JT with Farmers #07
マラウイで考える、持続可能性の本質
2023/9/5
JTが目指すサステナビリティの一つに、たばこ産業全体の持続可能性を探り、それを未来につなげていくことがあります。それは、たばこの製造過程で地球環境に与えるインパクトを最小限にすることや、地域経済への貢献、農業課題の解決・改善など、さまざまなテーマがあります。JTがそれら一つひとつと真摯に向き合い、より良い環境づくりに挑み続けるために、欠かすことのできないパートナーが葉たばこ農家です。本特集「JT with Farmers」では、葉たばこ農家の、農業に対する想いや課題、新しい取り組みや未来への展望などを取材しました。彼らに寄り添い、ともにアクションを起こすことが、たばこ産業の持続可能性を探る第一歩であると考えています。
そして、そのアクションは国内だけにとどまりません。JTグループは、世界中の葉たばこ農家とパートナーシップを組み、その土地ごとでサポートを行っています。そこで今回は、アフリカ・マラウイ共和国を訪れ、現地の葉たばこ農業の実態と、私たちJTグループの取り組みについて紹介します。厳しい境の中でも一生懸命に働く農家の姿と、子どもたちの笑顔を前に、私たちには何ができるのか、改めて見つめ直しました。
“Warm Heart of Africa”の厳しい現実
上を見れば広大な青い空、下を見れば赤い大地、横を見れば緑豊かな自然、そして――。
「Muli bwanji(こんにちは)!」
私たち取材陣とすれ違うたびに、笑顔で声をかけてくれるフレンドリーな人々。
ここは、アフリカ南部にある小さな国、マラウイ共和国。世界遺産でもあるマラウイ湖に沿って南北に細長い国土が形成され、日本の約1/3の面積に、2,000万人ほどの人々が暮らしています。16世紀ごろから19世紀末まではマラビ帝国として栄え、その後イギリスに植民地化されるも、1964年に独立。以降は一度も内戦や紛争を経験していない民主主義国家であり、冒頭に記したような明るくおおらかな国民性から“Warm Heart of Africa(アフリカの温かい心)”とも称されています。
しかし正直なところ、マラウイは豊かな国ではありません。国内の鉱物資源も乏しく、一人あたりの国民総所得は年630ドル(2021年)。10万円にも満たない額です。インフラや教育、医療サービスなどの普及にも課題を抱えており、そのしわよせを受けるのは多くの場合、子どもたちです。低栄養状態にある乳幼児や、学校に通えず児童労働に従事する少年少女など、未来を担う子どもたちが困難な状況に置かれており、日本も青年海外協力隊を多数派遣するなどして援助・改善に努めています。
そんな中、国の大きな財源となっているのが、「葉たばこ」です。
葉たばこが経済を支える国で
マラウイは、人口の約8割が農業に従事している農業国。紅茶や砂糖、ナッツなどを生産していますが、その中でも最も大きな存在感を誇るのが、葉たばこ。実に外貨獲得の6割、税収の2割がたばこ産業によるものと聞くと、マラウイにおける葉たばこの重要性が分かるのではないでしょうか。マラウイでは主にバーレー種が栽培されており、その生産量は世界で7番目。日本の約6倍にもおよびます。なお、マラウイで生産された葉たばこは、日本国内で販売されている一部のたばこ製品にも使われています。
JTグループは、マラウイでの葉たばこ農業をより効率的で質の高いものにすべく、全面的にサポートしています。それは、単に葉たばこの価値を高めるためだけでなく、葉たばこ農家の経営状況を改善し生活基盤を安定させることで、持続的な産業としてあり続けることが目標です。また、マラウイなどの発展途上国では、児童労働の防止など、適正な労働環境の整備や自然環境への配慮も、持続的な葉たばこ生産において重要な要素となっています。
「まるで“Parents”」――農家を変えた出会い
灼熱の太陽の下、葉たばこ畑で汗をかきながら手際よく作業を行うのは、ウィラード・キマンゲニさん、53歳。妻と子ども3人を、葉たばこをはじめとする農業で養っています。
「もともと実家が葉たばこ農業をしていて、私は24歳から親と一緒に働くようになりました。当初は、見よう見まねで親のやり方を学んだのですが、なかなか経営が安定せず、生活することで手一杯でした。本当につらくて、一度は葉たばこ栽培をやめた時期もあったほどです」
マラウイでは農家を取り巻く環境は厳しく、特に葉たばこの販売前は生活が困窮し、主食であるトウモロコシすら買うことができず、トウモロコシの芯をスープにして子どもに与えているようなケースもあるといいます。
