自然との共生

気候変動に代表される環境課題に対する関心は、社会全体で年々高まっています。事業に必要な資源を調達し、温室効果ガス(GHG)や廃棄物を排出することで、企業活動は環境に影響を与えます。一方で、私たちの事業もまた、環境からの影響を受けています。グローバルに事業を展開するJTグループが自社だけでなくバリューチェーンにおける環境負荷の軽減に取り組むことは、持続可能な社会の実現に向けて私たちが果たすべき重要な責務だと考えています。私たちは、持続可能性を意識した企業活動を通じて、資源の保全、廃棄物の削減、事業コストの削減に取り組みます。また、環境にやさしいサステナブルな製品を求めるお客様の声にお応えし、企業活動と環境の調和の実現に努めています。

ターゲットと進捗

2024年に策定した「JT Group Sustainability Targets」において、JT Group Materialityの一つである「自然との共生」に関連するターゲットを設定しています。これまでの「JTグループ環境計画2030」の目標を踏襲しつつ、より野心的な目標に更新するとともに、新たなターゲットを設定しました。

ターゲット項目

主なターゲット

生態系影響評価の実施

JTグループの各事業が生態系に与える影響および各事業の生態系への依存の評価を、生物多様性の観点を含め、たばこ事業については2024年までに、医薬事業および加工食品事業については2025年までに、それぞれ実施する

GHG排出量の削減

2030年までにJTグループの事業においてカーボンニュートラル、2050年までにバリューチェーン全体でネットゼロにする

  • JTグループのScope1および2のGHG排出量について、1.5℃経路に沿って、2030年までに2019年比47%削減
  • Scope3の購入する原材料・サービスに由来するGHG排出量を2030年までに2019年比28%削減

再生可能エネルギーの活用

2050年までにJTグループにおいて使用するエネルギーをすべて、GHGを排出しないエネルギーへと移行する

  • JTグループ全体で、2030年までに50%、2050年までに100%移行する

責任ある水資源マネジメント

  • 2030年までにたばこ事業における水使用量を2019年比33%削減

森林資源の保全

  • 2030年までに、直接契約葉たばこ農家が葉たばこ乾燥工程で使用する自然林由来の木材をすべて再生可能な燃料源に転換
  • JTグループのたばこ事業サプライチェーン全体において、2030年までに、管理林の破壊ネットゼロを目指す

廃棄物による環境負荷の低減

  • 2030年までに、たばこ事業における工場廃棄物の埋立地への廃棄をゼロにする

製品および容器包装
リサイクル

  • JTグループの事業におけるプラスチックを含む容器包装材の使用量を削減するとともに、2025年までに88%、2030年までに100%を、再使用または再生利用可能な容器包装材にする

持続可能な農業

JTグループの直接契約葉たばこ農家において、クラス1に分類されるHHPs(High Hazardous Pesticides)については2024年までに、すべてのHHPsについては2040年までに、その使用を廃止。また、2030年までに、直接契約葉たばこ農家の100%において、Good Agricultural Practices(GAP)のプロトコルを実践

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ネットゼロへのロードマップ

JTグループは、2030年までにJTグループの事業においてカーボンニュートラルを実現し、2050年までにバリューチェーン全体でGHG排出量をネットゼロにすることを⽬指しています。2030年までの削減目標はSBTiによる認定を取得済みであり、2024年6⽉、SBTiに対し、バリューチェーン全体でのGHG排出量ネットゼロ達成に向けた科学的知見に基づくGHG排出量削減目標を2年以内に策定することを宣⾔するコミットメントレターを提出しました。

ネットゼロ達成に向けたロードマップ

ネットゼロ達成に向けたロードマップ-図

(注)

2024年5月31日時点における計画であり、今後の事業戦略を反映して更新する可能性があります

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環境負荷の軽減(気候変動)

気候変動は、社会そして私たちの事業が直面する最も深刻な環境課題です。地球温暖化や異常気象をはじめとする気候変動の影響は、農産物を主要原料とする当社製品のサプライチェーンのみならず、世界各国での事業活動そのものにも及ぶため、JTグループでは、気候変動への取り組みに力を注いでいます。長期的にGHG排出量削減に努めることで、グローバルな気候変動対策に寄与するとともに、2022年2月には、2030年までに自社事業においてカーボンニュートラルを実現することを目指す姿として掲げました。この目標は、科学的知見と整合した野心的な目標であり、2022年にSBTiから「1.5℃目標」の認定を取得しています。また、2024年6月には、2050年までにバリューチェーン全体でのGHG排出量ネットゼロ達成に向けた科学的知見に基づくGHG排出量削減目標を2年以内に策定することを宣言するコミットメントレターを提出しました。

JTグループはTCFDが提言する情報開示フレームワークに沿った開示を進めています。

開示項目

説明

ガバナンス

気候関連課題はJTグループの事業活動にとって戦略的重要性が高い問題です。統合型リスク管理(ERM : Enterprise Risk Management)プロセスにより、たばこ事業にとって気候関連リスクが一つの最重要リスクであることを特定しました。こうしたリスクは国・地域レベルでのリスクの洗い出しや評価においても検討します。取締役会による監督が重要であるため、特に事業戦略に影響を与える可能性のある気候関連課題について、四半期ごとの取締役会に取り上げています。

