CFOメッセージ
2023年財務実績を振り返って
2023年度の財務実績は、地政学的リスクの顕在化、世界的なインフレに伴うサプライチェーンコストの上昇、大幅な為替変動など、世界的に見ても引き続き厳しい事業環境であったものの、利益成長を実現し、売上収益から当期利益まで当初計画を上回り、2022年度に引き続き、過去最高となる実績*を達成しました。
全社業績管理指標である為替一定ベースの調整後営業利益は、前年度比5.2%の増加となりました。これは、特に年間を通じてたばこ事業におけるプライシング効果が⼒強く発現し、サプライチェーンにおけるコスト上昇影響、HTS(heated tobacco sticks)への投資加速化の影響を上回ったことによります。
当社のRRP(Reduced-Risk Products)ビジネスが依然投資フェイズにある中においても、直近の4年ではいずれも前年を上回る利益成長率を達成し続けています。
財務報告ベースでの売上収益は、たばこ事業のビジネスモメンタムに加え、医薬事業においても増収となったことから、前年度比6.9%増の2兆8,411億円となりました。一方、調整後営業利益については、主にロシアルーブルによるネガティブな為替影響が発現した結果、前年と概ね同⽔準の7,280億円となりました。
営業利益は、調整項⽬における商標権償却費の減少ならびに不動産売却益の増加によって、前年度⽐2.9%増の6,724億円となりました。この結果、当期利益は、営業利益の増加に加え、⾦融損益の改善や法⼈税負担の減少により前年度⽐8.9%増の4,823億円となりました。
FCF(フリー・キャッシュ・フロー)は、2022年度に計上した、⽇本におけるたばこ事業運営体制強化施策に係る⽀払いの剥落や、⽀払法⼈税の減少影響が運転資本の悪化影響を上回り、前年度⽐608億円増加の4,437億円となりました。
*
売上収益、調整後営業利益、継続事業における営業利益、継続事業における親会社の所有者に帰属する当期利益
経営計画2024期間中(2024年~2026年)の環境認識について
たばこ事業においては、主要市場を中心とした総需要の減少・ダウントレーディングの継続に加え、地政学的リスクの顕在化、RRPカテゴリにおける規制や税制の進展・複雑化および競争の激化、為替変動リスク等、依然として厳しい状況が⾒込まれます。
このようなリスクがある中でも、引き続き中長期にわたる持続的な利益成長、具体的には全社為替一定ベース調整後営業利益の年平均mid to high single digit成長にコミットしていきます。Combustiblesでは、トップライン成⻑に向けたマーケティング投資や着実なプライシングを実⾏しつつ、サプライチェーンの不断の改善によるコスト効率化等を通じ、ROIの改善を⽬指します。RRPにおいては、Combustiblesから創出される利益を、今後最も成⻑が⾒込まれるHTSに優先的に再投資します。
今次経営計画期間中、すなわち2024年から2026年において、為替一定ベースの全社調整後営業利益は、RRP投資の強化に伴い2024年は前年同水準となるものの、2025年以降は成⻑に回帰し、結果として、3年間の経営計画期間全体では我々の中長期目標であるmid to high single digitの下限となる年平均成⻑率mid single digitを⾒込んでいます。
- 詳細は「経営計画2024」をご覧ください
財務方針について
当社では引き続き、経済危機などの大規模なリスクが発現した際にも事業を継続していくことのできる堅牢性、魅力的な投資機会に対して機動的に対応ができる柔軟性を併せ持つ強固な財務基盤を維持するという財務方針に基づき、財務計画を立案・実行しています。
新たな取り組みとして、2023年にJTグループ初となるグリーンローンファシリティを設定しました。ESG関連資金調達は、JTグループのESG/サステナビリティ推進に対するコミットメントをお示しできる取り組みの一つであり、また調達手段の多様化や投資家層の拡大にも資するものであり、今後も資金需要等を踏まえ、実施を検討していきます。
なお、バランスシート上の現金及び現金同等物は増加していますが、そのうちには、イランにおける国際的な制裁の影響、カナダにおける訴訟の影響に伴う滞留資金が一部含まれております。今後とも財務活動にあたっては、資金需要の見通し・金融市場環境・コスト等に加え、世界情勢等も総合的に勘案して、柔軟な財務活動に努めていきます。
キャッシュ・フロー・マネジメントについて
キャッシュ・フロー・マネジメントにあたっては、事業のトップライン成長を通じた安定的なキャッシュの創出を最重視し、また為替影響の緩和、運転資本の最適化に向けた取り組みを行っています。
