佐々木大地棋士インタビュー
2024/06/24 公開
将棋界を牽引している棋士の一人、「挑戦」の棋士にスペシャルインタビューを敢行。
今回は、「JTプロ公式戦」初出場を飾る佐々木大地さんが登場。
なかなか聞くことのできないプライベートなお話から「JTプロ公式戦」への想い、印象に残った過去対局の解説、将棋ファンの皆さまへのメッセージ動画など盛りだくさんです。ぜひ最後までご覧ください。
- 本記事は2024年4月時点のインタビューに基づいたものです。
- 文中に登場する棋士のタイトル・段位は対局当時のものとなります。
プロの棋士になったことで、取り巻く環境や心境に変化はありましたか?
三段まではただの人というか、肩書は特に何もない感覚でしたが、四段からは“プロ”という肩書がつくことになって、心境的にプレッシャーからは解放されたかなと思います。
地元の長崎では師匠(深浦康市九段)以来のプロだったので、自身がプロになったことで皆さんが非常に喜んでくれて、地元で祝賀会を開いていただき、プロとして新たにスタートを切ることができました。
ご自身の「強み」はどの部分だと感じますか?
全体的な精度はデビュー時より現在のほうが上がっていますが、その中でAIをベースに研究しながら、形勢が悪い時でもうまく粘るような術や、簡単に倒れないところが強みかなと思います。
駒の損得や効率で相手よりも上回ることができれば局面を複雑化できるので、後々の拾える将棋につながり、勝利につながってくると信じて指しています。
逆に課題を感じる部分はありますか?
終盤力ですね。終盤は勝利に直結する大事なところなのでなかなかその精度を上げるというのが簡単ではなくて、その精度を上げることができれば、また新たな扉が開けるかなと思います。強みの粘りを駆使するのもひとつですけど、形勢の良い局面からそのまま押し切れるようなそういう将棋を増やしていきたいと思います。
棋士として座右の銘や大事にしている行動はありますか?
刻石流水(こくせきりゅうすい)という四字熟語があって「受けた恩は石に刻んで、かけた情けは水に流す」という言葉を座右の銘にしています。プロになるまでに多くの方にお世話になった感謝を心に刻みながら、いろんな人や地元に還元したり、対局の結果で恩返ししようと考えています。
大事にしている行動では“常に新しいことに挑戦する”ことが自分のモチベーションを保つ上でも大事だと思っているので、趣味も含めて先入観にとらわれずに幅広くいろいろなことに挑戦しています。
趣味ではどんなことに挑戦していますか。
半年前からスキューバダイビングを始めました。長期の休みがあると高頻度で沖縄に行き、ダイビングをしています。沖縄の海は透視度が高く、色鮮やかで海中の景色を見るだけでもリフレッシュができますし、海中ではダイビングに集中しないと命に関わることもあるので、仕事のことなどを一切考えずに雑念のない無の心でダイビングに集中できることもストレス発散になります。
潜っている時間は3~40分程度ですが潜った後はとてもスッキリするので、今の一番の楽しみと言っても過言ではありません。
「JTプロ公式戦」はどのような印象をお持ちでしょうか?
こどもの頃に「こども大会」へ参加した経験があり、その時に観ていた「JTプロ公式戦」に棋士として出場できるのが何よりもうれしいです。昨年の夏、タイトルへ挑戦している時から「JTプロ公式戦」に出られるんじゃないかなって思ってワクワクしていたので、実際に出場が決まった時には気持ちがすごく高まりました。
「JTプロ公式戦」の特徴でもある早指しの醍醐味は?
直感がより重要視されるので、これまでの棋士人生で培ったものが自然と出るのかなと思います。持ち時間がある大会と比べ精度は悪くなりますが、両棋士とも同じ環境なので即座の判断で形勢がジェットコースターのように上下し、スリリングな展開になるのでそれが魅力かなと思います。
大勢の観客の前での公開対局や大盤解説についてはいかがですか ?
