CFOメッセージ

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“不確実性の高い事業環境においても、
強固な財務基盤の維持と事業投資の
加速化を図り、
中長期にわたる利益成長と株主還元の向上を目指してまいります。”

執行役員 加藤 信也 Chief Financial Officer

財務およびコーポレートコミュニケーションを担当する執行役員として、JT Group Purpose実現に資する財務・資本戦略を構築し、併せて資本市場を含めたステークホルダーの皆様との対話を通じて当社の企業価値向上の道筋を示してまいります。

2022年財務実績の総評

2022年度の財務実績は、売上高から当期利益まで当初計画を上回り、過去最高の実績を達成しました。

全社利益指標である為替一定ベースの調整後営業利益は、世界的な資源価格の⾼騰やインフレーションの進⾏といった、厳しい事業環境下においても利益成⻑を実現し、前年度比9.0%の増加となりました。これは、特にたばこ事業が年間を通じて⼒強い数量モメンタムおよびプライシング効果を発現したことによります。

我々の中長期目標、すなわち「為替一定ベース調整後営業利益の、中長期にわたるMid to high single digit成長を目指す」というKPIについては、直近3年ではRRP(Reduced-Risk Products)の市場規模が拡大する中、RRPのシェアについては当社が依然競合に劣後する厳しい状況下においても、対前年を上回る成長率を達成し続けています。

財務報告ベースでの売上収益は、たばこ事業のビジネスモメンタムに加え、円安によるポジティブな為替影響も後押しし、また医薬事業・加⼯⾷品事業においても増収となったことから、前年度比14.3%増の2兆6,578億円となりました。また、調整後営業利益についても増収と為替影響により、19.2%増の7,278億円を達成しました。

営業利益は、調整後営業利益の増益に加え、前年に計上した⽇本におけるたばこ事業運営体制強化施策および葉たばこ耕作の面積調整に係る費用が剥落したことから、前年度⽐31.0%増の6,536億円と大幅な増益となりました。この結果、当期利益は、営業利益の増加が⾦融費⽤の増加を⼤きく上回り、前年度比30.8%増の4,427億円となりました。

フリー・キャッシュ・フローは、調整後営業利益が⼤幅な増益となったものの、運転資本の悪化、法⼈税⽀払いの増加、また⽇本におけるたばこ事業運営体制強化施策に係る⽀払い等により、対前年で991億円の減少となりました。

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中期経営計画期間中(2023年~2025年)の環境認識について

今次経営計画期間中においては、たばこ事業のRRP・Combustibles両カテゴリにおいて、現在のトレンドが継続するとみています。RRPカテゴリはHTS(heated tobacco sticks)を中心に引き続き需要の拡大が⾒込まれ、我々の将来の事業成長の柱となる存在です。Combustiblesカテゴリは総需要の減少およびダウントレーディングが継続するとみていますが、適切なプライシング機会の追求とシェアの伸長を通じて、引き続き安定的な利益創出が可能と考えています。

一方、地政学的リスクのさらなる高まりによる世界経済への影響、世界的なインフレーションの進展による急激な金利およびコストの上昇や各国政府の財源確保を企図した増税、さらなる規制の進展・複雑化などに注意が必要です。

このようなリスクがある中でも、プライシングとシェア伸長によるトップライン成長だけでなく、Combustibles カテゴリにおける製造や研究開発領域での効率化を通じ、2023年から2024年にかけての2年間で約200億円のコスト節減効果の発現を見込むなど、効率化の推進によっても、利益成長を目指していきます。

詳細は「経営計画2023」をご覧ください。

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財務方針について

当社は、経済危機などの大規模なリスクが発現した際にも事業を継続していくことのできる堅牢性、魅力的な投資機会に対して機動的に対応ができる柔軟性を併せ持つ強固な財務基盤を維持するという財務方針に基づき、財務計画を立案・実行しています。