また、役員報酬におけるESG指標については、「コーポレート・ガバナンス」をご覧ください。

当社におけるコーポレート・ガバナンスの位置付けおよび体制について、JTウェブサイトからご覧いただけます。

戦略

2019年に実施した気候変動シナリオ分析に基づき、2つの主要リスクを特定しました。一つは脱炭素社会への移行に伴う炭素税負担等の増加、もう一つは葉たばこ生育環境の変化です。こうしたリスクに対しては、バリューチェーン全体を対象とした気候変動対策と継続的改善により軽減に努めます。

環境への取り組み全般についてはJTウェブサイトを、リスクファクターについてはこちらをご覧ください。

リスク管理

JTグループではERMプロセスを通じ、気候関連リスクを検討し、リスクの軽減・管理策を定めています。また、継続中の国別気候変動シナリオ分析も踏まえた、それぞれの国・地域におけるリスクの洗い出しや評価、行動計画策定の際にも気候変動関連リスクを盛り込みます。各国・地域における事業上のリスク評価を比較し、対応の優先順位を明確化します。

国別気候シナリオ分析結果は、JTウェブサイトをご確認ください。

指標と目標

JTグループ環境計画2030では、2030年までに自社事業からのGHG排出量を2019年比で47%削減することを目指しています。グループ全体を対象とした気候変動シナリオ分析に基づき、より長期の目標も定めるとともに、再生可能エネルギーからの電力の活用についても目標を設定しています。

JTグループ環境計画2030環境データ/第三者検証データの算定・連結方法についてはJTウェブサイトをご覧ください。

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シナリオ分析

気候変動に伴う事業へのリスクおよび機会を特定するため、JTグループでは複数のシナリオ(1.5℃、4℃等)を用いたシナリオ分析を実施しています。シナリオ分析を行うにあたり、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による代表的濃度経路シナリオ(RCP2.6、RCP8.5)等を用いています。シナリオ分析の結果、「カーボンプライシング(炭素税の引き上げ)」と「平均気温上昇に伴う作物生育環境変化」の2つを主要な気候関連リスクとして特定しました。

分類

リスク/機会

適用シナリオと財務影響(円)

時間軸

影響

対応策

1.5℃

4℃

短期

中期

長期

移行リスク

気候変動抑制施策・政策

▲85億

▲28億

  • 脱炭素政策の強化に伴う設備投資の増加
  • 政策動向の精査
  • 低炭素製造手法の深掘り

カーボンプライシング

▲1,089億

▲27億

  • 原料などの調達コスト増
  • 自社オペレーションコスト増
  • 炭素税動向の精査
  • 高水準な脱炭素化の促進
  • サプライヤーとの協働

物資/エネルギー需給の変動

▲9億

33億

  • 原油、電力、原料(電池等)のコストの増減
  • 将来コストを踏まえた調達

物理リスク

平均気温上昇に伴う作物生育環境変化

▲35億

▲348億

  • 生育環境の変化による原料(葉たばこ・米)コストの上昇
  • 適地への調達見直し
  • スマート農業活用
  • 特定農家との関係強化

異常気象の頻発/激甚化

▲71億

▲188億

  • 工場操業への支障
  • 原料不足、原料コスト増
  • 災害耐性のある育種
  • 調達・生産地の分散

水需給の逼迫

▲1億

▲1億

 

  • 渇水による工場操業停止
  • 農産物品質の低下による加工コスト増
  • 製造拠点の水使用効率化

機会

消費者の生活様式の変化

1億

7億

 

  • エシカル商品の需要増
  • 気温上昇による調理簡便化ニーズの高まりからの、加工食品、冷凍食品の需要増
  • 消費者動向の把握
  • ニーズに合致した製品開発

気温上昇による原材料生産地/方式の変化

2億

11億

 

  • 高収量小麦等の製品の価格競争力向上
  • スマート農業や育種の促進
  • 農業スタートアップ企業等との連携
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生物多様性

自然や社会が持続可能なものでなければ、人の暮らしや企業活動も持続可能なものとはならないと考えるJTグループは、⽣物多様性の保全を重要課題の⼀つとして掲げています。各事業が⽣態系に与える影響と各事業の⽣態系への依存の両者を把握することで、⽣物多様性の保全に向けた取り組みの強化を図っています。

リスクアセスメント

2022年に、TNFD v0.3と国連⾃然保護連合(IUCN)のガイドラインに基づき、たばこ事業における⽣態系への影響と依存についての定性評価を実施しました。原材料の調達、製造、廃棄という事業活動の各段階における⾃然資源に対する影響と、その範囲および重⼤性を評価し、どのような事業活動が⽣態系に最も大きな影響を与えているかを特定しました。生態系への依存についても同様の⼿法を⽤いた特定を行っています。

