2023/11/16

INTERVIEW

【2023-24 V.LEAGUE】
吉原知子監督インタビュー

就任9シーズン目となる吉原知子監督に現在のチーム状況、そして今シーズンの展望を伺いました。

昨シーズンの悔しさを糧に密度の濃い練習を重ねてきた

昨シーズンの反省、そこからどんなことを特に強化してきましたか?

攻撃のテンポが1箇所だけフィットしなかったことも、一因ではありましたが、チームが1つになりきれず、それぞれの我が強くなってチームとして戦うことができなかった。それが一番の敗因であり反省でした。私たちは1つにならないと勝つことができないチームであるにも関わらず、なぜバラバラになってしまったのか。スタッフも含め、何が足りないかを考えて今シーズンを迎え、それぞれの関係性を確認して、お互いに要求し合えるような環境、雰囲気づくりに努めてきた。1つになって戦うことの大切さを認識できたので、いい状態でシーズンに入ることができていると思います。

特に重視してきたのはどんなところですか?

差を埋めるには練習しかない。試合でいきなりできるわけではなく、いろいろな経験からの裏付けがないと大事な時に緊張したり、自信が持てないので、最低限一人一人が自信を持って臨める準備をしてきました。日々の練習から問題点に対する解決策を具体的にして取り組んできたので、人数は少なかったですが、その分一人一人に目も行き届いて、かなり密度の濃い練習ができました。ポジションによっては自分以外、代わりの選手もいない、という状況だったので、2時間なら2時間、動きっぱなし。選手はかなりきつかったと思いますよ(笑)。でもそれぞれが目標を見失わずに取り組んでくれた。ただがむしゃらに動くのではなく、このプレーをするためにはここができるようにならないといけないよね、リーグで勝つためにはこれが必要だよね、と意識しながら頑張ってきた。非常に成長してきた実感もあります。

特に変化や進化を感じる選手はいますか?

セッターの東(美奈)、リベロの西崎(愛菜)は伸びてきましたね。昨シーズンはアキレス腱断裂でほぼプレーすることができなかったアウトサイドの小山(愛実)もサイドの選手が少ない中で本当によく頑張って、成長しています。頑張ってきた姿を見ているので、試合に出てプレーしている姿が見られるのは何より嬉しいです。西崎もブロックに対して積極的に指示が出せる選手で、本当によく動く。頑張れる選手なので、やってきた分、しっかり成長しています。

今シーズンは田中瑞稀選手がキャプテンに就任しました。期待するのはどんなところですか?

彼女ほどのキャリアと経験があれば、本当はもっと早い段階でキャプテンという立ち位置になってもおかしくはなかったと思いますが、今かな、と。昨シーズンの目黒(優佳)が足りなかったということでは決してなく、むしろ彼女は非常に責任感の強い選手なので、チームがうまくまわらなかったことで彼女の良さをすべて消してしまうのではないかというぐらい背負わせてしまった。もう1シーズン目黒キャプテンで、という選択肢もありましたが、まずは自分のプレーに集中するという意味と、田中にキャプテンを、と考え、伝えた時に本人も「やります」という意志を感じた。すべてが今だな、と思いましたし、重ねてきたことを発揮してくれると思っています。

壁を超えるために選手へ求めた「努力」

吉原監督が就任して9シーズン目、変えた部分と変えない部分、ここまでを振り返るとどのように分析していますか?

変える部分もあれば変えてはいけない部分もある。もともと私が選手時代、アリー・セリンジャーさんのもとでやってきたので、あれこれ監督がやらせてロボットのように選手を育てるのではなく、選手主体で、選手同士で話し合って自分たちで考えて提案してきて、と言い続けてきました。ほぼすべて選手に任せていていい方向へ進むシーズンもあれば、少し介入しなければいけない時もある。そのバランスは毎年違いますね。
客観的に見ると、うまくいかない時は会話の数自体が減っていて、誰かに何とかしてほしい、という姿勢が目立つんです。でもそれでは責任が持てない。急にできることではないので、各自が「もっとこうしたい」「こうしていこう」という気持ちになれるか。自分たちでチームをつくるんだ、という意識にどう運んでいくか、という過程におけるバランスは毎年変化しながら考えているところでもあります。

あえて変えない部分はどのようなところでしょうか?

