JT with Farmers #04
葉たばこ栽培に息づくジャパンクオリティ
渡辺文武さん/福島県田村市

2022/11/14

JTが目指すサステナビリティの一つに、日本のたばこ産業全体の持続可能性を探り、それを未来につなげていくことがあります。それは、たばこの製造過程で地球環境に与えるインパクトを最小限にすることや、地域経済への貢献、農業課題の解決・改善など、さまざまなテーマがあります。JTがそれらひとつひとつと真摯に向き合い、より良い環境づくりに挑み続けるために、欠かすことのできないパートナーが葉たばこ農家です。本特集「JT with Farmers」では、日本全国にいらっしゃる葉たばこ農家の、農業に対する想いや課題、新しい取り組みや未来の展望などを取材しました。彼らに寄り添い、ともにアクションを起こすことが、たばこ産業の持続可能性を探る第一歩であると考えています。

第4回目は、福島県田村市で葉たばこ栽培を行う渡辺文武さんの取り組みを通して、「日本の葉たばこ栽培」について考えます。渡辺さんは、かつて葉たばこの研究機関のスタッフとして働き、アメリカへ視察にも行くなど、葉たばこ栽培にひとかたならぬ情熱をかけています。そんな渡辺さんから見た日本の葉たばこ栽培の強みと、技術革新への想いとはーー。

新農機を開発!葉たばこ栽培への飽くなき探究心

郡山駅から車でおよそ40分の距離にある福島県田村市船引町。ここはかつて全国屈指の葉たばこ産地として知られ、葉たばこが街の産業や文化と深く結びついています。そんな土地で、最大規模の葉たばこ栽培を行っているのが渡辺文武さん。江戸時代から続く、歴史ある葉たばこ農家です。

渡辺さんが農家を継ぐと決意してまず飛び込んだのは、「福島県たばこ試験場」。ここは、葉たばこ栽培の生産性向上や生産安定を目的に、栽培技術や環境にやさしい新資材・農薬の試験などを実施していた研究施設。渡辺さんは数年間、スタッフとして葉たばこの研究に勤しみました。一般的には、畑で汗をかきながら学んでいくケースが多いのですが、まず研究員という立場を選んだ理由を渡辺さんはこう語ります。

「教科書的な育て方を最初に知っておきたかったんです。その結果、うちの畑で続けてきた伝統的な手法の検証ができるようになりましたし、新たな試みをする上での判断基準にもなる。たばこ試験場で得た学びは、その後のたばこづくりの軸となりました」

この言葉からもわかるように、渡辺さんは非常に広い視野で葉たばこ栽培と向き合う、研究熱心な農家さん。試験場を経て、代々受け継いできた畑で栽培に取り組むようになっても、その姿勢は変わりません。畑の規模は、乾燥用のパイプハウスなども含めるとおよそ6ヘクタール(サッカーフィールド約8.5面分)にもおよびます。その広大な面積を効率よく活用し、生産性を向上させるため、渡辺さんは日々創意工夫を怠りません。

そのひとつが、「ハンディ幹刈機」の導入です。主に東北地方で育てられているバーレー種は、茎の下から真ん中までの葉は手で収穫し、残りの上位葉は葉のついた幹を機械などで刈り取ります。これを「幹刈」と言いますが、機械が入れない場所などは人力で刈る必要がありました。その負担を軽減するため、考案されたのが携帯型の幹刈機。2022年に商品化され、約50台ほどが農家の現場で活躍しています。実はこの商品化、渡辺さんの近隣の葉たばこ農家が古い農機具をアレンジしたのが、はじまりだったそう。

ハンディ幹刈機を手にする渡辺さん。軽量化され、作業をともにする奥さんでも使いやすくなった

現場ならではのアイデアから生み出され、JTも一体となって作り上げたのハンディ幹刈機。そんな最先端技術を率先して取り入れるのも、渡辺さんの葉たばこ栽培へのあくなき探求心がゆえです。

たばこだけじゃない、自然を循環させたたばこ耕作

新たな取り組みに積極的な渡辺さんですが、「基本の手法は昔と変わらない」と言います。ここで、渡辺さんの畑での作業風景を見てみましょう。そこには先人たちの知恵がつまっており、まさにサステナブルといえる営みが散見できます。

たとえば、乾燥のためのパイプハウスには、藁が敷いてあります。これは、渡辺さんが行っている稲作から取れるもの。藁は吸湿性に優れているとされ、多雨多湿な時期でも、葉たばこの円滑な乾燥の助けになるそうです。