たばこ事業、とりわけ新興国での事業においては、各市場の経済成長に即した形で、現地通貨ベースでの中長期にわたる事業価値向上を目指しています。増税に加えインフレも勘案したプライシング、長期的な視点に立った投資戦略に基づくブランドポートフォリオの充実によるシェアの伸長により、トップライン成長を通じたキャッシュ創出を追求しています。プライシングは、引き続き我々のたばこ事業における利益成長のドライバーですが、その実施にあたってはブランドエクイティ、競争環境、お客様*の動向や受容性、経済環境などさまざまなファクターを総合的に考慮の上判断しております。市場によっては、一時的もしくは短期的にインフレ率の上昇に小売価格が追い付かない時期が発生する場合がありますが、中長期的にはインフレ率に見合った値上げを実現できております。
JTグループは世界各国で事業展開していることから、キャッシュ・フローに対しても為替変動リスクを伴っています。為替影響の緩和のための取り組みとしては、収入通貨と支払通貨を合致させるナチュラルヘッジに努めつつ、為替予約等のデリバティブを用いたヘッジもコストを勘案した上で実施しています。外貨建て債権債務については、原則として100%ヘッジしているほか、将来キャッシュ・フローについても25~90%の範囲でヘッジを実施しており、その一部についてはヘッジ会計を適用する等、PL影響も考慮した上で為替影響の低減に努めています。
また、運転資本の最適化に向けて、棚卸資産の在庫水準適正化に取り組むとともに、債権流動化やサプライヤーファイナンス等の⼿法も取り入れながら入金および支払サイトの見直しを実施する等、CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)の継続的改善に取り組んでいます。
以上のような取り組みの結果として、M&A等による一時的な影響を除くと過去10年余りの間、年間4,000億円前後のFCFを安定的に創出し続けております。
*
喫煙可能な成人のお客様を意味します。なお、喫煙可能年齢は、各国の法令により異なります。日本では20歳未満の方による喫煙は、法律で禁じられています
投資配分について
我々の経営資源配分方針、すなわち「事業投資を最優先する」「事業投資による利益成長と株主還元のバランスを重視する」という2つのポイントに変更はなく、経営理念である「4Sモデル」およびJT Group Purposeに基づき、持続的な利益成長につながる事業投資、とりわけたばこ事業への投資を最優先していきます。なお、医薬事業および加工食品事業をグループの利益成長を補完する存在と位置付けていることには変わりありません。
2021年2月より、配当性向の水準を75%*目安としております。これは上記の経営資源配分方針に基づいて決定したものであり、日本はもとよりグローバルでも資本市場において競争力ある水準であることは、グローバルFMCG企業群の還元動向のモニタリングを通じて確認しているところです。今次経営計画期間中は引き続きHTSへの投資を大規模に実施する予定ですが、株主還元については上記の株主還元方針に基づき、配当性向に目安を持ちつつ、中長期的な当期利益成長の礎となる全社為替一定調整後営業利益の成長を引き続き追求することで、株主還元の向上を目指してまいります。
また、自己株式の取得については、各事業年度における財務状況に加え、事業環境やFCF、バランスシートなどの中長期的な見通し、当期の利益水準および事業投資・事業施策の実施状況を踏まえ、その是非や規模について考えていくこととしています。
*
±5%程度の範囲内で判断
資本収益性や市場評価について
当社では、経営計画の策定時に資本コストを算定・把握し、取締役会に報告しており、当社のROE(株主資本利益率)は資本コストを⼗分に上回っていることを確認しています。また、展開市場におけるカントリーリスクやインフレーションリスク等を踏まえて設定したハードルレートを投資採算性の判断基準とすることで投資規律を設けており、ROEが資本コストを上回る状況を担保するようにしています。JTグループでは、過年度のM&Aに係る償却費の影響や、一時的要因により大きく変動し得る為替影響を除いた、為替一定ベースの調整後営業利益を業績管理指標*としています。当社では、このKPIの中長期にわたるmid to high single digit成長を目指すことによって当期利益を含めた利益成長を志向しており、ハードルレートによる投資規律の運用と合わせ、これらが結果としてROEの向上にもつながるものと考えております。
また、当社TSR(配当を含む株主総利回り)を配当込みTOPIXと比較した場合、長期での比較は当社株価の推移に伴い当社TSRが劣位にあるものの、コロナ禍以前の2019年末と2023年末時点での比較においては、期間中の利益成長の達成および2022年度における増配の実現により、当社TSRは同時期の配当込みTOPIXをアウトパフォームしております。中長期的な株価形成には、継続的な利益成長が重要な要素であると考えており、その実現により企業価値を定量的に増大させることに加えて、情報開示の充実を通じた定性的な観点からJTグループへの理解を醸成していくことが、TSRの向上につながると考えております。
*
為替一定ベース調整後営業利益を業績管理指標として採用している背景
- 過年度の買収に係る償却費の影響等を除いた、当年度の事業の実績を分かりやすく示すため「調整後営業利益」を使用
