お仕事対談

CROSS TALK

香りの素材を組み合わせて、たばこの香りをより豊かにする
「調香」という仕事

「調香」は、香素と呼ばれる香りの素材を組み合わせて香料をつくり、たばこ製品に銘柄ごとのキャラクターを彩っていく仕事。そのさじ加減ひとつで、味や香りに大きな影響を与えるだけに、フレーバリストたちは慎重に、かつ大胆に、レシピづくりに取り組んでいます。

MEMBER

メンバー

  • 技術開発

    室本 亮介

    Ryosuke Muromoto

    紙巻たばこ用の香料開発とメンテナンスを担当。

  • 技術開発

    澁谷 哲朗

    Teturo Shibuya

    加熱式たばこ用スティックの香料開発を担当。

  • 技術開発

    朴 夏林

    Halim Park

    加熱式たばこ用スティックの香料開発を担当。

Theme 01

「調香」とはどんな仕事ですか? 仕事の内容と流れを教えてください。

数百種類もある香素を混ぜ、たばこ製品のキャラクターとなる香料をつくる

  • 室本

    ひと言で言うと、紙巻たばこやRRP*に香りをつける香料を作り出すことです。香料は、香素と呼ばれる複数の素材を種類や量のバランスを考えながら混ぜてつくります。

    *Reduced-Risk Products:喫煙に伴う健康へのリスクを低減させる可能性のある製品

  • 澁谷

    ハーブなど植物から抽出したものや合成されたものなど、香素の種類はかなりたくさんあり、私たちがふだん、仕事で使っているだけでも300から400種類はあります。

  • 室本

    管理するために香素には番号をつけているのですが、500番台のものもありますから、実際はもっと多いかも。液体や粉末、粘性や色もさまざまです。

  • 素材である香素の香りもさまざまなのですが、香素を組み合わせることで、もっとバリエーション豊かでユニークな香料をつくることができます。

  • 澁谷

    組み合わせる香素の種類によっても違ってくるし、量によっても違ってくる。無限の組み合わせができると言っても過言ではないよね。

  • 室本

    少しだけ入れたらフルーティになるけど、たくさん入れると硫黄のような匂いになる香素もあるように、調香の仕事はとても奥深くておもしろい世界です。

  • 澁谷

    無限の組み合わせができるからこそ、たばこづくりにおける調香の役割も幅広いのでしょう。銘柄の特徴付けはもちろん、「刺激を抑えてほしい」とか、「煙量を出したい」とか、一緒に開発プロジェクトを行っているメンバーからさまざまなリクエストが届き、まるで“なんでも屋さん”のように対応しています(笑)。

  • 室本

    調香でしかできないことがあるので、他の担当者から頼りにされていると感じる場面も多いですよね。

  • そうですね。香料は香りそのものの質をコントロールするだけでなく、たばこ葉の味わいを豊かにしたり、煙の質を変えたりと、調香には香り以外にもたばこの味や香りをサポートする役割もありますから。

  • 室本

    紙巻たばこやRRP*の新製品開発の流れは、まず、プロジェクトをまとめる担当者から、私たちの部署にオーダーが入ります。商品企画やマーケティング担当者と打ち合わせをして、新製品のコンセプトやどんな香りが求められているかなど、オーダーの詳細を話し合うこともあります。

    *Reduced-Risk Products:喫煙に伴う健康へのリスクを低減させる可能性のある製品

  • 澁谷

    調香の担当者は依頼された製品のコンセプトにふさわしい香料を自分なりにイメージし、香素を調合してレシピを検討します。

  • その過程で、プロトタイプをいくつもつくります。調合した香料を香料がかかっていない無香のスティックにシリンジで注入したり、たばこ葉にスプレーで噴霧して試喫(試験喫煙、実際にプロトタイプを喫煙し味や香りなどを確認する作業)したりして、味や香りをチェックしていきます。オーダーに対して何が足りないか、微妙な味や香りの差を見出しながら、再び香料をつくり、試喫するという作業を何度も繰り返します。はじめは調香のメンバーだけで試喫し、完成度が高まってきたら、プロジェクトメンバーにも試喫してもらい、意見を出し合って、さらに改善していくという流れです。

