2023/02/28

V・ファイナル4へ負けられない戦い
それぞれの役割を果たし
「前だけを見て戦う」

苦しい戦いが続くが、V・ファイナル4へ負けられない戦いはまだまだ続く。
本格復帰の天皇杯で存在感を見せたラッセル
得られる収穫と、突き付けられる課題。手ごたえを感じながらも、思うような結果につながらないもどかしさ。リーグ中盤に差し掛かりながらも、JTサンダーズ広島はもがいていた。
だが、昨年末の天皇杯・皇后杯 全日本バレーボール選手権大会で光明が差す。V.LEAGUE前半はケガで離脱していたアーロン・ジョセフ・ラッセルが完全復帰し、攻守両面にわたり力強い姿を見せた。アメリカ代表としても活躍し、オフェンスはもちろんだがサーブレシーブも担うラッセルの存在はチームにとって不可欠である中、ケガの状態を考慮し前半はベンチ入りできない試合も続いた。
JTサンダーズ広島にとっても大きなアクシデントではあったが、思うようにプレーできないもどかしさを抱えていたのはほかならぬラッセル自身だった。天皇杯で復帰を果たすと、素直な喜びを口にした。

「チームや多くのファンの方々に期待してもらいながら、試合に出ることができず、私自身もとても苦しい時間を過ごしました。でも練習中もチームメイトとコミュニケーションを取り、私は自分ができることをやってきたので、またこうしてコートに戻ってチームメイトと戦うことができてうれしいです」
本格復帰を遂げた天皇杯、ファイナルラウンドの初戦は中央大学に快勝。期待通りのプレーや存在感を見せ、ケガの状態を問われると、笑顔を見せた。
「もう大丈夫。(状態は)100%、何も心配ありません」
ラッセル不在の間、アウトサイドヒッターとしてさまざまな選手が出場し、それぞれの持ち味を発揮した。中でも強い印象を残したのが武智洸史だ。もともとディフェンス面には定評があるが、小野寺太志主将がシーズン前のインタビューでも「練習からものすごく調子がよくて、高いパフォーマンスを見せている」と話していた通り、オフェンスでも高いパフォーマンスを随所で見せた。その背景には、試合での出場機会を得たことはもちろんだが、今シーズンから就任したラウル・ロサノ監督の存在も大きい、と武智は言う。
「ダメなことはダメとはっきり言うだけでなく、いいことはいいと褒めてくれる。こういうプレーが求められているというのが分かったうえでプレーできるし、たとえミスをしてもチャレンジした結果ならばOK。指先を狙ってのブロックアウトとか、ここ数年自分でも忘れかけていた攻撃の強み、自分の攻撃、というものをもう一度思い出すことができました」

ラッセルが復帰、より攻撃に厚みが増す中、もう一人、本格復帰を遂げた選手がいる。セッターの金子聖輝だ。昨シーズンはレギュラーセッターとして多くの試合に出場したが、リーグ終了後に右膝の手術を敢行。リハビリを経て再びコートに戻るも、開幕戦はルーキーの阿部大樹がセッターとして出場し、合田心平もロングリリーフで起用される場面が増えるなど、なかなか出場機会が得られずにいた。だが金子も練習からアタッカー陣とコンビを合わせ、新加入のラッセルとは「相性もいい」と手ごたえをつかみ、天皇杯でも司令塔としてコートに立った。トスの質を反省しながらも、重ねた経験があったからこそ味わう感情を噛みしめた。
「一つ一つ、まずは勝ててホッとしました。僕のトスがブレてもアーロンはすごくうまい選手で、レフトもパイプも何とかしてくれる。でもそこに頼るばかりでなく、アタッカーを生かせるようなトスを上げられるように、ここからもっと自分のプレーの質を高めていきたいです」

中央大学、パナソニックパンサーズを打破し、リーグ後半戦に向けて弾みをつけるべく2018年以来となる頂点を狙ったが、準決勝のジェイテクトSTINGS戦ではマッチポイントからまさかの逆転負けを喫した。悔しさも残ったが、得られた収穫は大きく、年明けから再開するリーグでの巻き返しに向けて新たなきっかけをつかむ。天皇杯で得られた自信をここから爆発させよう。モチベーションはさらに高まった。
地元・宇部でVOM、リベロ西村が見せた熱さ
ファイナル4に向け一つも負けられない状況が続く。特に上位チームとの戦いは重要で、一つでも多く勝利することが必須条件である中、まさにチームを勢いづける勝利となったのが1月29日の堺ブレイザーズ戦だ。
特に躍動したのが開催地の山口県宇部市出身のリベロ、西村信だ。高校、大学ではアタッカーとして活躍、JTサンダーズ広島に入団後、本格的にリベロへと転向したが、その覚悟をプレーで見せつける。まさにそんな好レシーブでチームを勢いづけた。
前日は堺に敗れたこともあり「もっともっと自分が拾えるボールがあった」と反省を述べたが、2戦目も高い攻撃力を誇る堺に対し、好レシーブを連発。勝利に貢献するプレーを見せ、この試合でVOMを受賞すると、応援席の家族や母校・高川学園高校の後輩たちの応援に笑顔で感謝を表し、終盤戦に向けた決意を、力強く述べた。
「残りの試合、全部勝って何とか上位進出を果たしたい。接戦になる前に自分がどんどんディフェンスをしてチームを勝たせたいし、粘り強く熱いプレーでどんな時も前を向いて戦う姿をお見せしたいです」

なかなか結果が出ない時や、ケガをしてうまくいかない時はもがき、どう打開すべきかと悩む。でもだからこそ、できることはきっと訪れるであろう“いつか”のために努力を重ね、前を向いて戦い続けること。地元でのホームゲームを自らの力に変えた西村と同様に、ようやく巡ってきたチャンスを同じ試合でつかみ、生かしたのがアウトサイドヒッターの新井雄大だ。
今シーズン前半はオポジットとして2枚替えで投入されることが多かったが、ラッセル不在の間、アウトサイドでも起用された。天皇杯からは再びオポジットでの出場機会だったが、堺戦で流れを変え、攻撃力を上げるべくアウトサイドで投入されると、攻撃はもちろん「自主練習の時間に意識的に取り組んできた」というサーブレシーブでも貢献。ロサノ監督も「パフォーマンス、気持ちを含め非常に良い状態だった」と評価し、翌日はスタメン出場。そこでも結果を残し、同期の西村と共にVOMを受賞。「攻撃力をアピールできたからこそ、チャンスが巡ってきた。逃さずしっかりつかみたい」と力強く語った。
ファイナル4へ向け熾烈な争い、負けられない戦いはまだまだ続く。決して簡単な状況ではないが、それでもチャンスがある限り、つかみにいく。そのためにチームとしていかに戦うか。主将の小野寺が言った。
「負けた後に修正して、次の日に勝てたことは収穫。これからも苦しい戦いが続くことに変わりはないし、うまくいかないこともあるかもしれない。でもどんな状況、どの相手に対しても大切なのは高い集中力で臨むこと。常に自分たちの戦いをして、一つでも多く勝っていきたいです」
勝負はここから。たとえ状況は苦しくとも、諦めずに戦い抜く。壁を超えた先には、大きな喜びがあると信じて戦い続ける。ただ、前だけを見て──。