そんなウィラードさんの厳しい状況を変えたのが、JTグループとの出会いでした。日本とは異なり、マラウイではどの会社に葉たばこを販売するかは農家の自由で、ウィラードさんは2011年からJTグループと契約。そのメリットについて、「ただの売り先としてではなく、パートナーしてソフト・ハードの両面からサポートが受けられること」と話します。
「契約後は耕作時期ごとに的確な技術指導を受けられるようになり、葉たばこの品質・収量ともに大幅に向上しました。また、農作物の灌漑や日常生活で使用できるソーラー発電式の採水機も設置してもらいました。こうした多くのサポートの結果、土地を買え、家を建てられ、今では車も所有しています。本当に、感謝しています。JTグループは私を大きく成長させてくれた“Parents(両親)”のような存在なんです」
そうウィラードさんは言葉に熱を込めますが、高い成果を出したのはウィラードさんの真面目でひたむきな働きぶりがあってこそ。葉たばこ以外にも落花生や大豆、トマトなどを栽培していますが、葉たばこが最も収益性が高く、現在はさらに耕作面積を増やしているそうです。
「妻と一緒に愛情を込めて育てた葉たばこが高い値段で売れた時、そしてその後に家族みんなでチャンボ(マラウイ湖に生息する淡水魚)を調理して食べる時、私は心から幸せを感じるのです」
家族で食卓を囲み、好物に舌鼓を打ちながら楽しいひと時を過ごすーーそんな何気ないシーンがここマラウイではとても貴重なことであり、そのために葉たばこ栽培が重要な役割を担っていることが、ウィラードさんの言葉から伝わってきます。
三方良しのサステナブル「ライブバーン」とは?
上述したような農家の経営安定化へ向けた耕作支援もあって、マラウイでは現在9000戸近くの農家がJTグループと契約しており、契約総面積は約1万ヘクタールにおよびます。
JTグループでは、こうした多くの契約農家とともに環境に配慮した葉たばこ栽培にも取り組んでいます。
特に大きな成果を上げているのが「ライブバーン・プログラム」です。葉たばこ栽培では、収穫した葉たばこを乾燥させる工程が欠かせません。マラウイでは、通常、植林して育った若木を4年後に伐採し、その木材でバーレー種を乾燥する小屋をつくります。しかしライブバーンは、伐採せずに生きた樹木を柱として、そのまま乾燥に使用するのです。
この乾燥方法のメリットは3点あります。1つ目は、森林破壊を減らすエコフレンドリーな技術であること。2つ目は、乾燥小屋を組み立てる手間をなくし、農家経営にかかる労力やコストを低減できること。3つ目として、生きた木を用いることで乾燥施設内が適切な温度・湿度に保たれ、葉たばこの品質が安定すること。
そう、環境、農家、葉たばこそれぞれに良い影響を与える“三方良し”の手法が、ライブバーンなのです。マラウイでは現在、約5000のライブバーンが乾燥小屋として使用されており、2024年までに国内すべての乾燥施設をライブバーンにすることを目指しています。
農家のサポートや、環境に配慮した取り組みを通して、サステナブルな葉たばこ農業を目指すJTグループ。ただ、その実現の障壁となっているのが、不十分な社会インフラです。たとえばマラウイでは学校の数が不足しているため、教育を受けられない子どもたちがたくさんいます。彼らは葉たばこ農業を手伝わされ、国連で禁止されている児童労働に追い込まれる可能性があります。教育の機会がないことは、子どもたちの未来の可能性も狭めてしまうでしょう。また、病院の不足も大きな課題です。マラウイではHIVやマラリア、コレラなどの感染症リスクが高く、病院がなければ命を落とすケースもたくさんあります。
こうした根本的な社会課題が改善しない限り、真の意味でサステナブルな葉たばこ農業は実現しないーーそこで、JTグループは「教育・医療支援」の分野にも踏み出していったのです。(次回に続く)
今回のサステナブルなポイント「貧困をなくそう」
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貧しい国だからこそできることがある
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農業の質を高めることは、暮らしを安定させること
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「環境」「農家」「葉たばこ」すべてで持続可能な取り組み