会長・社外取締役の座談会

山科 裕子

独立社外取締役

木寺 昌人

独立社外取締役

岩井 睦雄

取締役会長

長嶋 由紀子

独立社外取締役

庄司 哲也

独立社外取締役

朝倉 研二

独立社外取締役

新たに2名の社外取締役が就任、取締役会の変化と社外取締役の役割

岩井

JTコーポレート・ガバナンス・ポリシーでは取締役会における独立社外取締役の構成比を3分の1以上と定めていますが、重要なのはこの基準の達成ではなく、取締役会での議論を活性化させ多様な意見を取り入れることです。当社ではここ数年、社外取締役の人数を増やし、多様なバックグラウンドや経験を持つ方々を迎え入れることで、実効性のあるガバナンスを進化させてきました。

3月に新体制となったばかりですので、具体的な変化ではなく期待値を含めてお話しします。新たに加わった山科さんには、金融業界での経験を活かした多岐にわたる視点と、ダイバーシティの観点から、取締役会をさらに活性化していただけることを期待しています。朝倉さんはグローバルなビジネスに携わってきた豊富な経験をお持ちですので、JTがグローバル化の中で直面するさまざまな課題や地政学的リスクなどに対して、その知見を活かしていただくこと、また、自社の組織風土を積極的に変革されてきたと伺っていますので、組織文化についても、現場での視察を通じてご指摘していただけることを期待しています。

山科

昨年から社外監査役としてJTの経営を見てきました。私の経歴を申し上げると、ファイナンスセクターで38年間経験を積んできました。一方、JTはメーカーであり130以上の国と地域でグローバルに事業を展開しているため、金融業界とは異なるリスクテイクの方法や投資回収の時間軸があり、最初は驚きましたが、JTの歴史を学びながら理解を深めてきました。これまでの経験や将来のトレンドを踏まえて、目指す方向に対して客観的な立場から貢献したいと考えています。

朝倉

就任してわずか1カ月ですので、まだ右も左もわからない状況ですが、JTはBtoCのビジネスを展開しており、私の現職であるBtoBのビジネスとの違いを認識し、それをどのように活かすのかが最優先のテーマです。JTがグローバルに事業を展開している点は、現職の会社と類似しているのでわかるのですが、規模を拡大する上でいかに事業展開をマネージするか、また、トータルでのガバナンスをどのように維持するのかに相当腐心されていることと思います。そうした観点から、取締役会を通じて貢献できればと考えています。

長嶋

ダイバーシティについて言及がありましたが、私自身が女性であり、またJTを主体に考えると、アウェイの立場で取締役会に参加していると認識しています。サービスや企業活動を通じて社会に価値を提供する上で、根本にある「個」というものは多様であり、その違いを意識してダイバーシティと言っておりますが、本来は個々の違いを意識せずに最高のパフォーマンスを発揮できるプロセスが理想的であり、振り返った時に「それぞれが違っていたからよかったんだね」と気づく程度が目指す姿のように思います。理想の前提にあるプロセスにおけるダイバーシティというものがどうあるべきか、より違う要素を持ったお二方がボードメンバーに加わっていただいた今こそ、改めて考える節目の時だと感じています。

庄司

今回、昨年まで4名であった社外取締役が5名に増えました。異なる分野での経験が豊富なお二方が加わったことで非常に良い新しいフォーメーションができたと思っています。それぞれのボードメンバーが異なる経験や判断軸を持ち、ダイバーシティを活かしつつ、それをインクルージョンさせながら、パーパス実現のための自由で公平な議論が常にできる体制になっていると考えています。

木寺

庄司さんのおっしゃる通りで、JTの取締役会は非常に明るい雰囲気であり、それがより率直で目的にかなった議論につながっているのではないかと思います。

日本や日本企業を取り巻く環境は国際情勢の観点でも事業の観点でも厳しくなってきていると受け止めています。JTはそういった変化を真正面から捉え、変化に向けて努力している日本企業の一つであり、パーパスを起点としたJTグループの考えるサステナビリティの実現に向け、私も貢献していきたいと思っています。

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資本効率を意識した経営と資本市場との対話

岩井

日本企業のグローバルでの「勝ち筋」を考える際に、PBRなどの資本効率が重要視されるようになってきました。日本は内需が大きな国であり、これまでは、その中でのシェアや売上の確保が重要視されてきました。しかし、日本の人口減少が進み、内需の縮小も想定される中で、資本効率を意識した経営が求められるようになっており、このような変化に適応した経営を行うことが、資本市場から明確に求められるようになってきたのだと思います。