  • 澁谷

    葉たばこのブレンドを担当している葉組のチームは、私たちと同じフロアにいます。なので、ちょっとした相談や質問したいときもすぐに行ける間柄です。

  • 室本

    RRP*も紙巻たばこも、葉組のメンバーと協業して仕事を進めています。感覚的には協業というほど、大げさなものではないですね。お互いのデスクにフラッと立ち寄って話すみたいな、仲間という感じです。

    *Reduced-Risk Products:喫煙に伴う健康へのリスクを低減させる可能性のある製品

  • 澁谷

    葉組など調香以外の担当者とともに試喫を行うと、多様な意見が出されるので、改良するにあたってとても参考になります。

  • 室本

    そんなふうにして新たにつくった香料のレシピを、僕らは「調製標準」と呼んでいますが、それはデータベースとして保存し、厳重に保管しています。

味や香りを一定に保つために行うメンテナンス

  • 室本

    一方、メンテナンスは、既に販売されている商品の味や香りを維持するための作業です。銘柄ごとに、どんな香料であるかはレシピとして保管されているのですが、たばこ製品に関連する規制が変わったり、香素の供給状況が変わったりすると、最初のレシピでは、同じ香りがつくれないことがあるんです。そのため、保管している最初のレシピを参考にしながらこれまで通りの味や香りを保てるようレシピを調整します。これがメンテナンスという仕事です。

  • RRP*の場合、スティックを加熱するデバイスが変わると、加熱温度が変わることもあるので、メンテナンスが必要になります。加熱温度は香りの発現にとても影響するんです。そのため、デバイスの開発にあわせて、香料のメンテナンスを行います。

    *Reduced-Risk Products:喫煙に伴う健康へのリスクを低減させる可能性のある製品

  • 澁谷

    その他にも、スティックのフィルターのサイズが変わるなど材料品の規格に変更があった場合も、香りが微妙に変化しますから、メンテナンスを行います。

  • 室本

    「調香」の担当者は、香素そのものの香りの特性だけでなく、加熱されたときにどんな香りが発現するか、温度による変化特性も頭に入れています。私が担当する紙巻たばこの場合は、燃焼温度であるおよそ700度のときに、どんな香りがでるかを把握しておかなければなりません。一方、加熱式たばこは、デバイスによって加熱温度が変わるため、紙巻たばことは異なる難しさがありますね。

  • 澁谷

    紙巻たばこと加熱式たばこでは、全然、違いますね。香素にはそれぞれ揮発する温度があるので、例えば、加熱温度200度のデバイスには、それに合う香素を組み合わせて香料をつくります。300度に変わるとその温度に合う香素を選び直す必要が生じます。200度のままだと早く揮発しすぎて、だんだん味が薄くなってくる可能性がありますから、最後までおいしく吸えるよう、香料を調整しています。

  • 室本

    デバイスが変化すると香料のメンテナンスが必要になるように、材料がどう切り替わったとか、葉組がどう変わったとかも把握することも大事ですよね。

Theme 02

「調香」の仕事のおもしろさややりがいは、どんなときに感じますか?