夏場はそれなりの練習を重ねなければならない時期で、特に若い選手はやらなければうまくならないと思うんです。だからそれなりの量や反復練習はする。私の中ではいつも同じ量を同じだけやっても、それ以上にはなれないと思っているし、トレーニング期にどれだけ頑張って負荷をかけて取り組めるか、というところは変わらないし変えたくない。そう言うと、すっごく練習させる人みたいに思われるのですが(笑)、うまくなりたいと願う選手はうまくなってほしいし、そのためには努力も必要です。
実は今年(5月の)黒鷲旗で負けた後も、すぐオフにするのではなく、2日間みっちり練習しました。リベロは5000本ぐらいサーブレシーブをしたし、セッターもパス力をつけるために4000本ぐらい上げた。終わる頃にはヘトヘトで、足も動かず転がりながらレシーブをしていたんですけど、でもやり終えた時に「努力するってこういうことだ」という達成感を得た。今までも努力をしてきた選手たちですが、本気で努力するというのはこういうことか、と身体で実感していました。
瑞稀のようにV2で戦い、そこから這い上がる苦しさを味わった選手もほとんどいなくなり、優勝した後や、チームがいい時に入って来た選手たちに向けて「努力とはこういうことだよ」という私の基準を伝えたかったので、あえて厳しく追い込みました。目標を下げてもいいならいくらでも妥協しますが、勝ちたいなら私も要求する。かなり苦しかったと思いますが、乗り越えたことは選手の自信にもなっているはずです。

貪欲に、心を熱くするバレーをお見せしたい

今年は国際試合も多く、日本代表としてもさまざまな選手が活躍しました

シニア代表で五輪予選を経験した林(琴奈)、和田(由紀子)は本当に真面目で、取り組む姿勢も素晴らしい選手たちです。どの立場でもやるべきことを見失わずに準備していますし、信頼を勝ち取るためにコツコツ努力する。大会を終えて合流したので、全体練習ができる時間は限られていましたが、変わらず努力する姿勢にみんなが引っ張られています。

和田は昨年の夏はアウトサイドの選手が1人しかいない中で、誰よりも打ち込んでいたし、自主練習をする姿もみんなが見ていたので、レギュラーになり、出場機会を増やして日本代表に選ばれたのも、全員に「あれだけやっていた」と納得させられるだけの努力をして成長してきました。国際舞台や日本代表でしかできない経験もあるので、本人たちにとっては悔しさも貴重な機会になったはずです。私自身も、アジア大会には選手、スタッフも少ない中でなんとか選手たちにいい経験をさせたい、と思って臨みました。準備期間がかなり限られた状況でしたが、1つになって、お互いを助け合いながら最後まで戦う姿が見られた。私自身にとっても、いろいろな選手と一緒に、短い期間で戦うことができていい経験になりました。

大勢の観客が詰めかけた五輪予選では応援の力も再認識する機会になりました

本当にその通りです。選手たちは大勢の方々の前で最高のパフォーマンス、試合を披露するために毎日しんどい練習をしていますから。たくさんの応援の中でできるのが選手としては幸せなことなので、そのためにもまずはチームの知名度を上げていくこと。1人でも多くの方に、自分たちのパフォーマンスを見せられるような舞台をつくってあげたいですね。

改めて今シーズンの目標を教えて下さい

リーグ優勝です。本当にここだけを目指して今シーズンは戦う、という気持ちなのでそこはぶれません。そして見ている人が本当に熱くなれるような試合がしたいですね。スマートじゃなくていいと思うので、とにかく貪欲に。日々努力している選手たちには人の心を動かせる力があります。1本1本熱のこもった、心のこもった貪欲なプレーをお見せできるように。JTマーヴェラスの試合を見て「明日から頑張ろう」と思われるようにここまで練習を重ねてきています。皆さんにもぜひ、会場で選手たちが熱く戦う姿を見ていただきたいです。