JTも、従来ROEを意識した経営をしていますし、今後たばこ事業において従来のCombustiblesからRRP(Reduced-Risk Products)にシフトが進んでいるような状況を踏まえ、Combustiblesでは、優先順位付けをした、メリハリのある投資を行いつつリターンの最大化を目指す、より効率性を重視した事業運営を推進していきます。そして、そこで得たキャッシュを原資としながら次世代型のRRPにしっかりと投資をしていく、そういった資源配分の考え方を明確にしつつ、企業価値の向上に向けて適切に進捗しているかを取締役会においてモニタリングしていきたいと考えています。

また、最近ではますます投資家との対話の重要性が増しています。対話する際に重要なのは、ただ聞くだけではなく、投資家が提起するポイントの中には誤解も含まれる可能性を認識し、企業としての立場を明確に発信し、説明することです。それに対し「そうは言っても世の中はこうなっているんですよ」という指摘をいただく中で、相互理解を深めることができます。当社では投資家との議論内容やいただいたご指摘をIR部門や執行のトップが取りまとめ、四半期ごとに取締役会に報告し、議論しています。このような自らを改善し進化させるループを作り出すことで、市場や投資家の期待に応えることができると考えています。

庄司

投資家を中心とした資本市場とのコミュニケーションは社外取締役も加わった形でも行われており、これをさらに充実、進展させていくべきだと考えています。私たち社外取締役が一緒にそのような場に参加することで、市場からの期待や要望を温度差なく理解することができます。市場からの企業評価として、格付けやさまざまな客観的指標がJTに対して付されるわけですが、それを向上させるための意見や情報が共有される非常に良い機会ですので、資本市場との対話は積極的に行うべきだと思います。

長嶋

昨年、ESG投資家との対話を行いました。長期的な観点で物事を見る彼らの視点を学ぶことができ、非常に有益なものでした。いただいた質問から2つご紹介します。1つ目は、社外取締役が日常的には執行に関与していない中で、どれだけ適切なタイミングでネガティブな情報に接することができているかについてです。JTでは小さいことであっても常にタイムリーにメールで社外取締役に情報を共有してくれます。バッドニュース・ファーストであることは非常に重要ですが、JTはその頻度や内容についても理想的であると対話の際にお伝えしています。

2つ目は、取締役会が予定調和的になっていないかを確認されました。これについては、JTの取締役会では、喧々囂々議論すべきことと、共有だけでよいことを明確に分けてアジェンダ化していることをお伝えしました。これはバッドニュース・ファーストの原則により情報が取締役会を待たずともタイムリーに共有され、また、ボードで議論すべき物事のプライオリティがクリアになっているためです。アウトサイダーとしては、こういった考え方が徹底されていることをファクトに基づいて説明できるようにし続けなければならないと、気づかされた対話でした。

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JTグループにおけるサステナビリティ

山科

現在は歴史的な転換期にあり、企業は単に経済的な価値だけでなく、社会的な存在意義も追求する必要があります。社会的価値は時代とともに変化し、常に企業がその変化に対応していく必要があります。

昨年、社外監査役として直接現場の方々と接する機会がありました。現場を担当するマネージャー陣は、パーパスやサステナビリティに強い意識を持ち、スタッフとの間にはまだ温度差があるものの、変革が必要であることを理解し、丁寧に浸透させようとされていました。進捗や課題について話し合い、さまざまなアプローチからの取り組みを進めている姿勢から、現場が前進しようとするエネルギーを感じましたし、将来に向けた非常に力強い一歩が踏み出されていると考えます。

長嶋

昨年、リアルな現場を見学する機会を得たのですが、イタリアのミラノで、RRPマーケティング戦略の担当責任者とお会いした際、ナレッジエクスチェンジ的な観点から人財と組織が同時に成長機会を得ている事例を目の当たりにしました。その方は翌月からアメリカのマーケティングを担当することになったそうで、イタリアでの成功を活かし、実験的にチャレンジしていくとのことでした。これは、もちろんグローバルで活躍する人財の育成でもあるのですが、同時にそういった人財の貢献が組織の成長につながるので、やはり「人」が大事であると改めて感じました。

岩井

企業の価値を高めるというのは、まさに従業員の活躍があってこそですので、「人」が一番大切であるとずっと考えてきましたし、それを実現するための人事制度も進化させてきました。多様な個人がパーパスなどのJTグループの理念に共感し、貢献することで企業は成長しますし、それに対する報酬や成長機会の提供というのを企業は考えていく、そういった相互の関係性を検討していく必要があると思っています。