つくる香りに正解がないのが「調香」のおもしろさ

  • 澁谷

    「調香」の仕事のおもしろさは、先程も話しましたが、300から400種類以上ある香素の組み合わせと、それらをどれくらいの量で配合するかによって、ほぼ無限の味や香りの表現ができるところです。レシピづくりの際に、たとえ香素の量を間違えてしまっても、逆にいい香りが生まれることもけっこうあります。ちょっとした失敗が新しい発見につながることも多いのです。

  • 私は、香料づくりの依頼にうまく応えられたときはうれしいですね。与えられた課題をクリアするだけではなく、依頼者から「おいしいね」とか「こんな香りもつくれるんだね」といった激励の言葉をかけてもらったときは、なおさらです。また、正解がないところも調香のおもしろさです。バナナ風味の香料をつくるとして、私がつくるバナナの香料と、渋谷さんや室本さんがつくるバナナの香料ではみんな違います。どれが正解かではなく、どれも個性があって、いい香りなんです。

  • 室本

    正解はないけど、最後にはどの香りを採用するかを決定しなければなりません。候補のプロトタイプを並べて、プロジェクトメンバーとの試喫会で決定しますが、「どれも甲乙つけがたい」となった場合は、お客様調査を実施し、その結果を見て決定することもあります。

  • 澁谷

    お客様調査は、好き嫌いの軸で点数をつけて評価を行いますが、平均点が高いものよりも、点数が高い人と低い人に大きく分かれるものを採択する場合もあります。以前、発売したフレーバーカプセルを使用した商品は、好き嫌いが極端に分かれた評価だったと聞いたことがあります。

  • 室本

    たしかにその製品のように、好みがわかれる香りもあります。市場をみていると、この香りは人気があるんだなという香りタイプもありますが、これまでにはない香りに挑戦することも大切だと思います。お客様のことを想像して開発をしていますが、どんな製品が売れるかを予測するのは簡単ではありません。

  • 澁谷

    自分がおいしいと思っても、お客様においしいと思ってもらわなければ意味がないですから。香りづけにはどうしてもつくり手の個性が反映してしまいます。お客様が喜ばれている様子を思い描きながら香りをつくるのは、調香の仕事の難しいところでもあり、やりがいを感じるところでもあります。

製品が世の中に出たときの達成感はひとしお

  • 室本

    さっき朴さんから、「バナナ風味の香りに正解はない」という話がありましたが、僕が調香の仕事で難しいと感じるのは、感覚を言語ですり合わせること。ナッティ、フルーティ、フローラル、スイートなど香りを表す言葉は数限りなくあって、僕も新人研修のときに1番から500番台まである香素をすべて嗅ぎ、香りを言葉で表す訓練をしましたが、今でもほかのメンバーの表現を理解したり、僕の思いを伝えたりすることに難しさと重要性を感じながら仕事を進めています。表現だけでなく、普段の業務においても相手との感覚の違いを意識し、コミュニケーションエラーが起きないように心がけています。

  • 澁谷

    単に「バナナ風味の香り」をつくり、その特徴を言葉で理解し合うだけでなく、完成した「バナナ風味の香り」とたばこ葉本来の香りのマッチングを考えながらつくっていくのも難しいところです。

  • 室本

    そうですよね。香料自体の香りと、それをたばこに添加したものでは味や香りが違いますから。そんな苦労を重ねるからこそ、自分が携わった製品が世の中に出たときの達成感はひとしおです。開発が始まって市場に出るまでに数年間はかかる開発もありますが、たとえその開発を僕から誰かに引き継いだとしても、達成感は十二分に得られます。

Theme 03

「調香」の仕事で大事にしていることは何ですか?

大事にしているのは、偶然性、遊び心、プラスα、感受性

  • 澁谷

    香料のレシピをつくるとき、たとえば甘い香りを強くしたいと思ったら、甘い香素をあえて2、3倍の分量で入れることがあります。甘すぎないかと心配しながら味わってみると、意外といい香りになっていることが少なからずあるのです。「適量」を自分で決めつけずに、予想を超えた分量を配合してみることで、自分の感覚を超えた香りが生まれるという偶然性も仕事をするうえで大事にしています。

  • その姿勢は、固定概念に縛られず、遊び心を持って仕事をすることと言い換えるこができるかもしれません。自分だけでなく、まわりの人の遊び心も尊重することで、“セレンディピティ”に出合えそうな気がします。

