2024/04/12

COLUMN

ファイナルステージは惜敗の末に4位
一人一人が着実な成長を遂げた
2023-24シーズン

すべてを出し尽くしたが、メダルまであと一歩という結果で幕を閉じた。ファイナルステージ。もっと強くなる、とそれぞれが心に誓い、新たな挑戦がまたここから始まる。

――激闘のフルセット。2時間28分に及ぶ攻防の末、相手が放ったスパイクがJTサンダーズ広島のコートに落ちる。つなごうと、リベロの唐川大志は懸命に足を伸ばすも届かない。13対15、セットカウント2対3で敗戦が決まった瞬間、コートに立つ選手たちは崩れ落ち、立つことができなかった。
すべてを出し尽くした。その姿が、悔しさのすべてを物語っていた。

役割を果たした武智「苦しい時こそ自分の姿で何かを見せたい」

ファイナルステージ進出は4シーズンぶり。6チームによるトーナメント戦は、レギュラーラウンド1、2位のチームこそ試合数に多少の優位はあるが、それ以外はすべて同じ。勝てばつながり、負ければ終わる。2014/15シーズン以来となる優勝に向け、士気は高まっていた。
レギュラーラウンドは4位で終えたが、終盤はやや苦しむ試合も目立った。すべてのチームデータも揃い、ファイナルステージを見据えた戦いを繰り広げる中、コンディションが整わない選手もいれば、前半と同じようにプレーしても相手に対策されて決まっていたスパイクが決まらない。些細なズレが結果にもつながり、敗戦の数が増え、出場機会が減っていく。ファイナルステージに向けて焦りや不安を抱く選手もいた中で、チームのために、力を尽くしたのがアウトサイドヒッターの武智洸史、山本将平といった在籍年数も長く、豊富なキャリアを持つ選手たちだった。

中でも「自分のやること、役割は変わらない」と言いながらも、確かな存在感を発揮したのが武智だ。武器であるディフェンス力を活かし、相手のサーブで攻められる中でもミスを出さずに確実にパスを返す。「監督からもディフェンス面を期待されているのはわかっていた」と武智も自身が果たすべき役割を理解していた。
加えて、プレー以外の面でも意識して取り組んだことがあった、と明かす。
「チームとしてアウトサイドヒッターの軸になるべき存在は新井雄大と坂下純也。2人のことを監督も信じているし、僕らも信じている。だからこそ、彼らが苦しい時やしんどい時に僕のプレーもそうですけど、いかに支えることができるか。もちろん1人の選手としては試合に出続けたいし、どの試合も出て活躍するために頑張る、頑張っていることに変わりはないですけど、それだけじゃないところにも視野を向けてやらないといけない。プレーだけじゃなく、自分の姿で何かを見せたり、伝えられるものがあれば、というのはすごく意識するようになりました」

言うまでもなくVリーグは日本最高峰のリーグで、所属する選手たちは学生時代にそれぞれのチームで主軸を担い、輝かしい活躍を残してきた選手ばかり。その中で選ばれし選手たちがコートに立つ中、全員が全員、満足いく立場を担えるわけではない。だが、だからこそ今自分に果たせる役割は何か。それぞれが全力を尽くす。
そして、その姿からまた、自分の果たすべき役割を再認識して、再びコートで心を燃やす。「自分の姿で何かを見せたり伝えられるものがあれば」という言葉を体現するごとく、ファイナルステージで躍動したのが新井と坂下だ。初戦の日本製鉄堺ブレイザーズ戦でスタメン出場した新井は、ブロックが2枚、3枚と揃う中でも高い軌道のトスをそのまま豪快に打ち抜くスパイクで会場を沸かせた。それが自分の役割だと認識していたからだ。
「守備がうまい選手がこれだけいる中で、自分が起用される。苦しい場面でこそ攻撃してくれ、というのが起用されている意図だと思うので、そこをくみ取って他のメンバーには出せない自分の強さを出そうと、おもいきり打ちました」