足元、経営環境の先行きは不透明感を増し、金融市場におけるボラティリティも高まりを見せる中、将来のリスクに備えた対応の重要性がより高まっており、十分な資金流動性枠の確保や負債の長期固定化等を通じた財務基盤のさらなる強化に努めています。

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キャッシュ・フロー・マネジメントについて

FCF(億円)

キャッシュ・フロー・マネジメントにあたっては、事業のトップライン成長を通じた安定的なキャッシュの創出を最重視し、また為替影響の緩和、運転資本の最適化に向けた取り組みを行っています。

たばこ事業において、とりわけ新興国においては、各市場の経済成長に即した形で、現地通貨ベースでの中長期にわたる事業価値向上を目指しています。増税に加えインフレも勘案したプライシング、長期的な視点に立った投資戦略に基づくブランドポートフォリオの充実によるシェアの伸長により、トップライン成長を通じたキャッシュ創出を追求しています。プライシングは、我々のたばこ事業における利益成長のドライバーではありますが、その実施にあたってはブランドエクイティ、競争環境、お客様*の動向や受容性、経済環境などさまざまなファクターを総合的に考慮の上判断しております。市場によっては、一時的もしくは短期的にインフレ率の上昇に小売価格が追い付かない時期が発生する場合がありますが、中長期的にはインフレ率に見合った値上げを実現できております。

現在、世界的なインフレに起因する各国金融政策の変更を主因として、為替変動リスクが増大しています。このような環境の中、為替影響の緩和のための取り組みとしては、収入通貨と支払通貨を合致させるナチュラルヘッジに努めつつ、為替予約等のデリバティブを用いたヘッジも一部通貨を除き実施しています。外貨建て債権債務については、原則として100%ヘッジしているほか、将来キャッシュ・フローについても25%~90%の範囲でヘッジを実施しており、その一部についてはヘッジ会計を適用する等、PL影響も考慮した上で為替リスク低減に努めています。

また、運転資本の最適化に向けては、棚卸資産の在庫水準適正化に取り組むとともに、債権流動化やサプライヤーファイナンス等の手法も取り入れながら入金および支払サイトの⾒直しを実施する等、CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)の継続的改善に取り組んでいます。

以上のような取り組みの結果として、M&A等による一時的な影響を除くと過去10年余りの間、年間4,000億円前後のフリー・キャッシュ・フローを安定的に創出し続けております。

* 喫煙可能な成人のお客様を意味します。なお、喫煙可能年齢は、各国の法令により異なります。日本では20歳未満の方による喫煙は、法律で禁じられています

FCF(億円)
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投資配分について

我々の経営資源配分方針、すなわち「事業投資を最優先する」「事業投資による利益成長と株主還元のバランスを重視する」という二つのポイントに変更はなく、経営理念である4SモデルおよびJT Group Purposeに基づき、持続的利益成長につながる事業投資、とりわけたばこ事業への投資を最優先していきます。なお、医薬事業および加工食品事業をグループの利益成長を補完する存在と位置付けていることには変わりありません。

2021年2月より、配当性向の水準を75%目安としております。これは上記の経営資源配分方針に基づいて決定したものであり、日本はもとよりグローバルでも資本市場において競争力ある水準であることは、グローバルFMCG企業群の還元動向のモニタリングを通じて確認しているところです。今次経営計画中には、特にHTSへの投資を3,000億円規模で実施する予定であり、今後も相当の投資が必要ですが、株主還元については上記の株主還元方針に基づき、配当性向に目安を持ちつつ、中長期的な当期利益成長の礎となる為替一定調整後営業利益の成長を引き続き追求することで、株主還元の向上を目指してまいります。

また、自己株式の取得については、各事業年度における財務状況に加え、事業環境やFCF、バランスシートなどの中長期的な見通し、当期の利益水準および事業投資・事業施策の実施状況を踏まえ、実施の是非や規模について考えていくこととしています。

