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会長・社外取締役座談会
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将来のJTグループのため、そしてより良き社会の実現に向けて、ガバナンスの観点から語っていただきました。これらの議論の一部をご紹介いたします。
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岩井 睦雄
取締役会長
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幸田 真音
独立社外取締役
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長嶋 由紀子
独立社外取締役
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木寺 昌人
独立社外取締役
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庄司 哲也
独立社外取締役
JTのコーポレート・ガバナンスをどう見ているか
経営理念である「4Sモデル」の追求に向けたコーポレート・ガバナンス
岩井JTは監査役会設置会社として、客観性と中立性を確保した経営を行い、その監督機能を強化してきました。取締役会のスリム化や執行役員制度導入に加え、2012年に社外取締役制度を導入し、現在では取締役9名のうち社外取締役が4名の構成です。また、委員全員が執行役員を兼務しない取締役であり、その過半を独立社外取締役で構成する人事・報酬諮問委員会を設置するなど、実効性のあるコーポレート・ガバナンス体制を構築してきました。
JTグループでは、コーポレート・ガバナンスを経営理念である「4Sモデル」の追求に向けた透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みと捉えています。この度更新したJT Group Materialityにおいては「良質なガバナンス」を重要課題として定め、さまざまなステークホルダーの満足度を高め、信頼される企業体であり続けられるよう、ガバナンスのさらなる強化に取り組んでいきます。
幸田私は、社外取締役制度が導入された2012年の6月から社外取締役を拝命し、さまざまな国のJTグループの工場や葉たばこの生産地などの視察に行く機会に恵まれてきました。最近もブラジルの現地法人に伺いましたが、改めて実感したのは「4Sモデル」の着実な浸透度です。工場であれば、そこで働く方々の安全が第一であることを強調されていますし、葉たばこの農場では農家の方をすべての中心に据えている。さまざまな場面で「人」を大切にされていることが伝わってきます。
JTではどんな議論をするときも、意思決定する際も、あるいは何かネガティブな事象があったときの対処でも、根差すところは4Sモデルであり、「人」が中心になっています。現場も含め、ここまで徹底されている企業はほかにはあまり見当たりませんし、これこそがJTの強みだと思います。
長嶋4Sモデルに関しては、驚くほどJTグループの血肉になっているのを感じます。それは長い時間をかけた定着のプロセスがあったのと同時に、たばこという事業をいかに正しく運営しなくてはいけないのかということに根差していると考えています。その正しさを4Sモデルに照らし合わせてやっていくことによって、それぞれの組織で血肉にしていく日常があるのだと思います。
木寺JTはまさにたばこ事業の難しさと向き合いながら、長年の積み重ねでガバナンスに関する重要な側面を体得しているように感じます。たばこ事業を進める上では、JT本社だけでなく、グループ全体にガバナンスが行き届かないと事業が成り立たないという認識に立っているからこそ、体に取り込まれているのではないでしょうか。
庄司ガバナンスを行き届かせるための体制については、社外取締役の構成を見ても分かりますように、取締役会の多様性とインクルージョンが重要な意味を持っていると思います。バックグラウンドも専門も経験も多岐にわたることで皆さんいろんな切り口をお持ちだし、視点や問題意識の持ち方を事業そのものに合わせるというよりも、自分が経験してきたことを踏まえて、判断できる材料を持ち寄って議論することができています。こうした多様な観点に基づく議論が有効な助言の提供、あるいは適切なディシジョンメークにあたってのサポートにつながっていると思っていますし、社外取締役の意見や指摘を真剣に取り上げていただいている実感もあります。
