JT with Farmers #03
サステナブルな農業を叶える、「テクノロジー」と「温故知新」
立花優さん/熊本県山鹿市
2022/10/14
JTが目指すサステナビリティの一つに、日本のたばこ産業全体の持続可能性を探り、それを未来につなげていくことがあります。それは、たばこの製造過程で地球環境に与えるインパクトを最小限にすることや、地域経済への貢献、農業課題の解決・改善など、さまざまなテーマがあります。JTがそれら一つひとつと真摯に向き合い、より良い環境づくりに挑み続けるために、欠かすことのできないパートナーが葉たばこ農家です。本特集「JT with Farmers」では、日本全国にいらっしゃる葉たばこ農家の、農業に対する想いや課題、新しい取り組みや未来の展望などを取材しました。彼らに寄り添い、ともにアクションを起こすことが、たばこ産業の持続可能性を探る第一歩であると考えています。
第3回は、熊本県山鹿市で葉たばこ栽培を行う立花優さんの取り組みをご紹介します。立花さんは環境負荷低減型の乾燥機を活用するなど、新たな設備導入にも積極的で、環境に優しい葉たばこ農業を実践されています。一方で、「昔ながらの営みこそサステナブル」とおっしゃいます。そのココロは――?
6代目が直面した葉たばこ農業の「3つの課題」
もともと、IT企業でシステムエンジニア(SE)として活躍していた立花さん。「SEの仕事は好きで、社会人生活も充実していました」と話す彼が、葉たばこ農家として就農したのは、他ならぬ“家族への想い”によるものでした。
「SEの仕事は出張も多かったことに加え、10年ほど前、家族の病気が相次いでしまったんです。2人の子どもを安心して育てるために、また農家である両親を支えるために、地元に戻って家業である葉たばこ農業を継ぐことがベストだと決断しました」
山鹿市は江戸時代から葉たばこ栽培が盛んだったエリア。立花さんの実家も代々続く葉たばこ農家で、立花さんで6代目を数えます。若い頃から手伝いもしていたので多少の慣れもあったはずですが、それでも職業として農業に向き合ってみると、さまざまな困難に直面されたそうです。なかでも、痛切に感じたのが“3つの課題”です。
「まず、農業は周りの農家や地域の協力がなければ絶対にできないということ。地元を離れていた私には同じ目標を持つ仲間や協力者が不可欠でした。2つ目は、両親が行っていた農作業は長年の経験や試行錯誤の積み重ねだったからこそ、一朝一夕に習得できるものではないということ。最後に、生産資材の在庫やコスト、畑や作物の情報が管理されておらず、さまざまな無駄が発生していたことです」
“仲間”に関しては、たばこ耕作組合青年部や若い世代からなる後継者グループなどに入り信頼とネットワークを広げ、自身の知見を深めていきました。仲間たちとはいまでも活発なコミュニケーションを交わしており、葉たばこ農業に関するさまざまな情報を共有しているそうです。
元SEだからこそ! 農業のIT化を加速
2つ目と3つ目の課題解決には、立花さんのSEとしてのキャリアが役立ちました。そう、IT化です。
「技術面では、両親から作業に関する知恵や知識を聞き取り、そこからWBS(Work Breakdown Structure)を使って作業タスクを細かく洗い出すことで、作業に漏れがないかを確認できるようにしました。また、作業の出戻りや、遅延が生じないようガントチャートを作成し、すべての情報をデータベース化しました。作業日誌も細かく記録し、データを日々アップデート。これらの情報は、クラウド上に置いているため、スマートフォンやタブレット端末から、いつでも、どこでも、関わる人誰もが編集・共有できます。こうしてITを活用することで、両親の長年の経験やそれに基づく農作業のいろはを短期間で負担も少なく引き継ぐことができたと思います」
WBSは、「作業分解構成図」とも呼ばれ、プロジェクトの作業管理に使われるツール。ガントチャートはスケジュールをわかりやすく可視化した工程図のことで、ともにシステム開発などでは頻繁に活用されます。
