永瀬拓矢棋士インタビュー
2023/10/12 最終更新(2022/07/27 公開)
将棋界を牽引している棋士の一人、「克己」の棋士にスペシャルインタビューを敢行。
今回は、2019年から「JTプロ公式戦」連続出場を果たしている永瀬拓矢さんが登場。
なかなか聞くことのできないプライベートなお話から「JTプロ公式戦」への想い、印象に残った過去対局の解説、将棋ファンの皆さまへのメッセージ動画など盛りだくさんです。ぜひ最後までご覧ください。
- 本記事は2022年5月時点のインタビューに基づいたものです。
- 文中に登場する棋士のタイトル・段位は対局当時のものとなります。
オフの日はどのように過ごしていますか。
オフの日は漫画を読んだり、アニメを観たりしています。20代半ばくらいからよく観るようになったのですが、メッセージ性も強く、技術や価値観、考え方など勉強になることも多いです。気持ちが上向きにならない時は好きなことをしてモチベーションをあげるようにしています。
ただ好きなことはずっとできてしまうので、いかにしてオフをオンに切り替えるか、そのタイミングが大事かなと考えています。オフといってもオフがメインではなく“オフはオンの質をよくするための助走”という考えで過ごしています。
日常生活の中で気を付けていることはありますか?
日ごろから睡眠はしっかりとるようにしています。心が元気であれば自然と体も元気になりますので、心を元気にすることを大切にしています。
心を元気にするために食事にもこだわりがありそうですが?
美味しいと感じる食べ物はなるべく取らないようにしています。自分の中で、美味しい食べ物はカロリーが高かったり、毎日食べると身体を壊したりしそうなイメージがありまして(笑)。いろいろと試した結果、今は昼と夕方の一日二食、夕食は白米と焼き魚2枚の食事にしています。この食生活もデメリットがあるので、今後どうするかが悩みです。
タイトル戦では美味しい食事をいただくので、タイトル戦に向け、たくさんダイエットして太ってもいいような状態を作ることを意識しています。
それと、大変お世話になっている鈴木大介九段から「コーヒーはブラック!」という教えがありまして、なぜかずっと守っています(笑)。
好きな座右の銘はありますか?
うーん…逆に苦手と思う座右の銘だったらあります(笑)。「継続は力なり」という言葉なのですが、自分は「継続のみ」だなと。
100努力すれば100結果が返ってくるわけではなく、1くらいかなと。ただ、継続をしないと1も得られずにゼロになってしまいますので、「ゼロにしないために継続する」といった考え方が自分には合っていると感じています。
将棋を指す上で大切にしていることはありますか?
羽生善治九段の言葉にあるように「ものごとを単純にシンプルに考える」ことを大切にしています。ものごとに理由付けをすることは簡単ですが、言い訳や逃げ道になることがあるので、できるだけ理由付けせずに、シンプルに考えるようにしています。
「JTプロ公式戦」には、どのような印象をお持ちですか?
トップ棋士しか出場できない最高峰の舞台という印象を持っています。先手番が封じるのは「JTプロ公式戦」ならでは、そこに慣れているかが非常に重要かと考えています。あとは出場棋士全員が和服で対局するので、“観る将”(観戦やイベント参加メインの方)も楽しめる素晴らしい大会だと思います。
初めて「JTプロ公式戦」に出場した時はどのような気持ちでしたか?
自分が出場した時はコロナ禍の影響で地区開催ではなかったのですが、出場が決まった時は本当にうれしかったですし、今でも鮮明に記憶に残っています。憧れの舞台にたてるということはこどものころからの夢だったのでとても感慨深かったです。
「JTプロ公式戦」の特徴でもある早指しや封じ手休憩についてはいかがですか?
早指しはあまり得意ではありませんが、仕方がないので割り切っています(笑)。対局前日や当日に時間のある時にはできるだけ練習をしています。実力を高めるうちに早指しに適応できてくれば……と思っていますので、早指しの対策を講じるというのはなかなか難しいかなと感じています。
それと、「JTプロ公式戦」では封じ手休憩がありますが、この休憩時間を有効活用できるかどうかが勝負所だと思っていて、いかに先まで読めるかが重要なのかなと考えています。
大盤解説や大勢の観客の前での公開対局はいかがですか?
