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CFOメッセージ
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2021年度実績を振り返って
全社利益指標である為替⼀定ベースの調整後営業利益については、コロナ禍という不確実性の高い状況が継続する中においても、年間を通じてたばこ事業が牽引し、特に海外たばこ事業における⼒強いプライシング効果、数量成⻑の貢献により、前年度⽐22.9%の増加となりました。
我々の中長期目標、すなわち「為替一定ベース調整後営業利益の、中長期にわたるMid to high single digit 成長を目指す」というKPI の達成状況については、直近3年ではRRP(Reduced-Risk Products)の市場規模が拡大する一方でRRP のシェアについては当社が依然競合に劣後する厳しい状況が続いている中でも、対前年を上回る成長率を達成し続けています。
財務報告ベースでの売上収益および調整後営業利益は、トップラインの好調に加え、ポジティブな為替影響を背景として、前年度比それぞれ11.1% 増の2兆3,248億円、25.4% 増の6,104億円となりました。
営業利益は、国内たばこ事業において、たばこ事業運営体制強化施策および葉たばこ耕作の⾯積調整に係る費⽤が⽣じ、また当期利益は、法⼈税の増加があったものの、前年度比それぞれ6.4% 増の4,990億円、9.1% 増の3,385億円となりました。
フリー・キャッシュ・フローは、ビジネスを通じたキャッシュ創出能⼒は安定しているものの、2020年に発⽣した旧本社ビルの売却収⼊の剥落などがあり、対前年で219億円の減少となりました。
中期経営計画期間中(2022年~2024年)の環境認識について
今次経営計画期間中においては、たばこ事業のRRP・Combustibles 両カテゴリにおいて、これまでのトレンドが継続するとみています。RRPカテゴリはHTS(heated tobacco sticks)を中心に引き続き需要の拡大が見込まれ、我々の将来の事業成長の柱となる存在です。Combustiblesカテゴリは総需要の減少および、ダウントレーディングが継続するとみていますが、適切なプライシング機会の追求とシェアの伸長を通じて、引き続き安定的な利益創出が可能と考えています。
コロナ禍がたばこ事業に対し甚大なネガティブ影響を及ぼすことは見込んでおりませんが、コロナ禍による経済の停滞を契機として、各国政府において財源確保を企図したたばこ税・消費税の増税が行われる可能性を考慮する必要があります。また、ウイルス流行期には渡航制限が強化され、国境をまたぐ往来が限定的となったことから、一部の高単価市場において国内需要が高まり、2020年から2021年にかけての海外たばこ事業の成長に寄与しましたが、今後その傾向は徐々にコロナ禍以前の市場環境に回帰することが予想されます。加えて、たばこ規制の進展・複雑化や、地政学的リスクに伴う一部市場の事業環境への影響も想定されますが、各国による制裁や規制の動向を見極め、責任あるグローバル企業としてこれらを遵守しながら、必要な対応を行ってまいります。
キャッシュ・フロー・マネジメントについて
キャッシュ・フロー・マネジメントにあたっては、事業のトップライン成長を通じた安定的なキャッシュの創出を最重視し、また財務面では為替影響の緩和、運転資本の最適化に向けた取り組みを行っています。
たばこ事業において、とりわけ新興国においては、各市場の経済成長に即した形で、現地通貨ベースでの中長期にわたる事業価値向上を図っています。増税に加えインフレも勘案したプライシング、長期的な視点に立った投資戦略を背景としたブランドポートフォリオの充実によるシェアの伸長により、トップライン成長を通じたキャッシュ創出を追求しています。プライシングは、我々のたばこ事業における利益成長のドライバーではありますが、ブランドエクイティや将来の利益成長を毀損する恐れのある極端なプライシングは行いません。その実施にあたっては、市場ごとの消費者* 動向・競争状況・規制の状況等を踏まえた検討が肝要です。
為替影響の緩和に関しては、収入通貨と支払通貨を合致させるナチュラルヘッジに努めつつ、為替予約等のデリバティブを用いたヘッジも一部通貨を除き実施しています。外貨建て債権債務については、原則として100%ヘッジしているほか、将来キャッシュ・フローについても25%~90%の範囲でヘッジを実施しており、その一部についてはヘッジ会計を適用する等、PL 影響も考慮した上で為替リスク低減に努めています。
投資配分について
我々の経営資源配分方針、すなわち「事業投資を最優先する」「事業投資による利益成長と株主還元のバランスを重視する」という二つのポイントに変更はなく、経営理念である4Sモデルに基づき、持続的利益成⾧につながる事業投資、とりわけたばこ事業への投資を最優先していきます。
将来の事業成長の柱であるRRPカテゴリにおいて、シェアを奪回し競合と伍していくためには、今後も投資を継続していくことが欠かせないこと、また、利益成⻑と還元のバランスを考慮し、2021年2月に株主還元方針を改定しました。