- 以前は業績管理指標として「調整後EBITDA」を採用していたが、事業投資およびそのリターンをより適切に管理する観点から、2014年経営計画より業績管理指標を、各年の事業投資によって変動する減価償却費および償却費を足し戻さない「調整後営業利益」に変更
- 地政学的リスク等、事業とは直接的に関連しない要因で短期的に大きくプラスにもマイナスにも変動する可能性のある為替影響を除くことで、事業そのものの実力をクリアにお示しできると考えているため、為替一定の数値を採用
IR活動について
当社は、経営成績などの財務情報に加え、経営戦略、ESG情報、各事業の状況などの非財務情報について適時・適切に開示し、また当社への理解促進のため、株主・機関投資家の皆様との対話を積極的に行っています。JTグループ本社が所在する東京とJTI本社が所在するジュネーブの各IR担当者を中心に、証券アナリストや機関投資家の皆様と、決算発表をはじめとした開示内容に関する面談はもちろんのこと、ESGに関する個別面談も実施しているほか、投資家向けのイベントの企画も行っています。
2023年度は約400回の個別面談を実施しました。また、2023年5月にはTobacco Investor Conferenceをオンラインで開催し、たばこ事業の長期予測や戦略について説明する機会を設けました。その他、証券会社主催のカンファレンスにも参加し、国内外の機関投資家の皆様との面談を行っております。機関投資家の皆様との面談には社長や財務担当副社長、私自⾝も参加しています。
また、ESGに特化した面談においては統合報告書への評価など、当社から投資家の皆様へ意見をお伺いする機会を設けています。2023年は社外取締役と投資家との面談をはじめて実施しました。今後もこのような対話を積極的に続けてまいります。
これらのIR活動を通じて得られた投資家の皆様からの声は、株価をはじめとする市場動向等の情報と合わせて年3回取締役会へ報告するとともに、レポートとして全執行役員や関係部署に年4回共有しております。頂戴したご意見は弊社取り組みの改善・見直しの参考とさせていただいており、今後も、投資家の皆様に当社の業績・取り組みをご理解いただけるよう、また、投資家の皆様のご意見・ご期待を当社の戦略・事業活動に適切に反映すべく、努めてまいります。
2023年度の投資家との対話状況
面談数 |
約400件 |
---|---|
面談先概要 |
|
面談形式 |
|
当社対応者 |
CEO、財務担当副社長、CFO、執行役員(Chief Sustainability Officer、経営戦略担当)、社外取締役等 |
主な対話テーマ |
|
投資家意見の社内共有 |
|
投資家意見を参考とした事例 |
|
債券投資家の皆様とのコミュニケーションについて
当社では、債券投資家の皆様とのコミュニケーションにも注力しています。当社の設立根拠法である「日本たばこ産業株式会社法」に基づき、日本政府は、常時、JT株式の3分の1を超える株式を保有することが定められています。そのため、新株の発行を伴う調達を行う場合、新規発行額の3分の1を政府が引き受ける必要があることから、資金調達の機動性の観点を考慮すると当社においてはデットファイナンスによる資金調達が基本となります。特に社債による資金調達は当社の持続的な成長を達成する上で重要な⼿段であり、不安定な金融環境下においても安定的な資金調達を実現するため、国内外を問わず債券投資家の皆様との幅広い関係構築を目指しています。さらなる対話の機会創出および当社に対する理解の促進を目的とし、社債発行時に加え、2018年より欧米、中東、アジア地域の債券投資家の皆様に向けて、定期的にノンディールロードショーを実施してきました。今後もさらに多くの債券投資家の皆様とのコミュニケーションの機会を設けてまいります。
また、債券投資家の皆様との対話の充実に加え、資本市場で広く参照されるESG評価機関とのエンゲージメント強化およびESGスコアの改善にも取り組んでいます。これらを通じ、債券投資家の皆様からの当社理解・評価を高め、今後の社債発行に向けた債券投資家の皆様とのより良好な関係を築いていきたいと考えています。
サステナビリティ情報開示基準への対応について
サステナビリティへの関心の高まりを反映し、ステークホルダーが企業に期待するサステナビリティ情報開示の範囲はESG全体の幅広い領域に及んでいます。また、その開示自体がEUやIFRS財団等が策定する基準を踏まえ、日本を含めた各国において法制化、義務化される方向で検討が進められています。
このような動きは、企業のサステナビリティに関する考え方や取り組みの透明性を一層高め、投資家をはじめとしたステークホルダーが企業を適切に評価できるようにすることを目的としています。当社としても、企業の情報開示の透明性や比較可能性を向上させ、投資家を含むステークホルダーに有益な情報を提供する基盤となることから、サステナビリティ情報開示基準への対応を好機と受け止めております。
これまで当社では、統合報告書やウェブサイトなどを通じて、サステナビリティ情報の開示拡充に努めてきました。今後も、責任ある企業として基準内容を踏まえた開示を行いつつ、当社の企業価値向上に向けたメッセージを発信してまいります。