-
副社長メッセージ
- 分割PDF
JT Group Purposeのコンセプト
今や世界の社会経済情勢は、マクロ・ミクロのさまざまな要素が複雑に作用しあい、我々の想定を超えて、見通すことができると思うことが傲慢とも思えるほどに、変化が立て続けに起こっていくという状況にあります。テクノロジーとサイエンスの飛躍的な進展、また、新型感染症の流行や大規模な自然災害、そして、テロリズム、国際紛争、大国同士の安全保障の動きに加え、保護主義の台頭、さらには世界規模のインフレ進行や為替の大幅な変動といったように、その変化も極めて多様です。そして、それらは人々の暮らしや価値観ひいてはJTグループの事業活動や企業としての在り方にも直接的・間接的な影響を与える可能性があると考えています。
これまでJTグループは、たばこ事業を中核とし、医薬事業と加工食品事業が補完する役割となって、利益成長を遂げてきました。それは常に先を見据えた試行錯誤と挑戦を繰り返すことにより、その提供価値が各ステークホルダーに認められてきたことによるものだと思います。しかし、現在のように、変化が激しい事業環境下ではどうでしょうか。これまでのように、既存の業界の枠組みや常識、ルール、慣例の中で、既存の市場や既存のお客様、既存のコンペティターを想定して取り組みを継続するだけでは、世の中の変化に適応することさえ困難だと感じています。
不確実性・複雑性の高い社会の中でJTグループが持続可能な事業・企業体であり続けるためには、改めて我々が目指すべき方向を示さなければなりません。つまり、JTグループが理想とする社会とはどういうものか、その中でJTグループが社会から一番の信頼をもって任され、価値の提供に貢献できる生活者の領域とは何であるのか、そしてJTグループがなぜ貢献できるのかを同定する必要があったということです。今回策定したJT Group Purposeはそうした検討の結果であり、CEOメッセージの中で寺畠CEOが述べたように、「製品やサービスを通じて、⼼の豊かさを感じる瞬間に常に寄り添い、ともにその瞬間を創り上げること」が、JTグループが⽬指す最⼤の価値領域であると判断しました。我々JTグループはJT Group Purposeの実現に向け、さらなる活動の深化や既存の概念を超えた新たな取り組みにより、絶えず進化に挑戦していきます。
策定までの道のり
JT Group Purpose 策定プロセス
JTグループの短期的な課題と長期的に目指す姿は、連続性がありながらも時間軸の観点で直接的に結び付けることが困難であり、JT Group Purpose策定に際しては、このギャップを埋める作業が最も大きなハードルでした。なぜならば、現在の社会・事業環境やJTグループの企業価値・社会的価値向上に向けた取り組みからの「フォアキャスティング」の視点と、将来からの「バックキャスティング」の視点を道筋としてつなぐ必要があったからです。バックキャスティングに基づいて洗い出された課題は、JTグループにとって、短期から中期での目標達成に必要となる課題・取り組みと一致するとは限りません。企業価値を向上させながら、事業活動を通じて社会の持続的発展に貢献する必要がある一方で、短期的な成果も求められます。具体的には、社会や資本市場に対して開示している業績予想や中期経営計画における目標の達成といったものであり、将来目指す姿を実現するための原資を確保するという観点からも必要なことです。
このような状況において、「Purposeを策定する」という作業は、各事業部門に対して「短期的な課題への取り組みを優先すべきか、それとも長期的な観点での目指す姿の実現に向けた取り組みを加速すべきか」という選択を迫ることにもなりかねません。それを避けるため、社内での対話にはかなり時間をかけて取り組みました。対話においては、「目指すべき姿は過去、そして現在の取り組みの先にある」ということ、一方で、価値観がより多様に変化していく中において、「現在の取り組みだけが目指す姿を実現するための手段ではないこと」の2点を特に重視しました。
このようにハードルこそありましたが、対話を重ねてきたからこその産物もありました。それが「事業Purpose」です。JT Group Purposeを策定し、これを周知するにあたって、先述した通り、長期的な観点での目指す姿と短期的な課題との間のギャップにより社内に疑問が生じる可能性がありました。それは「JT Group Purposeの実現に向けて、個々のレベルでは何をすべきか」というものです。「事業Purpose」はこの疑問に答え、同時に、事業として、また従業員一人ひとりが取り組むべきことは何か、それを具体的に理解し、実践できるように指針を示すものとなります。
JT Group Purpose 策定プロセス
込めた想い:JT Group Purpose策定の意義
JT Group Purposeの策定にあたって、特に考慮したのは「未来の社会像」と「JTグループが大切にしてきた価値」の2つです。
未来の社会像
まず、未来の人々の生活・価値観がどのように変化するかについて、いくつかの大きなトレンドをベースに、今後起こりうる可能性を検討しました。そのアウトカムの一つは、サイエンス・テクノロジーの進展を背景に、より便利で合理的、つまり最適化された方向へと向かっていく蓋然性が高いということです。ただ、生き物である人間は、すべての物事を最適化という物差しだけで評価し選択しているわけではありません。そうした認識の中で我々は、最適化を追求するがゆえに生じる制約やストレスへの反動として、不便や非合理の中に感じていた「何かの意味・意義」に一層の価値を感じる、そのような揺り戻しが起こるのではないかという仮説を持っています。それは、極めて情緒的なものであり、感じ方は人によってさまざまであるため、果てしなく多様化しながら、各々が持つ意味のもとで、この世に存在し続けるのではないでしょうか。
