ブロックが機能することは大前提で、そこにプラスして、相手の攻撃を切り返して得点をすること。当たり前だけど、この3つができているチームが強いチームであり、相手のチャンスを少しでも減らすためには、レシーブが機能しないといけない。だから僕はチームにチャンスをもたらすためには、何度でもレシーブで拾うし、何度だってチャンスをつくれれば、という思いでプレーしています」

クォーターファイナル、ファイナル進出に向け、さらに熾烈な戦いが続き、佳境を迎える。そのたび、うまくいかないこともあるかもしれない。いいプレーや内容で戦えたとしても相手が上回れば負けることもあるかもしれない。
だが、恐れることはない。
それぞれの国を背負い、勝負所で欲しい1点をもぎ取る攻撃の大黒柱がいる。そして誰よりコートを走り回り、ボールをつないで、誰より周りに声をかける頼れる守護神もいる。そんな彼らと、日々の練習でぶつかり合い、高め合う。だからこそ、試合では助け合う。
個々の役割を果たす、強いチームとして。ファイナルの舞台へ向け、もっともっと強くなる。