生物多様性への影響· 依存

葉たばこ⽣産において生物多様性に最大の影響を与えているのは、ブラジルにおける「土地利⽤」と「⼟壌汚染」であり、他の葉たばこ産地においてもこの両者の影響は最大となりました。一方、依存という観点からは、ブラジルにおける「洪⽔・暴⾵⾬の被害防⽌」や「⼟地の安定化・浸⾷防⽌」など、たばこ事業が幅広い⽣態系サービスに⾼度に依存していることが分かりました。この結果についても、同様の傾向が他の葉たばこ産地で⾒られます。

リスク・機会に関するこれまでの分析結果

森林開発や農薬の過剰使⽤による⼟壌劣化の進⾏と、それに伴う地滑りや洪⽔の発⽣による葉たばこ⽣産量や品質の低下がリスクとして特定されました。これに対し、植林活動や農薬の使用抑制等の⽣態系サービスの維持・強化に資する取り組み継続により、リスクを一定程度低減するとともに、葉たばこの安定的かつ持続可能な調達の機会獲得につながるものと考えています。

影響・依存緩和に向けた取り組み

⽣物多様性に対して事業が与える影響と生物多様性への事業の依存の緩和策として、「自然に関する科学に基づく目標」(Science-Based Targets for Nature: SBTN)のガイダンスに基づくAR3Tフレームワークを用い、回避・削減・再⽣・復元・変⾰を軸とした取り組みを行っています。例えば、毒性の⾼い農薬ではなく、より安全で環境に配慮した農薬への置き換えを進めています(回避)。また、製品とそのパッケージの安全性や環境・社会への潜在的な影響をライフサイクルを通じて管理するとともに、製品の資源循環や廃棄物管理に向けた効果的な仕組みを運⽤することにより廃棄物を削減しています(削減)。さらに、ザンビアの「シシャンバ森林保全プロジェクト」への参加を通じ、ミオンボ林の持続可能な管理を⽬的とした森林保全活動を推進しています(再生)。ブラジルでは、研究機関や環境教育団体、国⽴経済社会開発銀⾏などと提携して300ヘクタール以上の⾃然保護区の復元に取り組んでいます(復元)。2017年には国際的な⾮営利機関であるLIFE Instituteとパートナーシップを締結し、⽣物多様性の保全に関連したデータの整理と標準化を進め、⽣物多様性保全の取り組み促進に寄与しています(変革)。

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責任ある水資源マネジメント

水資源は、事業活動における重要な自然資源の一つであり、「JTグループ環境計画2030」で掲げていた、たばこ事業における水使用量を2015年比で15%削減するという目標を前倒しで達成しました。JT Group Sustainability Targetsにおいては、より野心的な水使用量削減のターゲットに加え、生態系への影響を最小化することを企図した水質汚染防止に係るターゲットを掲げ、法令と同等以上の独自基準を設け、モニタリングを行っています。私たちは、すべての葉たばこサプライヤーに対し、生態系の保全に配慮した⾼品質な葉たばこ生産とGood Agricultural Practiceの実践を求めており、これにより、葉たばこ農家の経済的持続可能性を⾼めるとともに、水溶性が非常に⾼く、農地で広く用いられる化学肥料や農薬などに多く含まれる硝酸性窒素等による水質汚染リスクを防止しています。

森林資源の保全

2030年までに、直接契約葉たばこ農家が葉たばこ乾燥工程で使用する自然林由来の木材をすべて再生可能な燃料源に転換することを、ターゲットの一つに掲げています。タンザニア、ザンビア、ブラジルでは、アグロフォレストリーアプリを用いて葉たばこ耕作地での毎年の植林の進捗状況を確認しています。また、たばこ事業サプライチェーン全体において、2030年までに、管理林の破壊ネットゼロを目指しています。

廃棄物による環境負荷の低減

「JTグループ環境計画2030」で掲げていた、たばこ事業における廃棄物発生量を2015年比で20%削減するという目標を前倒しで達成し、JT Group Sustainability Targetsにおいて、より野心的なターゲットを設定しました。事業活動により発生する廃棄物の削減や処理方法の転換に加えて、お客様が使用した製品に関する取り組みも盛り込み、バリューチェーン全体における環境負荷の低減を目指しています。たばこ事業においては、2030年までに工場廃棄物の埋立地への廃棄をゼロにすることをターゲットとし、すべての事業においては、プラスチックを含む容器包装材の使用量を削減するとともに、2030年までに100%を再使用または再生可能な容器包装材にすることを目指しています。

サプライヤーとの協業

バリューチェーン全体でのGHG排出量のネットゼロ実現をはじめとして、生態系への影響を把握・改善するためには、サプライヤーとの協業が重要です。

Scope3のGHG排出量削減については、葉たばこをはじめとした原料サプライヤーや物流業者など、私たちの事業に関連する多様なサプライヤーにおける環境関連情報を把握するため、国際的な環境系非政府組織 CDPが提供するサプライチェーンプログラムを活用しています。

これにより、サプライヤーとのエンゲージメント強化を図るとともに、バリューチェーン上の環境リスクや事業機会の特定が可能となり、より効率的なエネルギー使用やGHG排出量削減施策を検討・実行しています。

JTグループができることを常に念頭に置き、自然と人や企業の健全な関係性の保全に向けて、サプライヤーとの協業のもと不断の努力を続けていきます。