岩井4Sモデルは上場する際に自分たちがどうあるべきかを考えた上で定めたものですが、4Sモデルの策定とその後の浸透をずっとやってきた身からすると、現場でも感じていただけたというのは大変ありがたいです。ガバナンスという言葉は「管理・監督する」と日本語では訳されていますが、元々は「船の舵を取る」という語源から来ているのですね。ですから、今回策定したJT Group Purposeをしっかり見据え、JTグループという船を正しい方向に進めるために4Sモデルを活用するというのがJTのガバナンスだと思っていて、進む際に近道があっても正しい道しか行かない、それがゆえにリスクを取りながらも進むことができると考えています。それを実現するために、社外取締役である皆さんからご意見を忌憚なく出していただけるような、そういう場を作るのが私の役目だと思います。
JTのガバナンスにおける課題とは
長嶋課題として、もし「ガバナンス真面目にやり過ぎる病」というものがあるとしたら、時々自分たちがそれにかかっていないかということを見直すことがあってもいいのではないかと思います。これは何事にも真摯に取り組むカルチャーがあるからこそだと思いますが、その裏腹にやり過ぎ感に注意というのは思うところです。先ほどお話があったように、ガバナンスが船の舵取りとすれば常に操舵の技術は上げていかなくてはいけないですし、それ自体が進化することだと思うのですが、そもそも何のためにやるのかという、そこは留意しながらアップデートすべきでありバランスが必要なのではないでしょうか。
木寺日本社会では手段と目的について、しばしば手段を目的化することがあります。「これ何のためにやるのですか」と聞くと「やることに意義があるんです」という答えが返ってくることがある。社外取締役に就任以来2年経ちましたが、JTではそういう手段の目的化というのは一切ありません。さすがグローバル化の中で仕事をしているJTの良いところであり、本質を追求する適切な課題設定ができているなと思います。
庄司4Sモデルや新たに設けたパーパスをいかにグループの隅々まで浸透させ、実践につなげていくかというのは、これからも課題となるでしょう。規模の大きいたばこ事業も含め、東京の本社から管理する経営形態をとっている以上、舵が正しい方向に取られ推進力は適切かということを我々がチェックする必要があります。一方で、たばこ事業がOne Teamとなりその本社機能がジュネーブに移る中で、権限移譲も含めたいろいろな機能シフトが起こっておりますが、それを突き詰めていったときに日本からのガバナンスはどうあるべきかを改めて問われるステージに入ってきていると認識しています。これについては、グループとして一つのパーパスや4Sモデルという物差しを持っていますので、それを主軸にして検討していくのだと思います。
幸田JTは俯瞰してみると、元々が専売公社ということもありDNAとして堅いんですね。生真面目で、取締役会に上がってくる付議の仕方も完璧。ただ、JTの人たちは完璧でも満足しないんです。「さらにブラッシュアップしよう」「さらに改善しよう」というDNAがある。説明いただく際にちょっと意地悪な視点で質問をぶつけてみても、真摯に検討して、具体的にアクションを起こす。それがJTをここまでずっと維持されてきた原動力なのかなと。それはとても大事なことなのですが、ときにいささか堅物過ぎることで、もしかしたら融通が利かないとか、あるいはチャンスにおいて、慎重であるがゆえの機会損失にならないかと思っています。
それと、グローバル企業であり、日本の企業の中でも率先してD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)に注力して社会的な貢献も積極的なのに、謙虚過ぎるというか。いろいろなチャレンジをしてベストを模索している姿をもっと外に見せてほしい、情報発信の努力がもう少し必要かなという気はしています。
岩井幸田さんからは、いつも外に向かってもっとPRをすべきだとご指摘いただいています(笑)。
また、完璧さとスピード感という点で、往々にして完璧さの方に寄ってしまうみたいなことがあります。一方で、大きな決断はとてつもなく早く決めてしまうこともあり、今後のガバナンスの視点からは、特に大きな投資実行の振り返りを今まで以上にしっかりと取締役会でもやっていくと、意思決定が進化していくのではないか。そういう意味で私自身の課題は、社外取締役の皆さんと執行側が持つ情報の非対称性みたいなものを完全にとはいかないまでも解消する努力をし、例えば現場の人間との意見交換も積極的にしていただきながら、皆さんに議論をしていただくことです。
