2023/04/28

COLUMN

2022/23シーズンは7位でフィニッシュ
悔しさも力に
「最後まで戦う姿勢を示したい」

V・ファイナルステージ進出が絶たれた状況で迎えた最終戦、チーム全員の思いは1つだった。
長年チームに尽くした功労者を、勝って送り出したい。そして、苦しいシーズンを最後まで応援し続けてくれた人たちに、心からの感謝を示したい。そんな思いの中挑んだリーグ後半の模様をお届けします。

3月26日、エフピコアリーナ福山でのV・レギュラーラウンド最終戦。ジェイテクトSTINGS戦は必勝を誓って臨んだ戦いだった。だが、結果は1対3。この試合限りでユニフォームを脱ぐセッターの合田心平を、全員で惜別の胴上げ。
今シーズン、JTサンダーズ広島で指揮を執ったラウル・ロサノ監督は言った。
「選手として、そしてコーチとして彼はチームに尽くしてくれた。自分が監督として、選手兼コーチを担った合田選手と仕事ができたことを光栄に思います」

最後の1戦まで「いつでも出られる準備をして待つ」

レギュラーラウンドの最終節まで最終順位が決まらない。大混戦のリーグの中、残念ながらJTサンダーズ広島はその時点ですでにV・ファイナル4進出の可能性を絶たれていた。
だが、目指した優勝にたどり着かずとも、どんな時でも会場へ足を運んでくれるサポーターや、画面を通して応援してくれる人たちの思いを背負い、戦うことは変わらない。残り試合が少なくなる中でもひとつとして消化試合はない。最後まで全力で戦い続けるべく、選手たちはコートで磨き上げてきたパフォーマンスの成果を発揮した。

たとえば3月18日の東レアローズ戦。10日に逝去した藤井直伸さんを悼み、東レの選手たちが勝利に向けて並々ならぬ気合で臨む中、同じ思いを抱きながらも冷静に、熱く、勝利を求めて戦う。チームの武器であるサーブ&ブロックが機能し、第1、2セットを先取した後、第3セットを奪われ、第4セットは6対10と4点を追う展開を強いられた。勢いをつかんだのは東レで、流れも傾いていた。だがそこで諦めるのではなく立ち向かう。その姿勢が、終盤の逆転劇へとつながる。アーロン・ラッセルのサーブ、スパイクで得点を重ね、対角に入る新井雄大も高い打点からのスパイクで得点を量産。中盤に追いつき、逆転すると24対24でも決着がつかずデュースへもつれた末、最後はラッセルのスパイクで38対36、大熱戦を制した。

共に日本代表で戦い、同じ宮城出身の藤井さんへの感謝を述べた主将の小野寺太志は「集中力を切らさず、粘り強く戦えたのがとてもよかった」と勝利を喜び、こうも加えた。
「結果的に僕たちはファイナルステージへ進むことはできませんが、でもまだまだこれだけできる、戦えると示すことができた。応援してくださる方々がたくさんいるのだから、その人たちに戦う姿勢、諦めず挑む姿を見せられてよかったし、最後まで同じ思いで戦いたいです」
最後まで諦めずに戦う。まさにその言葉通りの姿を見せた選手たちがいる。翌日の東レ戦、1対3で試合は敗れたが、途中出場の合田、アウトサイドヒッターの武智洸史、井上慎一朗のパフォーマンスは、どんな状況でも全力を尽くし戦い、挑み続ける姿そのものだった。

勝負事である以上、誰しも勝ちたい。そして選手である以上、誰しも自分がコートに立ち、磨きあげてきたプレーを思い切り発揮して、勝利に貢献したいと思うのは当たり前のことだ。だが、全員が全員、コートに立てるわけではなく、相手と戦う前にチーム内の競争があり、その時々で求められる戦術や、調子の良し悪し、相手やチーム内の選手同士のコンビネーションの相性。それらが、パズルのように掛け合わされ、コートに立つ選手もいれば、立てない選手もいる。だが、誰1人として諦めることはなく、いつか巡ってくるチャンスで全力を出す準備をして待っている。
東レ戦で見せた武智の相手ブロックを利用した絶妙なスパイクや、井上のスピードを活かした切れ味鋭い攻撃。そして多彩な攻撃陣を活かす、丁寧で正確な合田のトス。1つ1つのプレーはまさにその象徴だ。武智が言う。