2021年は海外たばこ事業の好調に支えられ、配当を期中に上方修正しましたが、今次経営計画中には、特にHTS への投資を3,000億円規模で実施する予定であり、今後も相当の投資が必要である状況に変わりはありません。
このような状況下、株主還元については、上記の株主還元方針に基づき、配当性向に目安を持ちつつ、中長期的な当期利益成長の礎となる、為替一定調整後営業利益の成長を引き続き追求することで、株主還元の向上を目指してまいります。
また、今般2030年のカーボンニュートラル、2050年のネットゼロ達成という目標を公表し、その実現に向けた投資も充実させていきます。
なお、株価の動向に伴い、配当込みの株主総利回りについては、配当込みTOPIXと比較した場合大きく劣位にある状態が続いておりますが、投資家の皆様からの当社に対する評価として真摯に受け止めております。当社としても、これまで以上に株価を注視し、また株主の皆様と価値を共有していくため、役員報酬には現物株式を交付する譲渡制限付株式報酬や、3年間の業績に連動するパフォーマンス・シェア・ユニットを導入しています。また、役員報酬のKPIを見直し、役員賞与の支払基準について、財務報告ベース実績に基づく比率を増加させているほか、中長期の成長を実現するための取り組みの評価として、ESG 指標といった新たな指標も導入しています。(詳細は「役員報酬の指標(KPI)」(pdf)をご覧ください)
IR 活動について
当社は、経営成績などの財務情報に加え、経営戦略、ESG 情報、各事業の状況などの非財務情報について適時・適切に開示し、また株主・機関投資家の皆様との対話を積極的に行っています。JT グループ本社が所在する東京とJTI 本社が所在するジュネーブの各IR 担当者を中心に、証券アナリストや機関投資家の皆様と、決算発表をはじめとした開示内容に関する面談はもちろんのこと、ESGに関する個別面談も実施しています。
形式はコロナ禍の影響で昨年同様オンラインでの面談が中心ですが、2021年度は約340回の個別面談を実施しました。その他、証券会社主催のカンファレンスにも参加し、国内外の機関投資家の皆様との面談を行っております。機関投資家の皆様との面談には社長や私自身、また担当役員も参加しています。
2019年度から、議題をESGに特化した面談を開始し、統合報告書への評価など、当社から投資家の皆様へ意見をお伺いする機会を設けています。今後もこのような対話を積極的に続けてまいります。また個人投資家の皆様向けには、2021年5月にオンラインでの説明会を開催し、約1,200名の方にご参加いただきました。
これらのIR 活動で得られた投資家の皆様からの声は、定期的な取締役会への報告に加え、全執行役員や関係部署に共有しております。今後も、投資家の皆様に当社の業績・取り組みをご理解いただけるよう、また、投資家の皆様のご意見・ご期待を当社の戦略・事業活動に適切に反映すべく、努めてまいります。
債券投資家の皆様とのコミュニケーション強化について
当社では、債券投資家の皆様とのコミュニケーション強化にも取り組んでいます。社債による資金調達は当社の持続的な成長を達成する上で重要な手段であり、不安定な金融環境下においても安定的な資金調達を実現するため、国内外を問わず債券投資家の皆様との幅広いコミュニケーションの構築を目指しています。さらなる対話の機会創出および当社に対する理解の促進を目的とし、社債発行時に加え、定期的にノンディールロードショーを実施しています。2018年より主に欧州、中東、アジア地域の債券投資家の皆様に向け実施してまいりましたノンディールロードショーについては、今後は地域を拡大し、さらに多くの債券投資家の皆様とのコミュニケーションの機会を設けてまいります。
また、タイムリーかつニーズに合った情報発信の提供を目的に、当社ウェブサイトに債券投資家の皆様に向けた新たなコンテンツを掲載する取り組みも開始しました。これら債券投資家の皆様との対話の充実に向けた取り組みに加え、資本市場で広く参照されるESG 評価機関とのエンゲージメント強化およびESGスコアの改善にも取り組んでおり、債券投資家の皆様における当社ESGへの取り組みの理解を促進することで、債券投資家の皆様とのさらなる関係強化を実現してまいりたいと考えております。
新CFOとしての意気込み
我々が長期的に目指す姿を策定していくプロセスに参画する中で、財務面におけるターゲットやKPI、資源配分、投資規律等を適切に設定し、JTグループの中長期にわたる持続的な成長実現のための基盤をさらに拡充させたいと考えています。資本効率改善に向けた取り組みの必要性についても認識しており、検討を進めていく考えです。
また、先にお伝えした通り、必要となる資金を長期的に確保していくサステナブルファンディング(長期持続可能な資金調達)にも取り組んでいきます。同時に、短中期に対する着実な取り組み、そして必須であるオペレーション業務についても確実に遂行・改善を進めてまいります。さらには、ステークホルダーの方々とのエンゲージメントをより高めていく所存です。