中期的な課題で言えば、JTは監査役会設置会社としてしっかり機能はしていますが、今後もコーポレートガバナンス・コードなど、世の中で求められる内容の理解を深めながら、JTのガバナンス体制がしっかりと機能しているかについて都度検証していくことも重要と考えています。
JT Group Purposeへの期待とその実現に向けた取締役会の役割とは
JT Group Purpose 心の豊かさを、もっと。
木寺新たに策定されたJT Group Purposeは、普通の企業では見られない際立った内容だと思います。これはたばこ事業の難しさとつながっていて、このパーパスがないと乗り越えていくことはできない。今会社がやっていることを当たり前として捉えて、それをそのままパーパスに置き換えるならパーパスは要らないですが、JTのパーパスは今を乗り越えるためのものです。今後は、JT Group Purposeを北極星として社内での議論を進め、実践につなげていただきたいと思います。
庄司まさにおっしゃる通りで、JTが事業を営む上で、何を世の中に、市場に、人々に提供しているのかを確認する一つの目的というか、「これがあるから我々はやっているんだ」と再認識できる道しるべ、目標ができたと言えると思います。これは我々が共通的に持てる「人財」というバリューを高め、また各々が自分自身の事業としてコミットする意義を確認できる術が整ったということだと思います。
幸田私はJT Group Purposeはものすごく深いテーマだと受け止めています。大きく言えば、資本主義とか人間の営みの根幹というか、これまで我々人類は豊かさを求めて突っ走ってきましたが、ここへ来るまでにいろんなものを犠牲にしてきたかもしれないという反省もあります。そこでJTは、問題提起も含め大きなチャレンジをしようとしているし、そういう意識を常に社員にも求め、さらに深めていこうとしている。じっくり時間をかけてこのパーパスを大切に育ててほしいなと願っています。
長嶋私はプロジェクトチームに、きれいなパーパスを作るよりも、従事される方々のオーナーシップに紐づく「これが自分たちのパーパスなんだ」、というものになっていくプロセスが大事なのではないかと申し上げました。よくぞ、そのプロセスに本当に時間をかけられたなという思いです。確かに時間はかかりましたが、かけたことによって関係されるそれぞれの方が自分のものにしていく、生きたものにしていくプロセスとなったことが素晴らしいなと感じています。
岩井社会がどう変わっていくかという部分と、自分たちに何ができるかというところをパーパス検討の中で掘り下げていきました。さまざまな発展を経て効率一辺倒になっている社会の中で、人間性を取り戻すということがより大切になっていくだろうと。例えば、たばこという製品が提供してきた嗜好品的な心の豊かさは、今後の社会において役に立つかではなくて意味があるかという観点では、これからも価値があるのだろうと考え、今回のパーパス策定につながっています。
私たちは、さまざまな人が持っている主観的な心の豊かさをすべて網羅することはできないと考えています。いろいろな心の豊かさや時間軸の中で、そして多種多様な生活の局面の中で、私たちができることはそれほど多くはありません。ですから既存の事業だけでなくて、これから新規事業、また新しい商品を考えていくときに、そして取締役会で意思決定するときにもパーパスがあまりにも広くて何でもできるということではなくて、その中でJTができて、なおかつ社会も求めていて、というところはここだよね、ということが議論できるといいと思っています。
幸田我々も含めJTの人たちって、外から見たらとても青臭い議論を結構熱心にする組織なんですよね。それがJTの良さだと思いますが。
庄司心の豊かさは人それぞれで、受け止めも解釈もいろんな形で成り立ちますが、今回、心の豊かさを提示する企業になりたいというときの一つの判断軸が非常に明確になったわけです。我々4人いても、4人の持っている豊かさの物差しは違いますが、そういった違いを議論する場が取締役会であり、先ほど言われた青臭い議論というのがまさにそこだと思うんですよね。原点に立ち返り、確認することは常に必要ですし、また豊かさという解釈も時代や技術とともに変わっていくのだったら、例えばそれを我々の商品やサービスにどう活かしていくべきかという、つまり一消費者、あるいは市場、世の中の目としての議論ができる取締役会を形成していくことこそ我々の役目なのだと理解しています。
木寺青臭い議論というのは私のおりました外交の世界でも結構似たところがありまして、やはりそもそも何をすべきなのか、どうしたらいいのかというのを考えるときに、青臭い議論から始めないと出発点を間違うわけですね。だから今も、いい出口を見つけるためには青臭い議論をどんどんやろうよ、という気持ちでいます。