「ワンタイム」の声かけ、ラッセルが見せたプロフェッショナルの姿

準決勝のパナソニックパンサーズ戦では、新井に代わって坂下がスタメン出場した。レギュラーラウンド1位の相手に対しても、巧みにブロックを利用した攻撃や、強打も身体でつなぐレシーブを何度も見せた。第1セットは9対5とリードを得る最高のスタートを切ったが、パナソニックパンサーズの猛追に屈し、ストレート負けを喫した。「1本取れたら流れが来る、というところで取り切れなかったのが悔しい。(1本を)取り切れるチームにならないといけない」と反省を述べたが、同時に、ある選手への感謝も述べた。
対角に入る、アウトサイドヒッターのアーロン・ジョセフ・ラッセルに対してだ。
アメリカ代表としても活躍し、昨シーズンからJTサンダーズ広島に加わった。サーブレシーブも誰より多くの数を受け、前衛、後衛、チャンスでもピンチでもいかなる時も打つ。コートで見せるプレーは誰より頼もしい。そんな姿は見ていても伝わって来たが、コートの中でのさりげない振る舞いにいつも助けられていた、と坂下が明かす。

「僕は小さいから、ブロックに対してどう攻めるとか、いろいろ考えてやってきたつもりなんですけど、ロンは2mある選手なのに同じようにブロックに対してうまく攻めるし、何より一つ一つのプレーがうまい。日本なら180cmの選手がやるようなプレーを2mの選手にやられるとかなわないな、と思うことがたくさんありました。でもそれ以上に心強かったのは、試合の大事な時、ここは落としちゃいけない、というところで必ずロンがコートの中で声をかけてくれるんです。ここは集中しよう、という意味を含めて“ワンタイム、ワンタイム”と全員の目を見て言ってくれる。そういう一つ一つの振る舞いが、プロだな、と思ったし、一緒にプレーできていろんなことを教えてもらいました」

昨シーズンの7位から4位へと引き上げた最大の功労者は、今シーズン限りで広島を去る。これからのチームの柱となっていくであろう選手たちの成長が「素晴らしかった」と敗戦の後でも笑顔で称えた。
「新井選手も坂下選手も、特に今シーズンは本当に成長したし、本当にいろいろな話をしました。彼らの成長が見られて私も幸せでしたし、ファイナルステージという大事な試合を経験できたことは、きっと彼らのこれからに、よりよいものになるはずです」

勇退の指揮官「“ありがとう”と伝えたい」

ラッセルだけでなく、オポジットの江川とラウル・ロサノ監督も今シーズン限りでチームを離れる。3位決定戦はこのメンバーで戦う最後の試合。何が何でも勝って終わりたい、という気迫が随所で満ち溢れていた。
1プレー1プレーに、それぞれの思いが込められている。決して大げさではなく、その1本にかける思いを自らに投影して語ったのが、主将の井上慎一朗だ。
「僕自身もリーグ中は少し出る機会もあった中、ファイナルステージになってからは一度もコートに立つ機会がないまま、(セミファイナルの)パナソニックパンサーズ戦で負けたことが、すごく悔しくて。チームに対して何も力を与えられなかった、ということが本当に悔しかった。だから、たった1点でしたけど、あの1本、1点は自分らしくやろう、と思って出し切った1点でした」

すべてをぶつけ、出し尽くしてもなお勝利をつかみ取ることができなかった。この悔しさも、きっとこれからを戦う一人一人にとって、紛れもなく貴重な経験となり、力になるはずだ。それぞれの胸に残る「あの1本」への後悔と、次こそは、という決意と共に。
2シーズン、JTサンダーズ広島の指揮を執り、成長への礎を築いたラウル・ロサノ監督が言った。
「フィジカル、スキル、メンタル、すべての面で成長を遂げたことは明らかで、今日(の3位決定戦)の試合も数字が証明しています。まだまだ伸びしろのあるチームで、この2年、規律を正し選手たちと共に体育館で過ごした時間は幸せな時間でした。素晴らしい選手、スタッフたちに、心から“ありがとう”と伝えたいです」
メダルまであと一歩。その壁を超えるべく、新たな挑戦がまたここから――。もっと強くなる、とそれぞれが心に誓って。