また、乾燥の際には、多くの農家は葉たばこを縄に編み付けて吊り下げますが、ここでも使われているのは麻縄と、自然素材を活用。

さらに障壁作物の存在も環境を守る知恵といえます。障壁作物は、その名の通り背が高く生い茂り壁のようになってくれる作物で、渡辺さんはソルゴーという植物を活用しています。その役割は、葉たばこ栽培に散布する農薬が周囲の田んぼや野菜畑へ飛散することを防ぐというもの。その逆もまたしかりで、さまざまな外的要因から生育環境を守ってくれるのです。さらにこのソルゴーは枯れたら堆肥として活用するとのこと。この土地で生物の循環が幾層にも行われているのです。

麻縄に葉たばこを編み付けていく。4メートルの麻縄におよそ100枚の葉が連なる

葉たばこ畑を囲むようにそびえる障壁作物のソルゴー

こうした当たり前に行っていることも、先人たちが積み重ね、改善してきた技術の結果です。

「やっぱり、こういう根本の環境を守った上での新しい技術だと思うんです。私たちの世代が守るべきものは守り、変えるべきものは変えていくことが大事ですね」

鮮やかな手さばきで麻縄に葉たばこを編み付けていきながら、渡辺さんは伝統と変化のバランスについて、そう話しくれました。

アメリカ視察で感じた、日本の農業の強さ

実は渡辺さんは、30代半ばの頃に葉たばこ栽培の視察研修のためアメリカを訪れています。

「アメリカは世界トップクラスの生産国なので、栽培環境や技術を見ておきたかったんです。でも、そもそもの前提が違いすぎました(笑)。向こうはなにもかもが大規模で、天候にも恵まれているので、ある意味大雑把に栽培してもそれなりの収量は確保できるんです」

スケールの大きさや、気象条件の違いなど、“世界”の現実を前に、葉たばこ栽培を諦めた同業者もいた中で、渡辺さんはかえって自分のやり方に自信を持ったと言います。

「正直、日本の方が技術はあると思いました。環境が不利な分、日本は技術力を高めて、丁寧に栽培をしてきた。その結果、質の高い葉たばこが獲れるのだとわかりました」

たとえばアメリカでは、葉たばこ収穫の際にはいきなり機械で幹を下部から一度に刈り取ります。しかし、前述したように、日本の場合は下から一枚一枚手で取っていきます。すべての葉が熟度良好な状態になるのを待ち、病気の発生状況も確認しながら適期に収穫することで、葉たばこの品質は高まります。

「もちろん手間はかかりますけどね。でも、与えられた環境や気候はどうにもならない。だから、その中でベストをつくすだけです」

と言い切る姿は、日本の葉たばこ農家としての矜持を感じさせてくれます。そんな渡辺さんが今期待しているのは、現在栽培している品種より病気になりにくい品種。渡辺さんはJTの依頼を受け試験的に栽培をしており、手応えを感じているそうです。

「葉たばこ農家にとって一番辛いのは、丹精込めて育てた葉たばこが病気になってしまうこと。正直、もう全部投げ出したくなるときもあります。この新しい品種は今のところ病気になっていないし、精神的にとても楽です」

品種改良も、日本の技術のひとつ。葉たばこ農業の分野でも、技術大国としての強みが発揮されているようです。

リーフマネージャーであるJT中日本リーフオフィスの高水琢也(右)と。渡辺さんは技術力や農家経営が安定しており、生産性向上への取り組みにも期待が寄せられている

取材の最後に、渡辺さんに、なぜここまで研究熱心に葉たばこ農業に打ち込めるのかを聞きました。

「そうだなぁ……もちろん愛着はあります。でも詰まるところは、音かもしれません」

音?

「いい葉たばこって、収穫する時に『パキッ』って爽快な音がするんです。それが本当に気持ちいい音でね。それを聞いていると、大変な作業も全部忘れてしまう。今年もあの音をたくさん聞きたいですね」

葉たばこがもたらす響きの一つひとつに、心を踊らす。そのために、技術を高め、工夫をこらす。天性の葉たばこ農家の姿が、ここにありました。

今回のサステナブルなポイント「技術革新」

1.

現場の負担を軽減するアイデアを現場から発出

2.

伝統的な栽培環境と技術で、自然の循環を守る

3.

日本ならではの丁寧な技が質を高める

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