「3つ目の課題に対しては、生産資材、畑、作物の状況を見える化し、在庫切れや過剰在庫が発生しないように努めました。また、うちでは米なども育てているのですが、作物ごとに生産コストを算出。過剰投資が発生していないかを確認し、次年度へフィードバックできるシステムをつくりました」
こうして立花さんは農業のIT化を著しく推進させました。それまで暗黙知だった農業技術を受け継ぎながら、より生産性を高められることができたと言います。
「今、農業分野でのテクノロジー活用が盛んにうたわれていますが、なにもロボットやAIなど最先端のものである必要はないと思うんです。現場レベルでは、パソコン一台でできることがたくさんあります。まずはできるところからやってみて、その結果、生産性が高まれば、葉たばこ農業の持続可能性も高まると思います」
連綿と続く営みに、サステナブルの本質があった
立花さんは、IT化だけでなく、新たな設備導入にも積極的です。その一つが、環境負荷低減型の乾燥機、通称「エコ乾」です。
乾燥は、葉たばこを生産する上で重要な工程です。ここ山鹿市で育てられている品種・黄色種の場合は、収穫後におよそ80〜120時間ほど乾燥機で加熱乾燥し、葉中に蓄積されたタンパク質やでんぷんなどをアミノ酸や糖に分解。これによって葉たばこ特有の香りや味をつくり出します。
「エコ乾」は、乾燥機の最新型。断熱性を高めたことで、旧来の乾燥機に比べてエネルギー効率はおよそ3割向上し、CO2排出量や燃料費の低減にも貢献します。農家が新たに乾燥機を導入する場合、JTは「エコ乾」を推奨しており、費用の一部を助成しています。立花さんはこの「エコ乾」を2021年に使い始めました。
「それまでの乾燥機に比べ、断熱性や密閉性が高い分、黄変(乾燥して葉たばこの色が黄色くなること)がしっかり仕上がる。それと、タッチパネル式でコンピュータ制御されているので操作性も高く、作業が楽になりました」
「エコ乾」以外にも、畑のうねを覆う「マルチ」に、環境にやさしい生分解性の製品を導入することを検討しているとか。そこから垣間見えるのは “これからの環境と農業の関係”です。
「環境に配慮した農業は、これからますます重要になっていくでしょう。エコ乾のような設備や、生分解性マルチフィルムのような農業資材もそうですが、農家の意識自体も問われていくと思います」
と、話しつつ、「ただ」と立花さんは言葉を継ぎます。
「よくよく考えてみると、昔ながらの農業は資源を循環させながら営まれていました。たとえば、今でもうちは薪でお風呂を沸かしているのですが、炭化した木くずを畑の土に混ぜるんです。すると、土の回復が早まる感覚があります。科学的には、土の通気性や透水性などが高くなると言われているようですが、昔の人たちはそれを体感的にわかっていたのでしょう」
他にも、近所の畜産農家さんからいただいた堆肥を、葉たばこ畑の土壌に混ぜ込んでいるそう。なお、作業小屋も山から切り出した杉材で、お父様と一緒に自力で建設。そこに巣をつくったツバメの透き通ったさえずりが響いています。
“サステナブル”という言葉に頼らずとも、当たり前のように環境や資源を大切にしていた日本の葉たばこ農業。それを営む葉たばこ農家たちの暮らしのなかにこそ、今の私たちにとって必要な学びが詰まっているのです。IT化が進む現代の叡智を適度に取り込みつつ、昔ながらの営みにも目を向け、良いものは残していくというマインドこそ、これからのサステナビリティを考えていく上で不可欠なのかもしれません。
今回のサステナブルなポイント「テクノロジーと温故知新」
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IT化により事業承継と生産性向上をスムーズに
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新たな設備投資で環境負荷も低減
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昔ながらの取り組みにサステナブルのヒントあり