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資本収益性や市場評価について

当社では、経営計画の策定時に資本コストを算定・把握し、取締役会に報告しており、当社のROE(株主資本利益率)は資本コストを十分に上回っていることを確認しています。また、展開市場におけるカントリーリスクやインフレーションリスク等を踏まえて設定したハードルレートを投資採算性の判断基準とすることで投資規律を設けており、ROEが資本コストを上回る状況を担保するようにしています。JTグループでは、過年度のM&Aに係る償却費の影響や、一時的要因により大きく変動し得る為替影響を除いた、為替一定ベースの調整後営業利益を業績管理指標*としています。当社では、このKPIの中長期にわたるMid to high single digit成長を目指すことによる当期利益も含めた利益成長を志向しており、ハードルレートによる投資規律の運用と合わせ、これらが結果としてROEの向上にもつながるものと考えております。

また、当社のTSR(配当を含む株主総利回り)を配当込みTOPIXと比較した場合、長期での比較は当社株価の推移に伴いTSRが劣位にあるものの、コロナ禍以前の2019年末と2022年末時点での比較においては、その間における利益成長の達成および2022年度における増配の実現により、TSRは同時期の配当込みTOPIXをアウトパフォームしております。中長期的な株価形成において重要な要素は継続的な利益成長であると考えており、その実現により定量的な企業価値を増大することに加えて、情報開示の充実を通じた定性的な観点からJTグループの理解を醸成していくことが、TSRの向上につながると考えております。

* 為替一定ベース調整後営業利益を業績管理指標として採用している背景

  • 過年度の買収に係る償却費の影響を除いた、当年度の事業の実績を分かりやすく示すため「調整後営業利益」を使用
  • 以前は業績管理指標として「調整後EBITDA」を採用していたが、事業投資およびそのリターンをより適切に管理する観点から、2014年経営計画より業績管理指標を、各年の事業投資によって変動する減価償却費および償却費を足し戻さない「調整後営業利益」に変更
  • 地政学的リスク等、事業とは直接的に関連しない要因で短期的に大きくプラスにもマイナスにも変動する可能性のある為替変動を除いた、事業そのものの実力をクリアにお示しできると考えているため、為替一定の数値を採用
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IR活動について

当社は、経営成績などの財務情報に加え、経営戦略、ESG情報、各事業の状況などの非財務情報について適時・適切に開示し、また当社への理解促進のため、株主・機関投資家の皆様との対話を積極的に行っています。JTグループ本社が所在する東京とJTI本社が所在するジュネーブの各IR担当者を中心に、証券アナリストや機関投資家の皆様と、決算発表をはじめとした開示内容に関する面談はもちろんのこと、ESGに関する個別面談も実施しているほか、投資家向けのイベントの企画も進めています。

形式は引き続きオンラインでの面談が中心ですが、2022年度は約370回の個別面談を実施しました。その他、証券会社主催のカンファレンスにも参加し、国内外の機関投資家の皆様との面談を行っております。機関投資家の皆様との面談には社長や財務担当副社長、私自身も参加しています。

また、ESGに特化した面談においては統合報告書への評価など、当社から投資家の皆様へ意⾒をお伺いする機会を設けています。今後もこのような対話を積極的に続けてまいります。

これらのIR活動で得られた投資家の皆様からの声は、株価含めた市場動向等の情報と合わせて年2回取締役会へ報告するとともに、レポートとして全執行役員や関係部署に年4回共有しております。頂戴したご意見は弊社取り組みの改善・見直しの参考とさせていただいており、今後も、投資家の皆様に当社の業績・取り組みをご理解いただけるよう、また、投資家の皆様のご意⾒・ご期待を当社の戦略・事業活動に適切に反映すべく、努めてまいります。

2022年度の投資家との対話状況

面談数

約370件

面談先概要

  • 国内外のアクティブ投資家、パッシブ投資家、債券投資家等と幅広く面談
  • 面談先対応者の属性はアナリスト、ファンドマネージャー、ESG担当、議決権行使担当と多様

