2022/10/28

INTERVIEW

「2022-23 V.LEAGUE」開幕直前!
吉原知子監督インタビュー

「2022-23 V.LEAGUE」開幕直前! 就任8年目となる吉原知子監督に現在のチーム状況、そして今シーズンの展望を伺いました。

昨シーズンの2021-22 V.LEAGUEは最も悔しい終わり方でした。振り返って、吉原監督にとってどんなシーズンでしたか?

スタートは連勝から始まり、勝ち星を積み重ねながらも修正しなければならない部分がたくさんありましたが、その都度クリアしながら取り組んできました。非常にいい形で進んでいき、手応えもあったのですが、シーズン中盤から消化できない試合も増え、急遽土日だけではなく水曜に試合をして土日も試合があったり、金曜から日曜まで3連戦になったり、またコロナ禍で予期せぬスケジュール変更もあり、コンディションづくりが非常に難しいシーズンでした。でもそれはすべてのチームに共通することで、みんな同じように苦戦しながら取り組んでいたのですが、だからこそ、最後の最後、決勝戦の2試合目が中止という決定を下されたのは本当に残念でした。

選手の立場からすれば、急に試合がなくなり、モチベーションを保つのが難しい状況でも頑張り抜いてこられたのは、“最後に勝って笑いたい”という大きな目標があるから。そこで突然、「2試合目は中止なのでこれで終わりです」、と言われてしまったらやりきれないですよね。大げさではなく、何のためにこの1年やってきたのか、と思う選手もいたと思いますし、実際に切り替えるのはとても難しかったです。特に昨シーズン限りで引退を決めていた選手も多くいましたので、送り出すほうも、去って行くほうも全員がやり切って終わりたい、という気持ちが強かっただけに、悔しく、やり場のない思いが強く残ったのも事実です。
私個人としても、選手に申し訳ない、という気持ちがとても強いですね。

同じ轍を踏まぬよう、吉原監督自身もチームに対して伝えたことはありましたか?

まずは誰が新型コロナウイルスの陽性者になっても、どんな状況に置かれたとしても最後まで戦える力をつけよう、というのは伝えました。そのためには一人一人が技術を磨くこともそうですし、いつ出番が来ても準備できる強さも求められます。私自身に目を向けても、決勝の1戦目を振り返ると、もっと貪欲に勝ちに行くべきだったんじゃないかとか、相手にリードされた段階でローテーションを回していたらどうだったのかといまだに考えます。いかなる状況でも勝ちにこだわらなければならない、というのは自分に向けた言葉でもありますね。

選手も入れ替わり、まさに新しいシーズンという印象が強くある中、今シーズンのチームにどんな変化を感じていますか?

チームは毎年少しずつカラーが変わるものですが、昨シーズンまでは小幡真子という非常にリーダーシップに長けた、強い主将がいましたが、今シーズンは違います。また少し色が違って、誰か一人が強烈なリーダーではなく、リーダーはいるけれど一人一人が自覚を持ち、それぞれがリーダーだと思って責任を持って発信していこう、というチームですね。
昨シーズンまで副主将だった目黒優佳選手が主将になりましたが、何も言わずとも彼女は「私が主将をやる」という雰囲気を出していましたので、それは心強いです。彼女なりの主将像を持って、自分のやるべきことをやってほしいと思っています。

チーム全体が若返りを果たした、フレッシュなチーム、という印象がありますが、ここまでの成長や変化などはどのように感じていますか?

若さゆえのプラスもマイナスもいろいろあります(笑)。でもここからどう変化していくのか、とても楽しみですね。
バレーボールの面で言えば、試合に出ていた人間が入れ替われば、システム的な部分や戦術、戦略的理解度という点に関してはまだまだ足りないのも現実です。2022AVCカップに出場したメンバーも含め、日本代表へ選出された選手が抜けている期間も長かったので、全員で練習する時間は限られていて、それこそ夏場の練習時には私も含めたコーチ陣が全員反対側のコートに入ってゲーム形式の練習もしました。特にコーチ陣はスパイク練習から選手と一緒に打っていたので、練習に参加した、ではなく、本格的に練習しましたね(笑)。
少ない人数でチーム練習をするのは大変でしたが、その反面、一人一人に目が届く距離にいられたことや、ゆっくり時間をかけながら、いろいろなことを理解してもらうことができたのはプラスだったと思います。

昨シーズンも若手、ベテランを問わず貪欲にプレーしてほしい、と仰っていました。実際多くの若手選手の台頭も目立ったシーズンでしたが、今シーズンに入り、新たな成長を感じる選手はいますか?