大盤解説はかなり聞こえるのですが、解説が聞こえるということはそれだけ集中できていないということだと思いますので、より集中しなければいけないなと感じています。
また、観戦者の方を見てしまうと頭が真っ白になるので、公開対局といえども盤上に意識を向けるようにしています。周りの音が耳に入ってこないレベルで集中するのがベストな状態なので、その状態に常にもっていけたら良いなと考えています(笑)。
最後に、「JTプロ公式戦」への意気込みをお願いします。
2021年は1勝だったので、2022年は2勝して決勝戦まで勝ち進みたいです。出場する棋士の方々は全員強豪ですので、自身としては精いっぱい準備をして良い将棋を指すだけです。一つでも多く勝って、一人でも多くの方々に将棋を指している姿を見てもらい、楽しんでもらえたらと思っています。
永瀬拓矢(九段)
1992年9月5日生まれ神奈川県横浜市出身
- 2001年小学3、4年生の頃に将棋を始める
- 2004年「将棋日本シリーズ こども大会」で2年連続準優勝、奨励会入会
- 2009年17歳0か月で四段に昇段、プロ入り
- 2018年叡王戦を制し初タイトルを獲得
- 2019年王座を獲得し二冠に
- 2020年王座戦で初防衛を果たし九段に昇段、「JTプロ公式戦」初出場で準優勝
- 2021年王座戦で防衛を果たし三連覇達成
2018年に初タイトル獲得後、現在までタイトルホルダーとして将棋界を牽引する永瀬拓矢さん。そんな永瀬さんは少年時代から、「将棋日本シリーズ こども大会 東京大会」決勝戦に2年連続で進出を果たすほどの実力の持ち主だったのですが、意外にも将棋を始めたのは遅かったそう。
インタビューでは、「将棋日本シリーズ こども大会」の思い出や、諦めずに将棋を続けることの大切さを語っていただきました。
永瀬さんに過去の「JTプロ公式戦」の中から一局を選んでいただきました。
特に印象に残った局面もワンポイント解説!
最終盤を迎えた局面、この対局で勝ちを逃すと後々厳しくなってしまう場面だったので、チャンスはできるだけ逃さずに一手一手を着実に積み重ねて、勝利までの道を切り拓いた一局でした。
最終盤の局面ですがここで勝ちを逃すと大変な場面で、最大のチャンスでもありましたので選びました。
88手目に「4八成銀」とすると次は「7九金」の詰めろとなりますが、ここで「7八玉」としたとしても「7九金」の受けになっていません。
「5九銀」などを逆に打っても「7九金」の受けにはなりませんので、「7九」に駒を打つしかありません。
「7九飛車」とすると「8八金、8九飛車、同金」、次に「7九飛車」からの詰めろとなりますので「7九」に駒を打つくらいですが、「7九銀、5九飛車、7八玉、7九飛車成」で詰みとなります。
最終盤の局面ですがここで勝ちを逃すと大変な場面で、最大のチャンスでもありましたので選びました。
88手目に「4八成銀」とすると次は「7九金」の詰めろとなりますが、ここで「7八玉」としたとしても「7九金」の受けになっていません。
「5九銀」などを逆に打っても「7九金」の受けにはなりませんので、「7九」に駒を打つしかありません。
「7九飛車」とすると「8八金、8九飛車、同金」、次に「7九飛車」からの詰めろとなりますので「7九」に駒を打つくらいですが、「7九銀、5九飛車、7八玉、7九飛車成」で詰みとなります。
また、「7九銀」という手に対しては「8八金」と打ち、その後「同銀、同と」となりますが、「7八銀」「5八銀」両狙いを一手で受ける手がないので必至となります。
他の手では少し攻めが難しいので「4八成銀」とすることで「8九のと金」が生き、「7九金」からの詰めろが受けにくい形となりました。
また、「7九銀」という手に対しては「8八金」と打ち、その後「同銀、同と」となりますが、「7八銀」「5八銀」両狙いを一手で受ける手がないので必至となります。
他の手では少し攻めが難しいので「4八成銀」とすることで「8九のと金」が生き、「7九金」からの詰めろが受けにくい形となりました。