このような生活者の未来においては、一見非合理・無駄に見える生活の中にある、一人ひとりが「心の豊かさ」に気づく瞬間、その “とき”に寄り添い続けることにより、それが積み重なり、作用しあって、社会、世界、ひいてはさらなる未来の人々の「心の豊かさ」が形成されるのではないかと思います。そして、その中でJTグループが提供する価値とは、世界で暮らす多くの人々が(困難な状況に直面している人であっても)、「ああ今日はよい一日だったな」と感じられる、そのような心豊かな社会・未来づくりに貢献することなのではないかと我々は考えています。
JTグループが大切にしてきた価値
この提供価値は、JTグループのこれまでの事業活動に内在し続けてきたものです。1968年、JTが日本専売公社であった当時策定した、長期経営計画の中に「人の心に豊かなよろこびを提供する」という記載があります。以降、民営化・多角化・国際化を経て、たばこ・医薬・加工食品の3事業体制となった今日まで、我々は「心の豊かさ」について問い続けてきました。そして、未来において、この「心の豊かさ」は社会にとって一層重要なものとなるでしょう。
生活者が感じる「心の豊かさ」は、時代や社会背景、また、人の数だけさまざまで、絶えず変化していくはずです。そうした未来に求められる「心の豊かさ」は、現在のJTグループのプロダクトやサービスの先に存在し、あるいは全く別のものかもしれません。JTグループがこの領域を一番の信頼をもって社会から任せてもらえる存在であるためには、絶えず進化することが必要であり、「もっと」という表現にはそうした想いを込めています。
JT Group Purpose実現への道のりは長く、はっきりとした道筋が見えているものではありません。実現に向けて世の中のさまざまな変化に対応していかなければならず、あらかじめ決めた方向や道のりが正解とも限りません。ただ、不確実な環境の中で大切なのはJTグループの「こう在りたい・こういう世の中を作りたい」という意思だと思います。それがあるからこそ、日々の取り組みに多くの意義を見つけ、成果にも一層の価値を見出すことができます。JT Group Purpose「心の豊かさを、もっと。」とともに、その実現に向けた取り組みを続けることで、JTグループの存在意義を世の中に問いかけ続ける、それがJT Group Purpose策定の意義です。
JT Group Purpose実現に向けて
JT Group Purposeの実現に向けた、我々のこれからの価値創造のプロセスを改めて整理しました。検討にあたっては、自然と社会の持続性があってはじめて、人の暮らしや企業の活動が持続的となるということを基本に置いています。そうした自然や社会の中に存在するJTグループは、これまで積み上げてきた自グループの資本のみならず、自然や社会の資本を活用し、さまざまな製品・サービスを通じて、一人ひとりが「心の豊かさ」に気づく瞬間、その“とき”に寄り添っていきます。そのことを通じ、ステークホルダーの皆様との、そして皆様同士の共創によって、一人ひとりの心豊かな“とき”が作用し合って積み重なっていく、そんな心豊かな社会づくりに貢献していきたいと考えています。その一連のストーリーを概念的に表現したものが下にお示しする「価値創造の考え方」です。
ただ、このように我々JTグループが、心豊かな社会づくりを一番の信頼をもって任される存在になるためには、JTグループの一人ひとりがJT Group Purpose の背景にある価値観について考え、自らの仕事の意味づけをし、取り組みを積み重ね、進化していくこと、そうした一人ひとりの取り組みを通じて、ステークホルダーの皆様からの共感をつくっていくことが必要です。そして、すべての活動の起点が従業員であるからこそ、JT Group Purposeを従業員一人ひとりまで浸透させることが欠かせません。私も含めた経営陣は社内への浸透に今まさに力を入れて取り組んでいるところです。具体的には社内通信といったメッセージの発信だけでなく、自らの言葉でJT Group Purposeに込めた想いや期待することについて、直接伝えるタウンホールミーティングの開催や拠点訪問などを行っています。特に「心の豊かさ」についての理解は重要ですが、「心の豊かさ」の捉え方は人によって、またときや場所によってさまざまに変わるものです。したがって、社員との対話にあたっては、JT Group Purposeの実現するための手段は固定化されておらず、自らが変化し、考え、実践していくことが重要であることを伝えるようにしています。参加した従業員からは概ね好評で、「これまで大切にしてきた価値観と合致している」、「道標ができた」といったコメントが出てきており、手応えを感じています。一方、「具体的な業務や行動への落とし込みが難しい」といったコメントがあることも認識しており、今後は具体的な事例を紹介するなど、引き続き丁寧なコミュニケーションを図ってまいります。
JT Group Purposeの実現に向けた道のりは始まったばかりです。JT Group Purposeを踏まえ、実現に向けた具体的な考え方につき社内でさまざまな検討を行っておりますが、その成果を通じてJT Group Purposeの解像度を高めていきたいと考えています。そして、JT Group Purpose実現が貢献するであろう未来の社会像実現に向けて、JT グループ一丸となって弛まぬ進化に挑戦してまいる所存です。
社員との対話セッションの様子
-
寺畠CEO
-
廣渡副社長
-
中野副社長