こうした人的資本への考えも含め、JTグループではサステナビリティ戦略を見直しています。企業としての成長とサステナビリティは常に両立するとは限らない部分もあると思いますが、地球環境や社会のサステナビリティの両立を継続して目指す中で、私たちの価値観が多様な人々や事業、商品により提供され、それが企業の成長になっていくと考えています。そういう意味で、本年公表したサステナビリティターゲットは、地球環境や社会の問題だけでなく、日常の事業活動に密接に関連しているものであるべきです。その考えから、事業そのものに関する項目をできるだけ取り入れるよう努めています。例えば、私たちの事業に必要不可欠な葉たばこを長期的・安定的に確保するため、人権や温室効果ガス、生物多様性といったさまざまな目標を設定しています。また、ターゲットを決定するプロセスには時間をかけ、取締役会やその他の機会でも議論を重ねており、JTグループにとっての重要性と世の中の要請がしっかり整合した内容にできたと考えています。

朝倉

経済的価値と社会的価値を両方成長させるというテーマは、どの企業でも重要なものだと思いますが、JTの取締役会でそのような熱い議論に参加することが楽しみです。また、実際の現場で日々事業を維持して奮闘されている方々が、どの程度サステナビリティターゲットを日々の活動に組み込もうとする意識を持っているのか非常に興味があります。議論が起こるのが健全だと思いますし、各現場でさまざまな議論が継続されることで、サステナビリティターゲットが本当の意味で根付くと思います。それをぜひ拝見したいですね。

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たばこ事業の「ワンチーム化」と企業価値向上へ向けた取り組み

木寺

たばこ事業の「ワンチーム化」というのは非常に意欲的な取り組みで、JTグループとしてグローバルナンバーワンを目指す上で不可欠な改革だと受け止めています。日本のたばこ市場も世界のたばこ市場も、すべてジュネーブのJTI が見る体制になりましたので、昨年10月に社外取締役メンバーでジュネーブに行き、JTIの幹部の皆さんと議論しました。私が印象深く感じた点は2つあります。1つは、さまざまな市場の分析を聞かせてもらったのですが、議論となるとめちゃくちゃ熱く、火傷しそうになるぐらい熱気を感じる。たばこ事業が1センチでも1ミリでも市場シェアを獲得する戦いをしていくためには、このパッションが必要なんだと痛感しました。

加えて、研究開発のワンチーム化も実施しましたが、これは世界各国に分かれていた研究開発形態をワンチームとしてより効率的に正確に結びつけていこうという試みと聞きました。市場が拡大する加熱式とも異なる形態のたばこの楽しみ方が生まれてくる可能性を感じ、期待しています。

山科

昨年、アジアの大きな拠点であるフィリピンのマニラを視察させていただきました。セールス部門、工場、ビジネスセンターがあり、そこでさまざまな国籍や経歴の方が活躍されており、グローバル経営とローカライズがうまくミックスされていることに驚きました。若くてエネルギッシュな方々の話も聞きましたが、彼らは競争がビジネスの本質であり、それに対する覚悟を持って取り組んでいました。今、まさにワンチームとなって、人財の交流も始まっていますので、おそらく日本でも同じような光景が実現すると思います。その結果、グローバルでの競争に向けて、さらにエネルギッシュでアグレッシブなカルチャーが形成されていくのではないでしょうか。

岩井

ワンチーム化に伴う社内制度・体制の見直しは概ね完了しましたが、今後の企業価値向上については、現在のたばこ、医薬、加工食品の各事業において、単に既存の領域における取り組みを延長するだけではなく、新たなアプローチが必要だと考えています。たばこ分野では、加熱式製品の開発を進めるとともに、その次の世代のたばこ製品の開発にも力を入れていく予定です。医薬分野でも、従来の領域だけではなく、新たな領域の探索も必要ですし、AI創薬のような新たな技術も取り入れようとしています。また、加工食品分野においては、既存の商品がコモディティ化していくと利益が減少するという課題があり、高齢化や健康志向などの社会のトレンドに合わせて、付加価値の高い商品を開発していきたいと考えています。JTグループ全体では、D-LABという組織が「心の豊かさ」をテーマに、将来の事業展開に向けたR&D的な活動やコーポレート・ベンチャー・キャピタル的な投資を通じた情報収集を行っています。小規模ではありますが、既に自社で商品を開発し、事業化させる取り組みも行っています。