面談形式

  • オンライン形式中心
  • 個別の1on1面談に加え、証券会社主催のカンファレンスにも参加

当社対応者

CEO、財務担当副社長、CFO、執行役員 (Corporate Communications担当)、執行役員 (Chief Sustainability Officer)等

主な対話テーマ

  • 財務パフォーマンス
  • 中長期戦略
  • 資本政策
  • 環境/社会/ガバナンス(ESG)
  • 統合報告書

投資家意見の社内共有

  • 取締役会への報告は年2回実施
  • 取締役や執行役員、関係部署を対象に、IR活動の状況や投資家意見をまとめたレポートを年4回発行

投資家意見を参考とした事例

  • 開示情報の充実化
  • ESG対話の開始
  • 報酬KPIの見直し
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債券投資家の皆様とのコミュニケーション強化について

当社では、債券投資家の皆様とのコミュニケーション強化にも取り組んでいます。当社の設立根拠法である「日本たばこ産業株式会社法」に基づき、日本政府は、常時、JT株式の3分の1を超える株式を保有することが定められています。そのため、新株の発行を伴う調達を行う場合、新規発行額の3分の1を政府が引き受ける必要があることから、資金調達の機動性の観点を考慮すると当社においてはデットファイナンスによる資金調達が基本となります。特に社債による資金調達は当社の持続的な成長を達成する上で重要な手段であり、不安定な金融環境下においても安定的な資金調達を実現するため、国内外を問わず債券投資家の皆様との幅広いコミュニケーションの構築を目指しています。さらなる対話の機会創出および当社に対する理解の促進を目的とし、社債発行時に加え、定期的にノンディールロードショーを実施しています。2018年より主に欧州、中東、アジア地域の債券投資家の皆様に向け実施してきました。ノンディールロードショーについては、今後は地域を拡大し、さらに多くの債券投資家の皆様とのコミュニケーションの機会を設けてまいります。

債券投資家の皆様との対話の充実に加え、資本市場で広く参照されるESG評価機関とのエンゲージメント強化およびESGスコアの改善にも取り組んでいます。これらを通じ、債券投資家の皆様からの当社理解・評価を高め、今後の社債発行に向けた債券投資家の皆様とのさらなる関係強化を実現していきたいと考えています。

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JT Group Purposeを踏まえた企業価値向上のために

たばこ事業の一本化および新たなコーポレート体制が発足して1年が経過した中、JTグループ全体が長期にわたり持続可能であり続けるために目指す進化の方向性を示すためにJT Group Purposeを策定いたしました。JT Group Purpose実現に向けた具体的な戦略の検討とともに、財務・資本戦略についても、これまでのやり方で良いのか、変えるべきことが無いのかを改めて検証する必要があります。JT Group Purposeを踏まえ、気候変動や人的資本に係る分野のような非財務の観点も含めた戦略策定が今後の重要な課題です。また、JT Group Purposeは投資家の皆様にとって新たな表現であるからこそ、その理解を促進し、当社へのさらなる信任獲得に向け、丁寧なコミュニケーションを重ねていく必要があると考えています。

これらの高度で困難な課題を解決するための体制作り・施策検討にも取り組んでいるところです。JTとJTIの財務部門双方で重複する業務を整理して一本化を進め、2022年からはレポートラインを統一したGroup Treasuryとして業務を進めています。JTグループの人財マネジメントポリシーでは、すべてのJTグループ従業員に成長の機会を提供することを掲げておりますが、Group Treasuryにおいても各地域で、従業員のキャリア開発に注力しております。また、コミュニケーションの強化の観点では統合報告書の内容の拡充に加え、たばこ事業の中長期的なスパンでの戦略をお伝えする機会としてTobacco Investor Conferenceを開催いたしました。

これらの取り組みや私自身のコミットメントの一層の強化を通じ、投資家をはじめとするステークホルダーの皆様からの期待にお応えしてまいります。

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