全員成長していると感じますが、特に目覚ましいのは昨シーズンも出場機会が多かった和田由紀子選手、西川有喜選手、年齢やキャリア的には一番上になった田中瑞稀選手も成長しています。まだまだ足りない部分も多いですし、若手選手は「大丈夫かな」と不安も抱きながら2022V・サマーリーグ女子西部大会に臨んでいましたが、着実に進歩していると感じます。
中でも、しいて挙げるならば和田選手の成長はすごいですよ。タケノコみたいにスクスク育っています(笑)。本当によくなっているので、楽しみにしていてください。

主軸が抜けたと捉えればマイナスに感じられるかもしれませんが、新しい選手が出場機会を得るチャンスでもあります

その通りです。頑張り屋さんが多いチームなのでよく練習しますし、アタッカー陣もサーブレシーブがあまり得意ではなかった選手もコツコツ取り組んできた成果が少しずつ結果として現れ始めました。
とはいえまだ経験が浅いので、戦略的な部分はもう少し理解してもらわないと、という面もありますし、少しのんびりした子が多いので、ハイハイハイ急いで、と私が急かしている状態ですね(笑)。もちろん一人一人、内に秘めた闘争心はあるのですが、表面的には非常にのんびりしているので、大丈夫かな、と不安になることもあります。一方でここからどこまで完成させることができるか、可能性を秘めたチームだと感じています。

秘めた力、可能性を引き出し、引っ張り上げるには試合での経験が必要になる、ということでしょうか?

ある程度は試合で経験すること、それに尽きると思いますが、その前段階として理論的にも叩き込んでいかないといけません。理解できた上で試合に出てプレーするのと、できていないままプレーするのとでは全く違います。そもそも理解していないと引き出しをどう開けばいいかがわからず、コート上での判断も遅くなるので、できる、できないという結果よりもまず、バレーボールを理解できているかということが大切です。
バレーボールって、知れば知るほど奥が深いものなので、ある程度試合に出る経験ももちろん必要ですが、常に勉強して選手の引き出しを増やしてあげることが私の仕事だと思っています。理論的に、こうなればこうなるよね、この駆け引きはこうだよね、という戦略理解ができるか、できないか、させてあげることができるか、というのは非常に重要なポイントだと思いますね。そのためにも選手たちには、指示待ち人間ではなく、自分で判断して決断してプレーすることを意識はさせていますが、そもそも引き出し自体が少ないと選択肢すら選べません。引き出しを増やしながら、かつそこに理論的なことも押し詰めて、実戦で練習していくという作業が必要だと思います。

吉原監督が就任した当初、まずは「火を起こす」「火をつけること」が大切で、選手にも練習中から厳しく課題を提示してクリアするまで練習した、と仰っていました。現在はどのように選手へアプローチしているのでしょうか?

当時と同じように、必要と感じる時はあえて数字を掲げて「できるまでやる」という練習は継続していますよ。たとえばチャンスボールがダイレクトで返ったら「チャンスボールを狙い通りに100本入れようか」とか言いますし(笑)。実際に試合では1本のパスで流れが変わるという話はしていますし、勝てなくなる時はどういう時か、自分たちの妥協が増えてくる時じゃないかな、という話もしてきました。

選手や時代が変わっても、崩しちゃいけないベースがあり、許しちゃいけないミスがあります。できてもできなくてもいいという練習ではないし、試合の時にプレッシャーで負けないためには、日頃の練習でプレッシャーをかけたメニューをやることも必要だと思うんです。どんな練習でも、その日の1本目はパスでもサーブでもスパイクでも、その1本しかないですよね。だから「1本目のサーブをミスしたら今日は泊まりね」と冗談半分に言うこともあります(笑)。戦略的なことも頭に入れながら、原点ではないですが、このチームがかつて取り組んできたことも大事にしています。優勝したり、勝てるようになった時、チームがいい状態の時に入ってきた選手と、VチャレンジリーグIの経験も知っている、それこそどん底を見てきた選手では意識も大きく違うので、うまく伝えていかなければ、と思い続けていますし、実際に選手たちにも「チームのスタートラインはここだったよね」と忘れないように話しています。

VチャレンジリーグIの経験を知る選手も2人しかいません

田中選手と橘井友香選手だけですからね。昔にこだわるわけではないので、今は現実としてこうだよね、でも本気でトップを獲ろうとするなら、ここまでのレベルにならないと無理だよね、という話し方をするようにしています。
入ったばかりの選手たちはなかなかイメージしにくいかもしれませんが、一つ一つ成長していく姿を見られるのは面白いですよ。

変化のシーズン、飛躍の可能性を秘めたシーズンですね

人をあてにしないでまず自分がやるべきことをやろうね、という話はずっとしています。どんな状況でも一人一人、自分がコートに立ってできる準備をしてね、そのために要求は高くなるよ、と話してきたので自覚は持っていると思いますが、まだ現実的に捉えられていない選手もいるかもしれません。ピっと笛が鳴った瞬間にヤバイ、と思うことがないように、しっかり準備を怠らずに臨みたいですね。

今シーズンの目標を教えてください

今年はチャレンジの年です。もちろん優勝を獲りにいくことに変わりはありませんが、初めてV.LEAGUEのコートに立つ、経験の少ない選手も多く、試合をしながらチームを固めていくシーズンでもあるので、やるべきことを見失わないようにしたいです。
粘り強さと4人攻撃は引き続き注目して見ていただきたいです。まずは一人一人、しっかり選手たちの名前を覚えてもらえるよう、それぞれがいいパフォーマンスを発揮して、たくさんの方々にアピールしたいですね。