和服を着て対局に臨める機会は少ないですし、和服姿を多くの方に直接見ていただけるのは「JTプロ公式戦」ならではと思います。
大盤解説は非常に楽しみですが、一方でちゃんと集中できるかなというのが不安です。集中力を維持することが、私の幼少期からの課題なので(笑)。
今年の出場棋士で気になる方はいますか?
私が初戦で戦う羽生善治九段です。将棋界のレジェンドとして注目される羽生九段と指せるというのは非常にうれしいですし、こどもの頃からの憧れの羽生九段と「JTプロ公式戦」で対局できるのは印象に残る一日になると思います。
佐々木大地(七段)
1995年5月30日生まれ長崎県対馬市出身
- 1998年3歳の頃に将棋を始める
- 2004年「将棋日本シリーズ こども大会 福岡大会」で優勝
- 2008年奨励会入会
- 2016年四段に昇段、プロ入り
- 2019年五段に昇段
- 2022年六段、七段と一気に昇段
- 2024年「JTプロ公式戦」初出場、将棋大賞連勝賞を受賞
佐々木大地さんは2004年度に「将棋日本シリーズ こども大会」福岡大会に出場し、低学年の部で優勝を果たしています。
インタビューでは、自身が将棋を始めたきっかけから、「将棋日本シリーズ こども大会」の思い出、プロを目指すきっかけなどを語っていただきました。
佐々木さんに過去の「JTプロ公式戦」の中から一局を選んでいただきました。
特に印象に残った局面もワンポイント解説!
豊島九段が攻めようとしている局面、受けだけでは難しいと判断した糸谷八段が放った攻め味をつけた一手。2四歩(77手目)、同歩(78手目)、2五歩(79手目)とアヤをつける指し方は勉強になります。
陣形を見たときに玉と飛車が近くて、受けに専念するかなと思った局面で2四歩(77手目)と突いて、同歩に対して2五歩(79手目)とアヤをつけるというか、嫌味をつけていきました。その後は6五歩(80手目)に対して、6八玉(81手目)と柔らかく受けた感じで豊島九段は6六桂という手を狙っていますが、その手を打たれてもダメージが最小になるように立ち回った。
陣形を見たときに玉と飛車が近くて、受けに専念するかなと思った局面で2四歩(77手目)と突いて、同歩に対して2五歩(79手目)とアヤをつけるというか、嫌味をつけていきました。その後は6五歩(80手目)に対して、6八玉(81手目)と柔らかく受けた感じで豊島九段は6六桂という手を狙っていますが、その手を打たれてもダメージが最小になるように立ち回った。
バランス重視で完全に受け止めるのではなく、かわしながら受けるような糸谷八段の棋風が存分に出ていて、持ち時間が短い早指しのルールを生かして、相手に多くの選択肢を提示する指し方でミスを誘っていることが非常に大きいと思います。勝負師的なスタイルで非常に参考になりました。
相手に選択肢を多く与えると自分の読む量が増え、その中でうっかりをすると一気に形勢を悪くする原因にもなり、リスクのとても高い手だと思います。手を渡す=相手に委ねることは心理的に恐怖があることなので、私はそういう展開よりも自分の読み筋、自分主導で勝ちたいと思ってしまう。糸谷八段の差し回しは真似できないという風に思いました。
バランス重視で完全に受け止めるのではなく、かわしながら受けるような糸谷八段の棋風が存分に出ていて、持ち時間が短い早指しのルールを生かして、相手に多くの選択肢を提示する指し方でミスを誘っていることが非常に大きいと思います。勝負師的なスタイルで非常に参考になりました。
相手に選択肢を多く与えると自分の読む量が増え、その中でうっかりをすると一気に形勢を悪くする原因にもなり、リスクのとても高い手だと思います。手を渡す=相手に委ねることは心理的に恐怖があることなので、私はそういう展開よりも自分の読み筋、自分主導で勝ちたいと思ってしまう。糸谷八段の差し回しは真似できないという風に思いました。