「誰が出てもリスペクトしているけれど、もし自分が出た時はディフェンス、リズムをつくることはずっと意識してきました。僕は相手にシャットされたり、ミスをしてはいけない選手なので、その面では反省がありますが、常にモチベーションを落とさず、出る準備はしていました」
技術だけでなく、戦う姿勢も露わにする。体現したのは井上だ。
「途中から出るということは、劣勢で出る機会が多いので、常に何かプラスになることができれば、と思ってプレーしています。監督からも戦術的なことを言われるのではなく『エナジーを出してくれ』と言われているので、雰囲気を上げることも自分に求められている長所だと思っています。それでも相手にブロックされてしまったのは反省ですが、何か1つでもチームのために、というのはずっと意識しながらプレーしていました」

愛情とエナジー、全員が慕うセッター合田のラストゲーム

何より、いついかなる時に出番が訪れても自らの仕事を果たすという面において、欠かせぬ存在が合田だった。
最後の試合となったジェイテクト戦。「最後まで楽しみたい」と話した合田をロサノ監督はスタートで起用。チームを鼓舞するプレーは、最後の最後まで健在だった。
172センチという身長は決して高いわけではなく、むしろ高さが武器となるバレーボールという競技において、マイナスととらえられることのほうが圧倒的に多い。どれだけ力を振り絞ってジャンプをしても上から打たれた回数は数えきれず、味方のパスが高くなってカバーしようと懸命に跳んでも、届かず相手に抑えられるたび、悔しさを噛みしめる。

それでも戦い続けてきた源には、身長で負けようとセッターとしての技術では絶対に負けないという自負。バレーボールを始めてからずっと、数え切れないほどに繰り返してきたレシーブ練習で培った守備力。優勢でも劣勢でも、アタッカーをよりよい打点から気持ちよく打たせるべく、コートを走り回って、身体を投げ打っても丁寧に上げ続けてきた1本1本のトス。すべてが合田の武器で、重ねてきた練習の賜物だった。
スターターとしてだけでなく、2枚替えでも共にコートへ立つ機会が多かった、アウトサイドヒッターの新井が言った。
「ミスが出て、雰囲気が落ちてしまった時に合田さんが入ってくると、合田さんのエナジーが全員に伝わってきました。トスを打つ側としても、1本1本に気持ちがこもっているので、そのトスが打てなくなるのは寂しいです」

誰よりその存在を大きく感じていたのは、同じセッターの金子聖輝だ。試合でのリリーフだけでなく、選手兼コーチとしてトスの質や、トスワーク。セッターとして必要なことをすべて叩き込んでくれたのが合田だった。
「たくさん救ってもらって、たくさん教えてもらって、練習にも付き合ってもらった。本当に合田さんがいなくなってしまうのか、今でも信じられなくて、正直に言えば寂しいです。これからも普通に体育館で一緒に練習しているイメージしか湧かないですけど、これからは合田さんに教えてもらったこと、見せてもらったことを体現して、セッターとしてチームの勝利に貢献できる選手になりたいです」

合田のラストゲームであり、レギュラーラウンド最後の試合を勝って終わりたい。最後まで諦めずに戦うも、結果は一歩及ばず。有終の美を飾ることはできなかったが、悔しさを重ねながらも味わい、培ってきた経験がこれからの力になる。そして、それを示すことが、応援してくれた人たちやチームを去る仲間への感謝でもあるはずだ。
優勝を目指し、新監督のもとで迎えたシーズンは7位。決して求めた成績ではなく、満足いく結果ではない。この悔しさを次に向かうエナジーにして。JTサンダーズ広島は、次こそ必ず、もっと強くなる、と心に誓い進んでいくはずだ。