長嶋青臭い議論は私もしていきたいと思います。一方で、マーケットの期待にも応える必要があるので、スピード感を意識した形でも貢献していきたいですね。
取締役会での議論との向き合い方について
幸田JTでは取締役会の事前に、付議内容について丁寧な説明を受けています。最近は社外取締役4人全員で同時に受けることが定着してきましたが、この事前説明は情報共有・意見交換の場としてとても大事で、かなり突っ込んだ質問もさせていただいています。そういったときも執行側からすぐに丁寧なフィードバックをいただけますし、どんな付議であってもその内容だけでなく、関連するリスクや対応についても説明を受けています。とてもフェアな付議の仕方を実践されていると常に実感するところです。
庄司私はまだ就任2年目のため、ほかのお三方に比べると情報量も含めて、ギャップが当然あるわけです。そういう意味では事前説明のときに、ここまでに至った経緯を確認することもありますし、私だけ時間を別にとって補足的に説明いただけたりもするので、取締役会までにその理解を深めることができます。執行側がやりたいことをどうしても通したいという意思見え見えの議題って、結構他社ではあると思うんですが、JTではとてもフェアに議事を提示され、トランスペアレントに議論できるので助かっています。
長嶋岩井会長も先ほどおっしゃられた情報の非対称、これはJTの中で執行をやられてきた方々と我々との違いであり、埋まるものでもないし、無理に埋めるものでもない。そこが対称じゃないからこそ社外の貢献価値がある、というアウェーの立ち位置をすごく大事にしなくてはいけないと思っています。
その上で、情報が透明であることはとても大事で、そのファクトをどの立ち位置で見るかは違っても、ファクトそのものが欠けていてはいけないのですが、それはしっかり担保されています。
木寺社外取締役の役割というのは、どこの会社でも同じなのだというものでは決してなくて、各会社によってそれぞれ違うと思いますが、JTでは執行側と社外取締役側の呼吸のバランスが合っているなと感じます。社外取締役が執行側を監督するなど本来機能を発揮しなければいけないことがありますが、監督という言葉だけが独り歩きするのではなくて、両者での呼吸合わせでその実態が生まれていると、実感しています。
資本市場との対話について
幸田私が社外取締役に就任した2012年当時の株主数は5万1千人だったのですが、2022年末の株主数は70万人を超えています。機関投資家のダイベストメントがあっても、その分、JTは盤石な財務体質を堅持しつつ株主還元を行うことで、個人株主の方々が託してくださっていると理解しています。
ただ、近年海外市場で起きた、企業の実態を無視したような個人投資家の動きを見るにつけ、IRはもちろんですが、それだけでなくてPRという面でも正確な情報が伝わるようしっかりとコミュニケーションを図っていく必要があると痛感しており、これからJTが取り組んでいかなければいけない大きなポイントの一つになるのではないかと考えています。個人投資家の皆様に支えられて、いま事業をしているという事実を踏まえ、それに対してどのように対応していくのかというコミュニケーションの重要性を常に感じています。
長嶋1年を振り返って、個人株主のシェアが歴史的に非常に高くなったJTではありますが、マーケットでは一般的には機関投資家がよりアクティブになって、それに対してどのようなダイアログを能動的にやっていかなくてはいけないのかについて勉強会を行っています。改めてJTの立ち位置を踏まえてどうダイアログすべきか、それは執行側が優先順位を持って検討されていますけれども、それで本当にいいのかというところも含めて、我々自身のアップデートの機会も作っていただいています。そういった場において社内、社外といった立ち位置の違いを上手く活用したプレッシャーを感じる研鑽ができれば良いなと考えているところです。
岩井資本市場・株主の皆様に対しても、私たちはやはり4Sモデルに則り、満足度を高めることに責任を持ってやっています。その責務をどのように果たしていくかということをしっかり議論をさせていただいて、資本政策や投資の優先順位、株主還元といったポリシーについては引き続き明確にお伝えしていきたいと考えています。
また、今回パーパスという長い目で進むべき方向性もはっきりしましたので、それを有言実行で具体的な事業活動でお返しして、株主・投資家の皆様のみならず、お客様や社員に対しても、価値を提供していきたいと思います。いろいろな課題は出てくるとは思いますが、その克服や戦略の組み替えについては、取締役会も一緒になってしっかり議論していきたいと思います。