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個人株主とのコミュニケーション

木寺

株主総会に足を運んでくださる個人株主の皆様は大変熱心で、さまざまなご意見を頂戴しています。昨年の12月末時点での個人株主比率が27.53%ということは、一般企業の平均よりもかなり高い割合です。これはJTが高配当政策を採用していることとも関連しているのでしょう。JTは個人株主を重視しており、これまでも株主通信の配布や、会社説明会を開催するなど意思疎通に努めてきましたが、これから先もそうした個人株主とのコミュニケーションをさらに充実させていく必要があると感じています。

岩井

個人株主が増加傾向にあるということは、その属性が多様化しているということだと思いますので、コミュニケーションの在り方は今後も検討してまいります。一方で、個人も含めた株主の皆様への還元については、アディショナルな株主優待や総会でのお土産ではなく、業績と配当でしっかりと還元することをメインに考えています。

朝倉

私の経験からお話しすると、資本市場との対話において大切にすべきことは、株主といかにコミュニケーションを図るかという一点に尽きるのではないかと思います。JTのような高配当政策は非常に魅力的な要素であり、今の方針をきっちり持ち続けることは大事です。また、これは機関投資家も含めた話ですが、いかにオープンにコミュニケーションするかというところが重要だと思いますし、継続していくことが大事だと考えます。

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さらなるガバナンス強化に向けて

岩井

取締役会の実効性評価の結果、2022年度に抽出された課題を踏まえ、2023年度は取締役会のさらなる監督機能強化、効率的な運営強化に取り組んできました。議論する時間をしっかりと増やすため、取締役会の事前に意思決定事項に関する網羅的で詳細な資料を用意した上で、いただいた質問に対する説明を行い、それを前提としながら取締役会では皆様からの懸念事項について議論し、最終判断をいただいています。議長として、説明と議論のバランスをどのように取るか、その点については非常に意識しています。

庄司

2022年度の課題に対して、私たちは改善を進めてきました。ワンチームの側面に関して、マインドセットの一貫性とパッションの共有はできています。しかし、マネジメントの実際においては、例えばJTとJTIの間での情報共有の在り方に関してギャップも存在するなど、まだ模索中の部分があると感じています。異なる価値観に基づく物差しの違いはポジティブな面もありますが、パーパス実現に向けて重要情報に関する扱いや共有について懸隔をなくす努力をさらに進める余地もあると考えます。

木寺

取締役会の実効性は、いかにオープンに議論できるかが肝であり、それは会社の雰囲気や社風に大きく影響されます。そのため、JTが活気と快活さに溢れた雰囲気を持ち続けることが重要です。私もそこに働きかけていきますし、現在の活気のある社風の継続が取締役会の実効性向上につながると考えます。

長嶋

事業の執行者は、常にグローバルな環境におけるさまざまな深刻な課題に直面しています。このような状況下では、常に最新の情報を把握し、対応していく必要があります。我々社外取締役は事業の執行を監督し、異なるバックグラウンドからのアドバイザリーを務める立場にあります。スキルマトリックスを整理していますが、それは過去の経験からの抽出であり、環境の変化と進化に対応するためにも、私たち自身も常にアップデートしなければならないと考えています。

山科

JTという働く場における、属性のダイバーシティだけでなく、思考の多様性も必要だと考えます。つまり、バックグラウンドや経験、価値観が異なる人々が、多様なアイデアを持ち寄って新しい価値を生み出すことが重要であり、企業価値の向上を目指し、新しい商品やサービスを社会や顧客に提供していくことが求められます。そのために、取締役会でもダイバーシティとゴールについて議論したいですね。また、JTでは、女性のマネージャークラスの育成に力を入れるなど、意思決定層でのダイバーシティや思考の多様性も重視しています。女性社員の方とコミュニケーションする場を作っていただいておりますので、属性と思考、双方のダイバーシティの側面で貢献したいと考えています。

朝倉

今日のお話を伺っていて、パーパスやサステナビリティターゲット、ワンチームなどについてはまだまだ日が浅く、さらに浸透させていく必要があると認識しました。立派なパーパスが制定されたことで、これらの要素をどうやって個々の従業員に浸透させるかが重要であり、それが企業価値につながると考えています。この点について、方法論を含めて議論させていただきたいです。

岩井

いろいろな視点からご意見をいただき、ありがとうございました。変革したものを、今後、本当の意味で定着させることが重要だと捉えています。中長期的に、JTグループが財務的な価値だけでなく、社会的価値も提供できるようになるかどうかは、現場や個々の取り組みにかかっています。執行メンバーがパーパスの実現に向けた具体的な取り組みを行う一方で、それが組織全体に浸透しているかどうか、またさらに進めるためにはどうするか、などについて、定期的に取締役会で議論することが重要だと思います。引き続き、皆様のご支援をお願いします。

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(座談会実施日2024年4月)