  • 室本

    遊び心を持って仕事をすることで、自分にしかないアイデアを発想することもできそうです。僕はオーダーされた香料だけでなく、「こんな香料もつくってみましたが、どうでしょうか?」というふうに、過去の知見を参考にしつつプラスαとして自分なりに工夫を凝らしてつくった香料も提案するようにしています。その提案が通れば、すごくうれしいですね。

  • 「調香」の仕事には、他人に左右されない、豊かで強い感受性も大切でしょう。感受性を養うために、私は社外でさまざまな人と出会えるコミュニティにも参加するようにしています。考え方が異なる人たちと接することで刺激を与えられ、より柔軟な思考を持てる気がします。また、外食するときも、初めて口にする料理や、ふだんは注文しないような料理を食べるようにしています。見たこともない料理の香りを嗅いで、「こんな香りもあるのか」と新鮮な感覚を楽しんでいます。スーパーで買い物するときも、「メロン味のビール」が新発売されたら、買って飲んでみて味や香りを確かめます。そんな体験から新しいアイデアが浮かんだりすることもあります。

  • 澁谷

    ありますよね。僕もふだんからアンテナは張っています。香料の入っている新商品が出たら、とりあえず香りはチェックします。そこからパッとアイデアがひらめいたり、レシピを考えるときに役立ったりもします。

  • あと、健康管理も大切ですね。調香のパフォーマンスがいいのはだいたい体調がいいときなので。体調がよくないと料理も楽しく味わえませんし。

  • 室本

    同感です!

  • 澁谷

    同感です!

これから、調香の仕事でチャレンジしたいこと

  • 室本

    「調香」に携わる誰もが目指すことだと思いますが、自分がつくった味のたばこでヒット商品を生み出したいですね。僕は、初めて吸っておいしいと感じた製品が、JTグループのブルーベリーの味がする紙巻たばこで、その味に惹かれ入社しました。入社後、「調香」のチームに配属され、そのたばこの味をつくった先輩のもとで仕事をスタートできたことは大きな喜びでした。そんな、人の心や記憶に残る味を生み、多くのお客様に吸っていただくことが僕のチャレンジです。また、香料づくりは職人技と言われますが、経験値がなくてもおいしいたばこの味や香りをつくることができる仕組みづくりも必要かと考えています。香料の特徴をデータ化し、マッピングすることで、職人の域に達していない人でも新しい香料を提案することができるようになるのではと、香料データのデジタル化を試みようとしています。

  • 澁谷

    僕は、体性感覚、つまり触覚や痛覚、温度感覚といった味覚・嗅覚以外の感覚に影響を与える香料の組み合わせがあるのではないかと考え、探っています。たとえば、強いメンソール製品を吸ったときに、口内にメンソールの刺激を感じ、苦く感じることがあるのですが、別の香料と組み合わせると喉奥がひんやりする冷感のような感覚に変わったりします。そういう香料の「感じ方」に着目して、研究したいと思っています。

  • 私は、加熱式たばこに対する印象を変えたいです。紙巻たばこを喫煙される方の中には、風味が強めのフレーバータイプに親しみが薄い方もいらっしゃるかもしれません。加熱式たばこや電子たばこの人気が向上するなかで、フレーバータイプのたばこも一つのカテゴリーとして確立していけたらと仕事に取り組んでいます。多彩なフレーバーの中から自分好みのフレーバーを見つけていただくというこれまでにない楽しみ方が普及することで、たばこの選択肢が増えると同時に、たばこに対するイメージや接し方が少しでも変わっていけばうれしいです。



Summary

香りは目には見えませんが、各銘柄の印象を強くするとても重要な役割を果たしています。数百種類もある香素を組み合わせ、新しい香りをつくる「調香」という仕事。正解がない中で、感性をフル回転させて、香りをつくる作業はまるでアーティストのようです。

*このページはJTの事業内容を紹介する目的で作成されたものです。消費者への販売促進もしくはたばこ製品の使用を促す目的ではありません。

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